【終了レポート】令和8年度【アドバンス】ナッジを活用して住民の行動をデザインする~明日から使えるナッジ講座~

2026年10月1日

1 はじめに

令和8年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー「ナッジを活用して住民の行動をデザインする~明日から使えるナッジ講座~」を、令和8年8月24日(月)から8月25日(火)までの2日間にわたり開催しました。本セミナーには、地方公共団体等から合計16名が参加しました。

2 今回のテーマ

本セミナーは、行動経済学に基づく「ナッジ」の基本的な考え方や実践手法を学ぶとともに、行政課題への具体的な活用方法について理解を深めることを目的として開催しました。これにより、参加者が住民の行動変容を促すための知識やスキルを習得し、各地域における施策立案や事業改善に活用することを目指しました。

3 講義内容

(1)講義①「ナッジの全体像をつかむ」
講師:福井市ナッジ・ユニット 梅田 佳孝 氏

講義では、ナッジを「人々の行動を望ましい方向へそっと後押しする手法」として位置付け、その基本的な考え方や行動経済学との関係について解説が行われました。富山市のピアノ階段や投票型吸殻入れ、ファミリーマートで賞味期限が近づいた商品に貼られる涙目シールなどの事例を通じ、楽しさや心理的効果を活用した行動変容の仕組みが紹介されました。

また、行動経済学の基礎として、人は必ずしも合理的に行動しないことや、損失を利益よりも大きく感じる「損失回避バイアス」について説明がありました。さらに、ナッジは強制や罰則を伴わず、低コストで導入できる一方、選択の自由を維持するという特性上、その効果には一定の限界もあるため、情報提供や補助金、規制などの他の政策手法と組み合わせて活用することが重要であると紹介されました。

国の各種計画にもナッジや行動変容の考え方が取り入れられつつあることが示され、行政施策におけるナッジ活用の可能性について理解を深めました。

(2)講義②「ナッジを設計してみよう」
講師:福井市ナッジ・ユニット 梅田 佳孝 氏

講義では、ナッジを実践的に設計するための基本フレームワーク「EAST(Easy、Attractive、Social、Timely)」について解説が行われました。これは、多様な認知バイアスや行動科学の知見を、実務で活用しやすい形に整理したものです。

Easy(メッセージの単純化や行動指示の明確化)、Attractive(損失回避バイアスを活用した表現の工夫)、Social(多くの人が実践していることを伝える工夫)、Timely(対象者の関心が高まる時期に合わせた情報発信)の4つの観点から検討することで、効果的なナッジを設計することができます。地方公共団体における税申告、個別避難計画、大腸がん検診などの事例を通じ、実際の効果検証結果も紹介されました。

続く個人ワークでは、歯科検診や乳がん検診の通知文を題材に、EASTの視点から改善点を検討した後、グループで意見交換を行いながら、情報量の整理や損失訴求、社会規範の活用など、住民に伝わりやすい通知文の作成手法について学びました。

次に、福井市ナッジ・ユニットが開発した「ナッジ検討プロセスモデル」について解説が行われました。本モデルは、課題設定から施策立案までを体系的に整理したものであり、今回は特に重要なステップである「ペルソナ」「行動プロセスマップ」「ナッジ案の検討」の3点に焦点を当てて紹介されました。

ペルソナでは、対象者を具体的な人物像として描くことで、課題の背景や行動特性を明らかにします。行動プロセスマップでは、対象者が望ましい行動に至るまでの過程を時系列で整理し、各段階における阻害要因と促進要因を把握します。特に、上流段階の阻害要因を解消することが効果的なナッジ設計につながるとされています。

さらに、ナッジ案の検討では、EASTや「楽しさ(Fun)」の視点を活用しながら、抽出した課題に対して具体的な介入案を検討します。その後のグループワークでは、参加者が持ち寄った業務上の課題を題材に、ペルソナ設定、行動プロセスマップ作成、ナッジ案の検討に取り組みました。参加者は実践を通じて、行動変容を促す施策を体系的に検討するためのプロセスを学びました。

(3)講義③「ナッジ・ユニットの類型紹介」
講師:福井市ナッジ・ユニット 梅田 佳孝 氏

講義では、地方公共団体におけるナッジ・ユニットの位置付けと、その活動形態について説明が行われました。ナッジ・ユニットは、行政組織の内部において政策への行動科学の活用を支援するチームとして全国で設立が進んでおり、本年7月時点で29チームが発足していることが紹介されました。

活動形態は、大きく「公式型」「ハイブリッド型」「有志型」の3つに分類されます。「公式型」は特定の部署が正式な業務として取り組む形態であり、「ハイブリッド型」は事務局を担う部署が中心となりつつ、他部署の職員も含めて活動する形態、「有志型」は職員が業務外の時間を活用して自主的に取り組む形態です。

講義を通じて、ナッジ・ユニットの設置形態には一つの正解があるわけではなく、地方公共団体の組織体制や人員、業務の進め方に応じて柔軟に運用することが重要であると理解しました。

(4)事例紹介・組織体制紹介①「福井市におけるナッジ活用事例」
講師:福井市ナッジ・ユニット 姉崎 紗也 氏

事例紹介では、福井市におけるナッジの活用事例として、「大腸がん検診受診率向上ナッジ」と「福井駅での押しチャリ促進ナッジ」の2つが紹介されました。

特に、大腸がん検診受診率向上に向けた取組では、従来の案内文書について、受診を妨げる要因と受診を促進する要因を整理した上で、EASTの観点から文面を改善していくプロセスが紹介されました。実際の新旧案内文書を比較しながら、どのような表現や構成の違いが住民の行動に影響を与えるのかが示され、ナッジの実践的な活用方法を具体的に学ぶことができました。

また、複数の案を作成した上で、ランダム化比較試験により効果を検証する手法についても紹介がありました。単に施策を考えるだけでなく、実施後の効果を客観的に確認し、改善につなげる一連の流れが示されたことで、ナッジを行政実務に取り入れる際の考え方を理解することができました。

(5)事例紹介・組織体制紹介②「岡山市におけるナッジ活用事例」
講師:岡山市総合政策局 政策推進課 主幹 日笠 祐美子 氏

事例紹介では、岡山市におけるナッジの活用事例として、「県民満足度調査用封筒の切替え検証」と「公共施設駐車場の目的外利用抑制」の2つが紹介されました。

県民満足度調査用封筒の切替え検証では、大型封筒から小型封筒や小型の色付き封筒への変更を題材に、業務の見直しとコスト削減に向けた検討が行われていました。その際、単なる経費削減ではなく、対象者の受け止めや業務への影響も踏まえながら、どのような工夫が有効かを検証していた点が印象的でした。

一方、公共施設駐車場の目的外利用抑制では、利用者の行動をどの段階で改善すべきかを行動プロセスマップ上で整理し、介入ポイントを明確にした上で対策が検討されていました。講義では、課題の発生箇所を構造的に捉えることで、より的確な介入につながることが示されました。

加えて、複数の介入案を比較しながら効果検証を行う方法についても説明があり、行政現場においては、施策の実施前後だけでなく、過程全体を通じて検証しながら進めることの重要性を学びました。業務改善や目的外利用抑制といった組織運営上の課題に対してナッジをどう活用するかという視点が強く示されており、地方公共団体ごとの課題に応じた多様な活用可能性を理解することができました。

(6)グループワーク「ナッジを設計してみよう」
講師:福井市ナッジ・ユニット 梅田 佳孝 氏

講義で学んだ内容を踏まえ、参加者が事前課題として持ち寄った業務上の課題を題材に、4人ずつ4グループに分かれナッジの設計に取り組みました。テーマには、「アンケート回答率向上ナッジ」「物価高騰対策商品券利用率向上ナッジ」「健康づくり事業参加率向上ナッジ」「デジタル人材育成ナッジ」が設定されました。

まず、対象者を具体的にイメージするための「ペルソナ」を設定し、その後、望ましい行動に至るまでの「行動プロセス」を整理しました。さらに、各プロセスにおける「促進要因」と「阻害要因」を抽出し、どの段階に介入することが効果的かについて議論を行った上で、EASTの視点を活用しながら具体的な介入案を検討しました。

最後に、各グループがナッジ設計のプロセスと介入案について発表しました。例えば、「アンケート回答率向上ナッジ」では、EASTのうち Attractive(印象的にする)の視点から「封筒の色を変更して目につきやすくする」、Social(社会規範)の視点から「昨年は○○名が回答しています」といったメッセージを記載するなど、住民の行動変容を促すための具体的なアイデアが提案されました。

講師による講評では、ナッジは有効な手法である一方で、必ずしも万能ではなく、場合によっては予算を活用したインセンティブ施策などと組み合わせることも有効であると説明されました。また、リマインド通知を送る際にもEASTの考え方を活用することで、より効果的に行動変容を促すことができるため、介入のタイミングや伝え方を工夫することが重要であるとの助言がありました。

4 おわりに

今回のセミナーでは、ナッジの基本的な考え方から、EASTを活用した設計手法、行動プロセスマップやペルソナを用いた課題分析、さらには地方公共団体における具体的な活用事例や組織体制の在り方まで、ナッジを行政実務に取り入れるための知識と実践方法について幅広く学びました。

特に、参加者自身が抱える業務課題を題材としたグループワークでは、住民や利用者の行動を多面的に捉えながら、行動変容を促す施策を設計するプロセスを実践的に体験しました。

ナッジは、強制や規制に頼ることなく、住民の行動をより良い方向へ後押しする有効な手法であり、健康増進、防災、環境、税務、公共施設の利用促進など、幅広い行政分野での活用が期待されています。

今後、参加者が本セミナーで得た知見をそれぞれの地方公共団体や所属組織に持ち帰り、地域課題の解決や住民サービスの向上に役立てられることを期待します。

【受講者の声】

・多様な業務に生かせる考え方を学ぶことができ、大変有意義でした。まずは自分自身が日々の業務に対してナッジを取り入れてみることからはじめてみようと思います!

・「人間は必ずしも合理的に行動しない」という前提のもと、損失回避バイアスなどの心理的特性を利用する点や、「EAST(Easy:簡単に、Attractive:印象的に、Social:社会的に、Timely:タイムリーに)」という実践的枠組みは、住民と直接接する地方公共団体業務において極めて実用性が高いと感じた。

【執筆者】

総務課         南條 建史朗

企画・人材育成グループ  澤口 史弥(鳥取県江府町から派遣)

連絡先


セミナー統括課

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