2025年08月13日
グリーンツーリズムを活用した観光周遊
~素通りのまちからストーリーのまちへ~
開催日:令和8年8月6日~8日

九州北西部に位置する長崎県大村市は、約9万9000人が暮らすまちである。人口減少が続く長崎県内では珍しく、1970年から半世紀以上にわたって人口が増え続けたまちである。
市は、1975年に世界初の海上空港として開港した長崎空港を擁し、国内と東アジアを結ぶ「長崎県の玄関口」としての役割を担う。近年も新たな発展が続いており、2019年には県立・市立一体複合型図書館がオープンし、2022年には西九州新幹線の新駅が完成するなど、まちの未来への期待が高まっている。
その一方で、少し足を延せば、緑豊かな多良山系の山々や穏やかな大村湾など、自然とふれあえる場所も多く存在する。このように大村市は、交通の要衝としての利便性と発展の活力、そして豊かな自然環境を兼ね備えたまちである。

多良の山々と大村湾に囲まれた長崎県大村市は、温暖な気候に恵まれたフルーツの産地であり、農家民泊や収穫体験などグリーンツーリズムが根付く地域である。豊かな農業資源を活かし、農村に人を呼び込み地域全体で収益を上げる仕組みをどう構築するか。その一つの答えを実践し続けてきたのが「おおむら夢ファームシュシュ」である。農業×体験×食×観光を組み合わせた6次産業化の取組は、令和5年の「ふるさとづくり大賞」内閣総理大臣賞(長崎県初)をはじめ数々の全国表彰を受け、年間49万人が訪れる農村モデルとして注目を集めている。
「素通りのまちからストーリーのまちへ」を実現するための拠点となっているのが「おおむら夢ファームシュシュ」(以下「シュシュ」という。)である。大村市には果物をはじめとする魅力的な地域資源が豊富にありながら、その魅力が十分に伝わっておらず、多くの人が目的地とせずに「素通り」してしまうという課題があった。
シュシュでは、農産物直売所やアイス工房、体験プログラム、レストランなどを展開し、生産から加工、販売までを一貫して行う6次産業化に取り組んでいる。この取組は、①所得向上②雇用創出③人材育成という好循環を生み出し、地域農業の発展はもとより、住民の交流促進や地域全体の活性化に寄与している。
「できない理由ではなく、どうすればできるかを探す」という前向きなマインドが関係者に共通しており、何事もプラスに捉える姿勢が、シュシュが進化し続ける原動力であると感じた。今後も、従来の農業のイメージを刷新する「明るい産業の3K(「観光農業」で、お客様に「感動」を与え、後継者に「希望」を与える産業)」の創出を目指し、活動を続けていく方針である。
大村市グリーンツーリズム推進協議会は、農家民泊や自然を活用した体験型観光を推進している。協議会が観光業者と農家をつなぐ架け橋となり、体験希望者と受入家庭を円滑にマッチングさせる役割を担う。
グリーンツーリズムの魅力の核は「人と人との交流」にある。そのため、受入家庭は誰でもよいわけではなく、コミュニケーション能力といった適性を見極めることが重要となる。同時に、ホストとなる住民の精神的な負担にも配慮し、無理なく継続できる環境を整えることが、質の高いサービスを維持する上で不可欠であると指摘した。
今後の展望として、多忙な現役農家だけでなく、時間に比較的余裕のあるリタイア層が宿泊者を受け入れる新たなモデルの構築も検討している。
現在、観光農園として賑わいを見せる大又農園も、かつては栽培のみを行う一般的な農家であった。自然災害などによる生産の不安定化に悩んでいた時期、転機が訪れた。雑草の茂る畑に飼っていた羊を放したところ、羊が草を食べ尽くし、美しい丘が出現した。そこへコスモスを植えたところ、見事に咲き誇り、多くの人々が訪れるようになったという。現在では季節ごとに花を植え替え、年間を通して来園者が絶えない人気スポットとなっている。フォトスポットを設けるなど、常に消費者のニーズを捉えようとする姿勢が、人々を惹きつける要因となっている。
園内ではブルーベリーやブドウなどのフルーツ狩りも体験できる。さらに、フルーツの味をその場で体験してもらうため、園内にカフェを併設。採れたてのフルーツをふんだんに使ったスイーツやドリンクを提供している。今後はインバウンド需要の取り込みが鍵になると語り、長崎空港とも連携を図りながら、更なる賑わい創出を目指していく予定である。
長崎県大村市は、空港・新幹線・高速道路ICの「三種の神器」が揃う全国でも稀な高い利便性を誇る。しかし、その利便性ゆえに「素通り」されてしまう課題も抱え、「地方創生」という言葉が生まれる前から独自のまちづくりに取り組んできた。
交通の便や充実した医療体制、ボートレースの収益を活用した子育て支援策などが奏功し、長年人口増を維持。「子育てしやすい自治体ランキング」で1位に選ばれるなど、市のイメージ戦略も成果を上げている。しかし、2026年に55年ぶりの人口減が記録された今、市は「今いる市民の幸福度」に目を向けることの重要性を改めて意識している。
その象徴が、市の財源であるボートレース収益の活用法だ。売上は条例でハード整備に限定する一方、基金を設けてその運用益を福祉などのソフト事業に充当。安定財源に頼り切らない持続可能な市政運営を目指す。
また、総合計画の改定のため、17歳から80代までの市民と共に2050年の「ありたい姿」を描いた。「オール大村」を合言葉に、未来から逆算したまちづくりを進めている。強みに安住せず、市民と共に未来を創造する大村市の挑戦は、多くの地方公共団体の指針となるだろう。

大村市での農業に関するリアルな声を聞く機会として、トークセッションが設けられた。
・心掛けていることは?
沖田氏:チャンスを逃さないため、「No」と言わない。どこにきっかけがあるか分からないので、人とのつながりを大切にしている。
・(北海道からの移住者として)地域に溶け込むために工夫したことは?
佐々木氏:まず顔を覚えてもらうため、地域の直売所を巡って生産者の方々と積極的に交流した。
・今後に期待することは?
佐々木氏:新規就農者向けの研修プログラムに、地域に溶け込むための活動(例:地域行事への参加)などを組み込んでもらえると、より円滑な関係構 築につながるのではないか。
・行政の視点で意識していることは?
寳藏寺氏:農家から「これをやりたい」という声が上がると、行政としても支援しやすい。そのためには、職員が実際に現場へ足を運ぶことが不可欠である。

本実践塾を通して、大村市のグリーンツーリズムを成功に導いている要因として、以下の4点が挙げられると考えた。
① 消費者視点と体験価値の創造
「どうすれば顧客に喜んでもらえるか」という徹底した消費者視点が全ての基盤にある。商品を売るだけでなく、「自分で選び、作る」といった体験価値を付加することで顧客満足度を高め、再訪やファン化につなげている。
② 地域資源の価値化と継続的な発信
季節ごとの工夫で通年集客を実現するなど、地域資源の価値を最大化している。担い手自身が地域の魅力に自信を持ち、変化を恐れず前向きに発信し続けることが、持続的な賑わいの創出に不可欠である。
③ 挑戦を支える人材と風土
「まずやってみる」という旺盛なチャレンジ精神を持つ人材が、大村市の最大の強みである。個人の挑戦を地域全体で歓迎し、支えるポジティブな風土が、新たな活力を生み出す好循環を創り出している。
④ 行政に求められる支援のあり方
行政は前例踏襲や失敗を恐れるのではなく、事業者の「やってみたい」という情熱に寄り添い、後押しする姿勢が重要となる。民間主導の動きを的確に支える、柔軟な官民連携こそが今後の地域活性化の鍵を握る。
企画・人材育成グループ 飯尾 愛子(静岡県浜松市から派遣)
霜山 陽香(福島県福島市から派遣)
地域創生・情報広報グループ 上原 瑶乃(沖縄県から派遣)
一般財団法人 地域活性化センター 〒103-0027 東京都中央区 日本橋 2-3-4 日本橋プラザビル13階 © 2018 Japan Center for Regional Development