【終了レポート】令和6年度地方創生実践塾in徳島県美波町

終了レポート

2025年02月25日

にぎやかそ(にぎやかな過疎)を作る                                 ~サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり~

 徳島県美波町において、令和6年7月25日(木)から27日(土)にかけて「にぎやかそ(にぎやかな過疎)を作る~サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり~」をテーマに地方創生実践塾を開催し、全国の地方公共団体や民間企業等から19人が参加した。

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1 開催地概要

 美波町は徳島県の南東部に位置する人口約5,800人のまちである。平成18年に旧日和佐町と旧由岐町の2町が合併し誕生。町の南東側に太平洋があり、美しいリアス式海岸を望むことができる。暖かい黒潮の良好な漁場を有しており、産業は漁業が中心である。アカウミガメが上陸産卵するウミガメの聖地と言われている。また、四国八十八ヶ所の一つである薬王寺を有しており、全国からやってくるお遍路さんをもてなしてきた「よそ者に開かれたまち」である。

2 開催地の取組 

 美波町はサテライトオフィス開設を推進してきており、徳島県内でトップの誘致数を誇る。サテライトオフィス誘致によって人口減少、南海トラフ巨大地震、地場産業の衰退や空き家といった様々な地域課題解決を目指している。町は株式会社あわえを中心としたサテライトオフィス企業と連携し、移住者を増やすための仕組みづくり、サテライトオフィス誘致支援、デュアルスクールなどを進めることで、「にぎやかな過疎(にぎやかそ)」を実践している。

3 実践塾内容

(1)講義①「サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり」
   特別講師: 株式会社あわえ 代表取締役 吉田 基晴 氏

 「サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり」と題し、(株)あわえ 代表取締役 吉田 基晴氏に導入としてご講義いただいた。

 吉田氏は、東京で経営する会社で抱えていた経営課題を出身地である美波町が解決したという経験の中で「日本が抱える課題」の現状を知り、(株)あわえを起業した。(株)あわえは、民間企業や個人の「チャレンジ」を誘致して都会のエネルギーを地方に持ってくることで、その地方を元気にすることを掲げている。

 少子高齢化と人口減少が進む地域が衰退していくのは若者が少なくなるからではなく、結果としてチャレンジの総量が低下することに要因がある。都市部の技術や熱量を呼び込むことができれば、人口減少下においても過疎だけど活気がある「にぎやかそ(にぎやかな過疎)」を実現することができる。

 吉田氏のこれまでの経験と(株)あわえの取組から、変容すべき価値観や考え方、実際の事例などを学ぶことができた。

(2)講義②「美波町の概要、取組」
   特別講師: 美波町町長 影治 信良 氏

 美波町の概要とサテライトオフィス誘致に関する先進的な取組についてご講義いただいた。

 美波町は高齢化率50%の超高齢社会であり、他地域と同様に、人口減少・地場産業衰退・空き家の増加などの地域課題に悩んでいる。しかし、平成24年にIT企業のサテライトオフィス誘致に初めて成功して以降、社会増を達成したり、IoT技術の先進地として「地方版IoTラボ」に選出されるなど、サテライトオフィス誘致のモデル自治体として注目されてきた。

 また、影治町長は町がなぜサテライトオフィス誘致を成功させてこられたのかを振り返るなかで、町内で「トリプルウィン(三方よし)」の関係が築けていることが鍵であると語られた。具体的には、①サテライトオフィス企業と移住者が美波町に来てよかったと思っている、②地域住民がサテライトオフィス企業と移住者による社会貢献を喜んでいる、③サテライトオフィス企業と移住者の取組によって地域全体が元気になっている状況が望ましいとのことであった。

(3)講義③「美波町サテライトオフィス誘致の軌跡」
   特別講師: 美波町政策推進課 課長補佐 小笠 雅信 氏

 行政視点でのサテライトオフィス誘致についてご講義いただいた。

 美波町のサテライトオフィス誘致には、①快適なITインフラがあるという強みを生かす、②自然や歴史などの地域資源を活用する、③地域課題の解決につなげるという3つのコンセプトがある。これによって、技術と起業マインドをもった企業を誘致することができている。

 また、サテライトオフィス誘致の題材になっている美波町で解決したい地域課題の中には少子高齢化、南海トラフ大地震、一次産業衰退、空き家対策などがあり、日本全体が抱える代表的な社会課題と一致している。そのため、美波町の地域課題の解決ができれば、その解決策は全国的に横展開できる可能性が高いとのことである。なお、サテライトオフィスによる地域貢献の例としては、美波町とIT企業が連携して製作した「美波防災ナビ」などがある。美波町が誘致した企業の業態にはITの他に、デザインや経営コンサルタントなど多岐にわたっている。

(4)進出企業インタビュー
  特別講師:
  株式会社イーツリーズ・ジャパン 代表取締役 船田 悟史 氏、
  三井共同建設コンサルタント株式会社 MCC研究所新技術研究室室長/一般社団法人藻藍部 吉田 恭平 氏、
  株式会社まめぞうデザイン 代表取締役 ドウゾノ セイヤ氏

 美波町に進出した企業の代表をされている3名の講師の方に事業内容をご説明いただいた後、自地域にサテライトオフィスを誘致するためのヒントを得ることを目的としたインタビューが行われた。

 いずれの企業も美波町役場や地域の人と関わったことがきっかけで美波町に進出している。IoT技術によって地域の担い手不足を解消するためのシステム開発している企業もあれば、アイゴという魚が原因で起きる磯焼けを防止するための循環モデルを設計している企業もあったりと、様々な角度から地域課題に挑戦している。

 インタビューでは、講師全員が「地域に入り、地域の人とコミュニケーションをする中で地域課題を掘り起こすこと」が重要と話した。また、都市部の企業の約7割が新規事業創出のために地方に進出しており、地域課題がビジネスチャンスになるとの話が印象的であった。

(5) フィールドワーク「にぎやかそを目指した商店街活性化事例探索」
    ①戎亭②初音湯③at Teramae④藍庵⑤日和佐日和⑥うみがめラボ

 美波町の商業施設や交流スペースなど、まちの活性化に寄与している施設を視察した。

 初音湯は、以前銭湯であったところを改装し、株式会社あわえのオフィスとしてオープン。入口の下足箱や床のタイルなど銭湯の名残が残っており、新しさがありながら懐かしさも感じられ、まちの景観にマッチしていた。

 at Teramaeでは、アパレルショップとカフェ、WEBデザイン会社「株式会社まめぞうデザイン」制作事務所の複合施設となっており、オリジナルブレンドコーヒーや日和佐をテーマにデザインされたオリジナル商品を販売していた。

 日和佐日和は令和6年4月にオープンした土産屋で、藍染などの工芸品、美波町で獲れる魚「アイゴ」を使ったフィッシュカツなど、様々な地場産品を販売していた。

 うみがめラボは、築100年を超える古民家を大改修し、独立行政法人都市再生機構(UR)のサテライトオフィスとして全国で初めて開設。1階は交流スペース、2階はUR職員の執務室となっていた。

 美波町へ進出した企業により開設された施設は、まちにあるものを活かし、そこに新たな視点を取り入れることにより、住民のニーズやまちの魅力発信に大きく貢献しているように感じた。

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(6)講義④ 「デュアルスクール~新しい教育の形~」
   主任講師:株式会社あわえ 執行役員 吉田 和史 氏

 デュアルスクールの制度概要及びその効果について、主任講師の吉田 和史氏にご講義いただいた。

 デュアルスクールは区域外就学を活用することで、住民票を異動することなく地方や都市など異なる地域の学校の行き来を可能とする多地域就学制度であり、徳島県が実際に取り組んでいる。

 デュアルスクールにより、子どもが自然環境に触れる機会が増えるだけでなく、コミュニティが増えることで、適応力が身に付き、自己肯定感やチャレンジ精神の増進などメリットがあり、受け入れる学校にとっても、子供たちの情操教育や郷土愛醸成などが期待できる。さらに、移住施策という観点においても、中長期移住体験が可能となり、また移住体験施設の稼働率が向上するなど、自治体のメリットは大きい。

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(7)講義⑤ 「サテライトオフィス誘致基礎研修」
   主任講師:株式会社あわえ 執行役員 吉田 和史 氏

 サテライトオフィスにおける基礎的知識と現状、効果についてご講義いただいた。

 サテライトオフィスは、工業誘致などと比較してかかるコストや使用する土地が少なく、年々進出数は増加している。波及効果としては、移住者の増加や地域住民の雇用機会の確保、交流人口・関係人口拡大、空き家活用など様々である。

 企業が進出先を選ぶにあたってのポイントとして、自治体の協力体制を重要視しており、そのためには地域や他自治体などとのネットワークづくりがポイントとなってくる。

 また、進出の検討にあたって、新規事業・地域ビジネスの事業展開を理由とする企業が多いことから、サテライトオフィス誘致は、ただ土地を埋めるためではなく、地域で受入れて経済効果をおこすことを考えて取り組むことが重要である。

(8)個人ワーク「自分たちの地域に誘致したいサテライトオフィスについて」
   主任講師:株式会社あわえ 執行役員 吉田 和史 氏

 3日目のワークショップでは、吉田氏のご指導のもと、参加者がそれぞれに思い描く「にぎやかそ」な状況を考え、サテライトオフィスの誘致を考えるワークショップを実施。

 地域によって強みや弱み、抱える地域の課題や状況が千差万別だったが、事前の講義で誘致ターゲット企業や地域が抱える課題、強みなど、いろいろな方向から考えられる手法について学び、考えながらプランを立てた。

 各参加者の地域特性や誘致したい企業などを深堀して検討し、誘致プランを作る過程で必要な考え方について学ぶことができた。また、ほかの参加者のプランと比較したり、お互いに質問し合うなど自身の地域の強みを改めて知ることができる時間もあり、より深い学びとなった。

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4 おわりに

 講義やフィールドワークを通して、サテライトオフィス誘致をきっかけとした美波町ならではの地域づくりについて学ぶことができた。なかでも、行政や地域住民が積極的に企業や移住者のアイデアを取り入れたり支援したりすることで、空き家活用やデュアルスクールなどの政策につなげてきたということを知ることができた。

 少子高齢化が進むと地域の元気がなくなり内向きになっていくというイメージがあったが、美波町は全く悲観的ではなかった。むしろ前向きに外部と関わろうとしており、人を呼びこむことで面白くにぎやかなまちである「にぎやかな過疎(にぎやかそ)」を実現させている。そのような風土が、行政・地域住民・サテライトオフィスと移住者の「地域のために何かしたい」という思いを支えているのだと感じた。

受講者の声

  • 地域は人が少なくなるから衰退するのではなく、人口減少に伴って総チャレンジ量(エネルギーの量)が低下するから衰退するという考え方が非常に腑に落ちた。
  • 様々な地域課題があることを「弱み」でなくビジネスチャンスという「強み」として捉えており、行政・企業・住民の三者が楽しみながら地域課題に挑戦していることが美波町の魅力につながっていると感じた。
  • サテライトオフィス誘致にあたり、そのまちが持つ「魅力」が最も重要なポイントだと思っていたが、何よりも重要なのは「人」であるということに気づくことができた。

執筆者

 移住・交流推進課    小口 裕史 (愛知県長久手市から派遣)

 企画・人材育成グループ 井上 里佳子(兵庫県三田市から派遣)

 移住・交流推進課    高橋 凌太 (新潟県新潟市から派遣)

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar(at)jcrd.jp ※メールアドレスの(at)は@に変更ください。