【終了レポート】都市と農村をつなぐ「アグリツーリズム」による地域活性化
終了レポート
2025年12月10日

1 はじめに
令和7年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー『都市と農村をつなぐ「アグリツーリズム」による地域活性化』を、2025年7月17日(木)に開催しました。地方公共団体などから現地会場13名、オンライン13名の参加がありました。
2 今回のテーマ
本セミナーは、農家民宿や古民家等を活用した宿泊施設に滞在して、観光客にその土地の魅力を味わってもらう「農泊」、さらに農業にふれながらその地域の食材や豊かな自然を楽しむ農泊である「アグリツーリズム」を実施するための手法を学ぶことを目的とし開催しました。
3 講師紹介
【主任講師】 金丸 弘美 氏
食総合プロデューサー・総務省地域力創造アドバイザー・(一財)地域活性化センターシニア
フェロー
執筆活動をはじめ、食育と地域づくりをつなぐワークショップの企画・運営、ツアーやプロモーションなどのアドバイザー業務を行う。幼稚園から大学までの教育機関での授業・講演も多数。全国1000ヶ所以上の農村や地域を取材し、食材や農業の現場に精通。子どもたちの「食」の大切さを伝えるため、全国50ヶ所以上の学校給食も取材。食に関する調査や情報をもとにテキスト化・ブランディングし、実践的なワークショップを通じて「食べ方」の提案を行う。主な執筆テーマは、地域再生、食育、味覚教育、地域デザイン、環境・持続可能性、高齢者の生きがいづくりなど多岐にわたる。
【特別講師①】 小役丸 秀一 氏
株式会社グラノ24K 代表理事
父親は観光ぶどう園、母親は旅館業を営み幼少期から家業を手伝う。大学卒業後に料理を学び、料亭で修業。その後岡垣町に戻り家業に専念する。1995年に株式会社グラノ24Kを設立。地元食材にこだわったレストラン・宿泊・結婚式場の複合施設「ぶどうの樹」を岡垣町で運営。全国にもレストラン「野の葡萄」を展開し、地域の六次産業化を目指している。
【特別講師②】 多田 稔子 氏
一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー 代表理事
2006年に「田辺市熊野ツーリズムビューロー」会長に就任。熊野古道エ リアを「世界に開かれた持続的で上質な観光地」とすることを目指し、 世界遺産を活用したインバウンド観光を推進し、2023年には「先駆的DMO」に選定された。人材派遣業などを営む会社の取締役を務めるほか、公職委員も兼任。2023年からまちづくり会社「南紀みらい」代表取締役社長を務める。
【特別講師③】 岡田 奈穂子 氏
株式会社Table a Cloth 代表取締役・トラベルクリエイター
ヨーロッパやアジア諸国からの雑貨バイヤー・輸入業の仕事を経て、現地の人や文化に実際に目で見て触れてもらいたいと旅行業へ転身。『おいしい旅』をコンセプトに、食の楽しみに特化したオーダーメイド旅行を企画する旅行会社を設立・運営。2019年には「おいしい町に泊まる」をコンセプトに新しい食体験型宿泊予約サービス"gochi荘(ゴチソウ)"をリリースした。
4 講義内容
【講義① (金丸氏)】
アグリツーリズムを農業体験や農泊といった単発の体験メニューとして捉えるのではなく、農村で営まれている暮らしや文化、風景、仕事のあり方全体を含めて考える必要があるという視点が示されました。来訪者が短時間で体験を消費するのではなく、地域に滞在し、農作業や食事、地域の人との関わりを重ねる中で体験が積み重なっていく形を想定していることが語られました。
海外の事例としては、イタリアのアグリツーリズムが取り上げられました。エミリア=ロマーニャ州やピエモンテ州では、ワイナリーが収穫期に多くの人手を必要とすることから、収穫作業に関わる人が一定期間滞在できる宿泊施設を備えており、その延長として宿泊と食事の提供が行われてきたことが紹介されました。都市部から来た人が一定期間滞在し、農家の家族と同じ食卓を囲みながら過ごすことが、特別な体験ではなく日常の延長として行われている点が具体例として挙げられました。
また、イタリアでは農家民泊の認可にあたり、地元食材の使用割合が制度として定められており、この制度により、宿泊と食事が地域の農業や加工品、食文化と自然に結びついている状況が生まれていることが説明されました。
日本の状況については、これまで各地で進められてきたグリーンツーリズムや農泊の取組に触れながら、現場で感じてきた課題が共有されました。担い手の高齢化や人手不足に加え、農業者が体験の提供、宿泊対応、食事の準備までを一手に担っているケースが多く、負担が集中しやすい状況があることが語られました。
こうした課題を踏まえ、農業者がすべてを担うのではなく、観光事業者や加工・流通関係者、地域住民などが、それぞれ関われる範囲で役割を分担していく必要性が示されました。また、新しい施設や体験メニューを作ることだけに目を向けるのではなく、農作業の工程や季節ごとの変化、普段の食事や地域行事といった、すでに地域にある日常の営みをどう活かすかという視点についても触れられました。
行政については、事業を直接運営する立場ではなく、関係者同士の調整や制度面・環境面の整理を担う役割が重要であると述べられました。関係者が話し合う場を設け、取組が進めやすい環境を整えることが、行政の役割として挙げられました。
【事例紹介①(小役丸氏)】
福岡県岡垣町で行われているアグリツーリズムの取組について、具体的な場面を交えながら話がありました。農業と食、宿泊を組み合わせた取組として、「ぶどうの樹」や「グラノ24K」での実践が紹介されました。
農泊の運営については、新たに宿泊施設を整備するのではなく、既存の建物や敷地を活用してきた経過が語られました。受け入れ人数についても、設備や人手の状況を踏まえ、対応できる範囲を超えないよう調整してきたことが説明されました。
体験内容としては、農作業の一部に参加することや、地域で採れた食材を使った料理を提供している点が挙げられました。食事の場では、生産の話や地域の暮らしの話題が自然と生まれ、そうしたやり取りが来訪者の印象に残っていることが紹介されました。季節によって体験内容が変わる点についても触れられました。
また、宿泊や体験をきっかけに、その後も別の季節に再訪する人や、地域の商品を継続的に購入するようになったケースがあることが語られました。一度の滞在で終わらず、関係が続いている事例が具体的に示されました。
【事例紹介②:世界に開かれた持続可能な観光地を目指して(多田氏)】
和歌山県田辺市における観光の取組について話がありました。田辺市は紀伊半島南部に位置し、市域の大部分を森林が占める地域であり、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産登録された熊野古道が、市の観光の大きな軸となっている点が紹介されました。
熊野古道の特徴として、聖地と道が一体となって価値を持っている点が挙げられ、特に熊野本宮大社の旧社地である大斎原については、熊野古道が集結する場所として、田辺市の観光施策において重要なランドマークに位置づけてきた経緯が説明されました。
観光施策では、来訪者数の増加だけを目的とするのではなく、地域の価値や背景をどのように伝えるかを重視してきた経過が説明されました。事前に地域の成り立ちや文化的背景を伝えることで、現地での過ごし方や受け止め方が変わったという具体的な経験についての話がありました。
また、世界遺産登録を一過性のブームに終わらせないため、行政主導ではなく民間の強みを生かした体制づくりを進めてきた点についても話がありました。その結果として、田辺市熊野ツーリズムビューローが設立され、関係者間の調整や受け入れ体制の整備を担ってきたことが説明されました。
【事例紹介③:海外のアグリツーリズモの実態と日本での展開について(岡田氏)】
海外のアグリツーリズモを中心とした事例として、イタリアのエミリア=ロマーニャ州やピエモンテ州、フランスのボジョレー地方、スペインのバスク地方の事例が紹介されました。農家民宿や宿泊施設に滞在した旅行者が、設備の豪華さよりも、食卓を囲んで交わした会話や、農家の日常に触れた時間を印象深く語っていた事例が挙げられました。
例えば、ワイナリーに滞在した旅行者が、収穫作業の合間に一緒に食事をしたことや、家庭料理を振る舞われた経験を強く覚えているケースが紹介されました。また、畑に出て作業を手伝い、その場で収穫した食材を調理して食べた体験が、旅の記憶として残っている点についても触れられました。
あわせて、受け入れ側の運営面についても具体的な話がありました。海外では、日常生活の延長として体験を提供しているため、過度な演出や特別なプログラムを用意していない事例が多いことが説明されました。こうした事例を踏まえ、日本で展開する際に検討が必要な点についても言及がありました。
トークセッション
金丸氏が進行を務め、各事例を踏まえた意見交換が行われました。アグリツーリズムを始める際の考え方について、小役丸氏からは、最初から完成形を想定するのではなく、できることから始め、状況に応じてやり方を見直してきた経験が語られました。
多田氏からは、地域の状況を見ながら段階的に取組を進めてきたことや、保存と活用のバランスを意識して調整を重ねてきた点が挙げられました。岡田氏からは、海外事例を踏まえ、関わり方には段階があり、関与の度合いを柔軟に考える必要があるという話がありました。
受け入れ人数や来訪者数については、小役丸氏から、対応できる範囲を見極めながら受け入れてきた経験が語られ、多田氏からは、数字だけで取組を評価しない姿勢が示されました。行政の関わり方については、制度面の整理や関係者間の調整を担う役割が共有されました。
5 セミナーを終えて
本セミナーでは、講義、事例紹介、トークセッションを通じて、アグリツーリズムを巡る考え方と、国内外の具体的な実践が取り上げられました。海外事例からは制度や日常の延長としての取組が示され、日本の事例からは地域の状況に応じた進め方が共有されました。
本セミナーで示された内容は、今後アグリツーリズムに取り組む際、各地域が自らの資源や体制を見直し、どのような関わり方が可能かを検討するうえでの参考となるものではないかと思います。
なきっかけとなりました。
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受講者の声 ・農漁村地域の観光振興について、様々な角度からの見解が提示されてとても勉強になった。 |
執筆者:地域活性化センター 企画人材・育成グループ
井上 智貴(あいおいニッセイ同和損害保険株式会社から派遣)
連絡先
セミナー統括課
TEL:03-5202-6134
FAX:03-5202-0755
E-mail:seminar(at)jcrd.jp ※メールアドレスの(at)は@に変更ください。