【終了レポート】「公務における生成AIの活用」令和7年度【スタンダード】新たな知と方法を生む地方創生セミナー
終了レポート
2025年12月23日
1 はじめに
令和7年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー「公務における生成AIの活用」を、令和7年10月27日(月)に開催しました。本セミナーには、地方公共団体などから現地会場11名、オンライン91名、合計102名が参加しました。
2 今回のテーマ
本セミナーは、業務効率化の推進という視点から、公務分野での具体的な活用方法、リスク管理、生成AIを活用した条例改正などを総合的に学ぶことを目的として開催しました。これにより、参加者が職員負担の軽減やサービス向上につながる知識を得て、各地域での導入を後押しする検討材料とすることを目指しました。
3 講義内容
(1)講義 「生成AIの概要(基礎・活用状況)」
講師:東武トップツアーズCDO 村井 宗明 氏
講師は、ここ2~3年でAIの技術は急速に進化しており、文章や画像、音声などを生成する能力も飛躍的に向上していると説明されました。これまで専門家にしか扱えなかった高度な技術が、今では誰でも利用できるレベルにまで普及しつつあります。このような流れを背景に、国内のAI産業も急速に拡大しており、今後はAIを積極的に活用する地方公共団体と、そうでない地方公共団体との間で差が生まれる可能性があると述べられました。
また、民間企業では転職が一般化し、長期的な人材育成が難しくなっていることから、即戦力を求めてスキル要件を見直す動きが進んでいます。こうした状況下では、終身雇用を前提とする地方公共団体こそ計画的にデジタルスキルを身につけ、行政と民間が連携してデジタル化を進めるべきだと述べられました。
(2)講義 「 公務員内部専用AIの概要とシステム試用」
講師:東武トップツアーズCDO 村井 宗明 氏
公務員専用AIは、安全性と正確性に優れISO27000に準拠するなど高いセキュリティを備えていますが新しい発想を生み出す点には限界があると述べられました。
また、AI導入による行政運営の変化について説明がなされました。現在、全国で約620の地方公共団体が公務員AI「マサルくん」を導入しており、月間利用回数は27万回を超えています。特に交付金申請の時期には利用が集中し、過去の採択事例を参考に効率的な書類作成が進められています。
講師はAI活用の限界についても説明されました。住民対応や相談業務など、人間的な共感や信頼が求められる分野はAIが代替できない領域であり、人と人とが向き合う仕事こそ、公務員が担うべき役割であると述べられました。AIが作業を支援することで職員が本来の対人業務に集中できるようになることが、行政DXの真の目的であると強調されました。
(3)講義 「条例・規則作成AIについて」
講師:東武トップツアーズCDO 村井 宗明 氏
本講義では、地方公共団体専用AI「マサルくん」の機能と活用法を学びました。1ヶ月無料で試用できる汎用版と、各地方公共団体の個別データで学習させた有償版の違いを明確化し、調査業務、挨拶文、メール作成、条例作成、仕様書作成などの具体的な業務でデモンストレーションを体験しました。さらに、講師が参加者から出された架空のテーマをもとに、目的・責務・罰則などを盛り込んだ本格的な条例案を作成しました。これにより、前例がないテーマでも条例案のひな形を作成できることが示されました。
(4)事例紹介 「兵庫県姫路市」
講師:デジタル戦略本部デジタル閃絡室 神脇 英司 氏
本事例では、姫路市における生成AI導入の背景、活用事例、成果、今後の展望が紹介されました。姫路市は令和6年7月にフィクサー社の「GaiXer」を導入し、利用を開始しています。導入の背景や目的には、職員数の減少と超高齢化社会への対応として、限られた人員で行政サービスを維持・発展させ、職員負担の軽減と業務の質向上を図る狙いがあります。
次に、生成AIの具体的な活用事例として、議会答弁案作成や議事録の要約業務が紹介されました。まず、議会答弁案作成では、過去の質問や答弁のデータをAIに学習させることで、自動的に答弁案を生成する仕組みを導入しています。この仕組みにより、従来よりも短時間で答弁案を作成できるようになり、職員の負担が大幅に軽減されています。また、AI電話音声自動記録システムを主に相談内容に緊急かつ即時対応を要する担当課に導入したことも説明されました。
次に、GaiXer の利用者を対象としたアンケートの実施報告がありました。職員アンケートの結果によると、生成 AI を利用して「時間短縮の効果を感じる」と回答した職員は 79% に上りました。そのうち多くの職員は、短縮された時間を新しいプロジェクトへの取組や残業時間の縮小に充てているとのことです。
また、職員の生成 AI の活用は、文書作成・アイデア出し・議事録作成などの業務が中心です。AIの導入により、業務効率化のみならず、精神的負担の軽減や職場内OJTへの活用といった副次的効果も報告されました。また、電話記録作成を担当する課の一人あたりの年間時間外勤務は、前年度の138時間から導入後は80時間へと短縮され、約40%削減されました。
最後に、姫路市では来年度に向けてLGWAN環境下でのAI導入も検討しており、安全性を確保しつつ行政のデジタル化を推進していく方針です。事例を通じて、生成AIが地方公共団体における人材不足や業務負担軽減の有効な解決策となり得ることが示されました。一方で、導入効果を最大化するためには、職員研修や活用ルールの整備、情報セキュリティへの配慮が不可欠であると述べられました。
(5)事例紹介「北海道ニセコ町」
講師:総務課情報管理室 笹森 翔一 氏
ニセコ町では、地域活性化センターの無償利用の機会を活かして、職員のAI利用状況を確認する実証実験を行い、将来の本格導入に向けた判断材料としました。実証実験では、子育て世帯向けの町営住宅条例の改正案づくりに条例AIを試しました。
当初は簡単な指示では意図と異なる条文が生成される課題がありました。しかし、参考とする他地方公共団体の条例を具体的に示すことでAIが理解しやすくなるよう工夫した結果、既存条例の流れを保った適切な修正案の作成に成功しました。このことから、生成AIは使い方を工夫することで、業務の質の向上に役立つ可能性があることが示されました。
実証実験に参加した職員からは前向きな意見が多く寄せられました。一方で、より多くの職員が活用できるよう、研修や説明方法の改善が必要であることも説明されました。
今回の実証を通じて、生成AIは地方公共団体業務の効率化に役立つ可能性が確認されましたが、安全な運用体制の整備が欠かせないことも明らかになりました。ニセコ町では、これらの結果を踏まえ、今後の本格導入に向けた検討を進めていく方針です。
(6)トークセッション
トークセッションでは、村井氏、神脇氏、笹森氏の3名が登壇し、センター職員が進行役を務めました。地方公共団体規模や職員の意欲によるAI活用の違いなどを議論するとともに、参加者からの質問に3氏が自身の取組を説明しました。
小規模地方公共団体では職員が多忙で高度なAI向けの複雑なプロンプト作成が難しい一方、姫路市のような大規模地方公共団体ではAI活用に意欲的な職員が一定数おり、高度なAIを導入しやすい状況にあると議論されました。こうした現状を踏まえ、AI活用を進める上で重要となるのは職員の活用意欲をどう高めるかであり、今後の大きな課題として共有されました。
4 おわりに
今回のセミナーでは、地方公共団体における生成AI活用の利点と課題について理解を深めることができました。公務員専用AIは、情報管理の安全性が高く、文書作成など日常業務の効率化に大きく貢献するうえ、専門的な分野では非常に効果的です。一方で、汎用AIでは官民を問わず、より広範な情報を得られることが分かりました。
各地方公共団体において、企画づくりや政策のアイデアを検討する際に、それぞれの特徴を踏まえた活用をすることは非常に有効であると感じました。また、汎用AIでは誤情報が混ざる可能性を踏まえ、利用する際に内容の確認や使い方の工夫が重要であると分かりました。
今後、生成AIを各地方公共団体で活用していくためには、正しい情報なのかどうかを見極めることや、より効果的に生成AIを活用した情報の収集をすることが重要です。生成AIを活用した政策立案のため、創意工夫のできる人材の育成が重要であると感じました。
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受講者の声 ・生成AIについて具体的な利用方法まで紹介されておりイメージが膨らんだ。また、自治体での導入事例についてはリアルをアイルことができた。 |
執筆者:地域活性化センター 地域創生・情報広報グループ
岩木 奈央(富山県南砺市から派遣)
連絡先
セミナー統括課
TEL:03-5202-6134
FAX:03-5202-0755
E-mail:seminar(at)jcrd.jp ※メールアドレスの(at)は@に変更ください。
