【終了レポート】地方公共団体の人事戦略~選ばれる職場への挑戦~

終了レポート

2026年01月06日

ホームページバナー(人事戦略).png1 はじめに

 令和 7 年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー(スタンダード)「地方公共団体の人事戦略~選ばれる職場への挑戦~」を開催し、地方公共団体等から現地参加 5 名、オンライン参加 31 名、計 36 名の参加がありました。

2 今回のテーマ

 日本全体で進行する人口減少や少子高齢化により、分野を問わず労働力不足が深刻化しています。このような状況下において、地方公共団体も従来の採用方法では十分な人材を確保できておらず、新たな対応が求められています。地方公共団体が「選ばれる地域」となるためには、採用に関わる多角的なアプローチが必要です。本セミナーでは、これらの取組事例をもとに、地方公共団体における人材確保のあり方について考えることを目的として開催しました。

3 講義内容

(1) 講義「選ばれる職場への挑戦」
  講師:コクヨ株式会社 グローバルワークプレイス事業本部 TCM 本部 ソリューション部 コンサルティンググループ 課⾧ 多田 将英 氏 

 現在、地方公共団体は人口減少や DX 化、若手職員の離職増加といった深刻な課題に直面しており、優秀な人材を確保し組織力を維持するためには、単なる事務作業の場を越えた「職場環境の整備」が不可欠であるそうです。コクヨでは、オフィス改革がコミュニケーションを活性化させ、職員のエンゲージメントを高める「人的資本経営」の重要な鍵であると述べられました。社会環境が激変する中で地方公共団体職員には、前例踏襲の業務から「価値創造型業務」へのシフトが求められていますが、そのためには ICT 活用、空間整備、運用ルール、そして何より「意識改革」を同時に進める必要があるとお話しされていました。
 具体的な施策としては、業務内容に合わせて働く場所と時間を自ら選択する「ABW(Activity Based Working)」の導入を推奨しており、集中、協働、相談など目的に応じた多様なスペースを整備することで、自律的な働き方を促し生産性を高めることが可能になるそうです。また、単に労働環境を整える「働きやすさ(衛生要因)」だけでなく、自己成長や達成感といった「やりがい(動機付け要因)」を高めることが、真の働き方改革の本質であるとのことでした。
 事例として、東京都庁が DX 推進と連動して実現した「未来型オフィス」や、コクヨでの「ハイブリッドワーク」、「1on1 ミーティング」の制度化などをご紹介いただきました。さらに、組織の社会的意義である「パーパス」を明確にし、職員一人ひとりが「何のために働くのか」を自分ごと化することで、行動意欲が劇的に向上するとのことでした。最後に、人生や仕事の結果は「能力×熱意×考え方」で決まり、熱意を持った実行と考え方の継続的なアップデートが、地方公共団体が「選ばれる職場」へと進化するために重要だとお話しいただきました。

2)事例紹介「奈良県」
   講師:奈良県総務部行政・人材マネジメント課 採用係 課長補佐 野中 宏美 氏

 奈良県庁は「県民全体の幸せ追求に貢献する意欲を持つ人材」を確保するため、令和 5 年度に制定された「地域において良い人材を集め育成することを目指した良い職場づくりの推進に関する条例」を旗印に、組織のあり方を大きく転換しているそうです。背景には、従来の終身雇用を前提とした仕組みが通用しなくなっている現状があり、働き方改革(テレワーク、フレックス、勤務間インターバル等)やオフィス改革と並行して、「採用・リクルート・育成」の 3 本柱で改革を推進しているとのことでした。
 リクルート面では、これまで人事委員会が行ってきた活動を知事部局主体の「行政・人材マネジメント課」へ移管し、リクルート専属職員を配置する体制へと見直されました。これにより、ターゲット層に合わせた戦略的な PR が可能となり、従来の「待つ採用」から、大学や民間企業への積極的なアプローチを行う「攻めのリクルート」へと移行しています。特に、仕事の魅力を言語化して伝える広報活動を強化し、県庁が「自己成長できるフィールド」であることを強力に発信しているそうです。
 採用試験制度においては、公務員試験特有の負担を軽減し、多様なバックグラウンドを持つ人材を呼び込むため、SPI 試験の導入や年 2 回(春・秋)の試験実施、社会人経験者を対象とした「キャリア活用試験(係長・課長補佐級での採用)」の創設といった大胆な変更を行ったとのことでした。また、入庁後も「育成」を重視し、デジタル・グローバルといった専門研修や、民間・国への派遣を通じた能力開発、さらには 360 度評価の導入による透明性の高いマネジメント体制の構築を進めているそうです。
 奈良県の戦略は、制度のハード面(試験内容・回数)とソフト面(リクルート体制・育成)の両輪をアップデートし続けることで、優秀な人材が「ここで働きたい」と思える環境を戦略的に創り出し、県民の幸福増進と県域の発展を担う強固な組織を構築することを目指しているとお話いただきました。

(3)事例紹介「兵庫県伊丹市」
   講師:兵庫県伊丹市総務部エンゲージメント推進担当 主幹 中西 寛 氏

 伊丹市は「感動するまちをクリエイトする」というビジョンのもと、新庁舎の整備を機に、従来の固定席や紙中心の文化を打破する抜本的な改革を実施したとのことです。オフィス環境には、業務内容に応じて場所を選ぶ「ABW(Activity Based Working)」やフリーアドレス、昇降デスク、集中ブースなどを導入し、さらに「庁舎全体がリビング」というコンセプトを掲げ、職員同士や市民との偶発的な対話を生む空間(「結びの広場」や「屋上庭園」など)を創出しています。これに加えて、完全無線 LAN 化やペーパーレス化、グループウェアの刷新といったデジタル基盤を同時に整えることで、場所にとらわれない柔軟な働き方を実現しているそうです。
 こうしたハード・ソフト両面での改革は、職員の意識にも大きな変化をもたらしました。新庁舎運用開始後のアンケートでは、職員の満足度が大幅に向上しただけでなく、部署を越えたコミュニケーションが活性化されたことや、自律的な姿勢が育まれるなどの成果が報告されています。伊丹市では、この成果を「職員エンゲージメント」の向上と定義し、総務部に「エンゲージメント推進担当」を設置するなど、組織として持続的に働く環境をアップデートし続ける体制を強化しているとお話しいただきました。さらに、これらの改革は強力な「採用戦略」としても活用されています。新庁舎での本格的な業務体験を提供するインターンシップを実施した結果、前年度比で応募者が約 7 倍に急増し、内定者の辞退防止や志望度の向上に劇的な効果を上げているそうです。
 伊丹市の取組は、ワークプレイスの変革を起点に職員が誇りを持って働ける環境を構築し、それを対外的な魅力として発信することで、次世代の人材を惹きつける「選ばれる職場」への好循環を生み出しているとのことでした。

(4)事例紹介「大阪府四条畷市」
   講師:大阪府四条畷市総合政策部副参事兼企画広報課長 溝口 直幸 氏

 四條畷市は VUCA の時代において現状維持は劣化の進行であるという危機感を持ち、組織が機能し続けるためには優秀な人材の「採用・定着・活躍」が不可欠であると考えているとのことでした。そのための基盤として、平成 29 年度から本格的な働き方改革に着手し、単なる残業削減ではなく,生産性向上による「日本一前向きな市役所」の実現を目指しているとお話しされていました。
 令和 5 年度には、従来の「人材育成基本方針」を民間企業の知見を取り入れた「人事戦略基本方針」へと全面改定し、エンゲージメントの数値を目標管理の指標に据えるという先進的な体制を整えました。そして、具体的な組織改善の手法として、組織改善クラウドを活用して職員の意識を定量化し、その結果に基づいた「ファクトベース」の打ち手を実行しているそうです。特に、上位役職者の意識改革が組織全体に波及するという考えから、特別職や部長級による「運営者会議」の設置や階層別の 1on1 面談を実施し、コミュニケーションの量と質を改善することで、エンゲージメントスコアを向上させてきたとのことでした。
 また、中途採用の増加に伴う離職課題に対しては、採用後 2 週間及び半年後の定期面談や、入庁後フォローツールの導入、さらには部署外の職員がサポートするメンター制度など、組織全体で新採用職員を支える体制を構築しました。その結果、事務職における早期離職ゼロを実現しているそうです。採用においても、正規職員には「スタンス」と「ポテンシャル」を重視する一方、専門的な「任期付職員」には「テクニカルスキル」を求めるという使い分けを行っているとお話しいただきました。
 四條畷市の人事戦略は、人事施策のすべてをエンゲージメントの向上とリンクさせ、可視化された
データに基づいて PDCA を回し続けることで、職員が自律的に成長し、結果として市民サービスの
質が向上する「日本一前向きな市役所」を目指しているとのことでした。

4 おわりに

 本セミナーでは、人口減少下で地方公共団体が「選ばれる職場」となるための多角的なアプローチが示されました。事例紹介でも共通していたのは、ABW 導入等の物理的な環境整備に加え、職員の「やりがい」を引き出すソフト面の改革を重視するということです。攻めの採用活動への転換や入庁後の定着支援、エンゲージメントを核とした組織文化の醸成など、ハードとソフト両面からの統合的な取組が不可欠だということを学ぶことができました。これらを通じて職員の成長を促すことが、持続可能な組織づくりと住民サービス向上に繋がる鍵になると感じました。

 

受講者の声

・人材確保はどの地方公共団体も共通の課題だと思っていますが、選ばれるという考え方のヒントが沢山ありました。
・人材確保が採用だけでなく、定着、活躍、そして「働き続けたい」と思ってもらうまで一連の流れだということが改めて考えさせられました。

執筆者:地域活性化センター 企画・人材育成グループ

    桑子 真利亜(埼玉県草加市から派遣)

連絡先

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