【終了レポート】「デザイン思考」で拓く地域の未来~共感から始まるまちづくり~

終了レポート

2026年02月13日

1 はじめに

 令和7年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー「『デザイン思考』で拓く地域の未来~共感から始まるまちづくり」を、令和7年12月12日(金)に開催しました。地方公共団体などから現地会場8名、オンライン22名の参加がありました。


2 今回のテーマ 

 本セミナーは、デザイン思考の概要をはじめ、政策づくりの応用まで事例を通じて学ぶとともに、市民の共感を得られる政策づくりやまちづくりに取り組むヒント・連携へつなげることを目的に開催しました。

 
3 講義内容 

【主任講師】東京都デジタルサービス局 デジタル戦略部 デジタル戦略課 課長代理 小川 ふじえ 氏

 前職では、システムインテグレーターとして基幹系システムの導入・運用支援や、プロジェクトマネージャーとしてシステムの提案から運用までを一貫して担う。東京都へ入庁後は、ICT職として各局のシステム開発やネットワークインフラ構築の支援を経て現職。現職では『デジタル10か条』や『サービスデザインガイドライン』を主管し、職員が守るべき基本ルールや基準の整備、浸透に取り組んでいる。

【講義 デザイン思考セミナー~東京都におけるサービスデザインの浸透施策~】

 講義では、最初にデザイン思考の基本的な考え方が説明されました。デザイン思考とは、色や形といった表層的なデザインではなく、ユーザーのニーズや課題を起点に、新たな価値や解決策を創造する問題解決のアプローチです。特に、本人も自覚していない深層心理である「インサイト」を捉えることの重要性が強調されました。 

 また、社会構造の変化を背景に、プロダクトデザイン中心の時代から、体験やプロセスを重視するサービスデザインの時代へ移行している点が示されました。大量生産・大量消費の時代とは異なり、現在はモノそのものではなく、それを通じて得られる体験が選択の基準となっており、行政サービスにおいてもデザイン思考の導入が不可欠だと述べられました。

 デザイン思考のプロセスとしては、「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」の五つの段階が紹介されました。これにより、ユーザー視点に立った課題設定と改善の循環が可能になります。また、デザイン思考を取り入れることのメリットとして、イノベーションの創出、ユーザーニーズに合致したサービス開発、組織力の強化、アイデア提案の習慣化、競争優位性の向上の五点が挙げられました。

 後半では東京都の取組が具体的に挙げられました。行政サービスの革新を目的とした『シン・トセイ』構想では、当初計画から改革実践のキーワードとしてデザイン思考を掲げ、顧客である都民・職員が何を求めるかを改革の起点としました。また、「デジタル10か条」の紹介もされました。これは、都職員が共通の価値観として守るべき行動規範であり、局や分野ごとにばらつきのあったデジタルサービスの品質を一定水準に保つことを目指しています。さらに、「サービスデザインガイドライン」によって、高品質な行政サービスを実現するための具体的な作り方も明確化されています。その他にも、サービスデザインの企画を局内で共有する「東京都サービスキャンバス」や、各局がDXに関する取組を発表する「都庁DXアワード」等について説明がありました。

【特別講師①】

福井県 未来戦略課 企画主査 塚田 長嗣 氏

平成23年に福井県庁に入庁。嶺南振興局税務部、選挙管理委員会、人事課、県民安全課を経て、令和6年から未来戦略課に配属。デザイン思考を取り入れた政策デザインを推進し、県内外のクリエイターと連携しながら福井県ならではの創造的かつ実効性の高い政策形成に取り組む。

【事例紹介①】

 本事例紹介では、福井県が取り組んでいる「ふくい政策デザイン」の概要について紹介がありました。

 福井県では、従来の経験や前例に依存した政策形成から脱却し、デザイン思考とEBPM(証拠に基づく政策立案)を組み合わせた政策デザインに取り組んでいます。課題の抽出、目的の設定、コンセプトの構築、仕組みづくり、テストと改善といった政策形成の一連の流れを、ユーザー目線で再設計しました。供給者視点から県民視点への転換を重視し、デザイン思考による定性的な洞察と、データ分析による定量的な根拠を両立させています。

 庁内の仕組みづくりとして特徴的なのが、クリエイターとの協働体制です。未来戦略課を中心に「政策デザインチーム」を設置し、県内のデザイナーやコピーライターなどのクリエイターと連携しながら、政策のコンセプトや伝え方を磨き上げています。

 具体的な取組としては、政策デザインワークショップや現場リサーチなどが実施されています。政策デザインワークショップでは、クリエイターと課題を抱える担当課が課題の見直しから議論するワークショップを開催しており、年間約2530件ほど実施されています。また、現場リサーチでは、クリエイターが課題を抱える現場に担当課とともに出向き、現場の声を聞き取りながら解決策の検討を行います。

 令和7年4月からは、新しい取組として、政策デザイン「共創」と短期集中型ワークショップを行っています。政策デザイン「共創」は、政策デザインワークショップをより強化したものです。クリエイターが半年間伴走して政策デザインを行うことにより、政策デザインワークショップで課題だったアイデアの拡散を防ぎ、事業としての着地点を明確化することができます。

 最後に、クリエイターは、課題の本質を探究する意欲や未来の完成価値に視点をおいているため、クリエイターと連携することにより、政策立案の目的・課題の再設定能力の向上を見込むことができると述べられました。

【特別講師②】

兵庫県神戸市 企画調整局 大学・教育連携推進課 弓削 英明 氏

平成15年に神戸市役所に入庁後、福祉・環境・港湾・財政などの分野を経て、令和7年から大学・教育連携推進課に所属。現職では、「デザイン都市・神戸」施策の推進として、「デザイン・クリエイティブセンター神戸」の運営や、シビックプライド「BE KOBE」の発信、大学との連携に取り組む。

【事例紹介②】

 本事例紹介では、神戸市が取り組んでいる「デザイン都市・神戸」の成り立ちや取組について紹介がありました。

  神戸市が「デザイン都市・神戸」を掲げた背景には、平成7年の阪神・淡路大震災が大きく関係しています。震災後の復興過程で培われた市民の創造性や助け合いの精神、これらを生かす「デザイン力」が、今後、神戸が選ばれるまちとなるための鍵と捉え、都市戦略として掲げるようになりました。

 「デザイン都市・神戸」では、デザインを専門家だけのものとせず、市民ひとりひとりの創造性を引き出す力とし捉えている点が特徴です。施策は「まちのデザイン」「くらしのデザイン」「ものづくりのデザイン」の三つの領域で展開され、公園や道路空間の再編、子どもの創造力を育む教育的取組、地域産業の付加価値向上など、多様な分野に及んでいます。特に、市民参加型の社会実験やワークショップを通じて、利用者自身がまちづくりに関わる仕組みが重視されています。

 これらの取組の中核拠点として整備されたのが、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)です。歴史的建造物である旧神戸生糸検査所を活用し、創造的人材の育成・集積、交流・連携、情報発信を行う施設として平成24年に開館しました。KIITOでは、子どもから高齢者までを対象とした創造的学びの場や、社会課題解決に向けたプロジェクトが展開され、コロナ禍以降、来館者数も増加傾向にあります。KIITOでは市民がデザインや創造性を発揮できるように、人材育成や創造的活動のきっかけとなる活動を展開しています。子どもの創造教育プログラムである「ちびっこうべ」では、子どもたちがプロの技や知識に触れ、クリエイターと協働しながら「夢のまち」をつくり、そのまちで働き・運営することを体験できます。この活動は多世代にわたる有志のボランティアの力を借りて開催しており、市民にとっても、クリエイターの創造のプロセスにふれることができる機会となるとともに、クリエイター間のネットワーク醸成にも大きな成果を上げています。


4 おわりに

 本セミナーでは、デザイン思考は市民への共感を起点に課題の本質を捉え、試行錯誤を重ねながら政策を磨き上げていく行政に不可欠な考え方であると学びました。前例や供給者視点に偏りがちな政策形成に対し、現場の声やデータを踏まえてユーザー視点で再構築する重要性を理解しました。今後の地方公共団体には、職員間で共通の考え方を持つ仕組みづくりや、市民・クリエイターと協働しながら柔軟に施策を改善していく姿勢が一層求められると感じました。

 

受講者の声 

・行政課題を解決する際に、行政のみで考えず、民間や教育機関など様々なステークホルダーを巻き込んでいくことがこれからの行政には必要だと感じた。

・せっかく出していただいたアイデアをこちらが受け取ったあと、どう生かすのかを考えて協働を始めることが大切だと思った。


執筆者:地域活性化センター  移住交流推進課
伊藤 澪奈(山形県小国町から派遣)