【終了レポート】令和7年度地方創生実践塾in大分県由布市

終了レポート

2026年03月10日

住んでよし訪れてよし"懐かしき未来"の創造 ~移住者の挑戦~

開催日:令和7年12月11日~12日

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1 開催地概要

 由布市は大分県のほぼ中央に位置し、平成17年に旧湯布院町、庄内町、狭間町が合併して誕生した市で、雄大の自然と豊かに湧き出る温泉に恵まれた、九州を代表する観光地の一つです。人口は約32,000人で、由布岳の麓に広がる盆地が中心となっています。湯平温泉は、約800年前の鎌倉時代からあったといわれ、江戸時代に花合野川(はなごのがわ)沿いに作られた坂道の石畳が特徴の温泉です。また、昭和初期には、療養型温泉として、別府温泉に次いで、九州で第2位の入湯客を誇り、当時の温泉番付では、西の横綱に番付されたこともありました。
 温泉街は、旅館が立ち並ぶコンパクトな構造で、急峻な地形と石畳と川が織りなす独特の景観があり、昭和時代の日本映画の代表作である「男はつらいよ(第30作目 花も嵐も寅次郎(昭和57年公開)」の舞台にもなるなど、「どこか懐かしい」、「時間が止まったような空間」と評されています。

2 開催地の取組

 湯平地域は、令和27月豪雨により甚大な被害を受けました。その復興に向け、単なる復興だけでなく、住民による地域課題の解決による持続可能なまちを実現するため、まちづくり協議会である「ゆのひらんプロジェクト」を立ち上げました。

 ゆのひらんプロジェクトでは、地域内の多様な組織を横断的につなぐ体制を整えています。湯平地域との様々なつながりや縁があって移住してきた移住者も中心メンバーの一員として加わり、湯平でみんな心豊かに幸せに暮らすことを目標として、様々な取組を実施しています。

3 実践塾内容

(1) 講義「ゆのひらんプロジェクトの歩み」
    講師:ゆのひらんプロジェクト 暮らしの編集局 佐藤 直哉 氏
       ゆのひらんプロジェクト 暮らしの編集局 古長 ひろみ 氏
 この講義では、「ゆのひらんプロジェクト」(湯平まちづくり協議会)の歩みについて紹介がありました。設立にあたっては、令和2年7月豪雨からの復興まちづくりを住民主体で取り組むための体制構築から始まっています。
 湯平地域には様々な組織があり、それぞれの組織ごとに情報や課題を持っていましたが、復興まちづくりを目指すには、地域全体としてビジョンを持ち、目指す方向を合わせる必要があったことから、「ゆのひらんプロジェクト」を立ち上げ、それぞれの組織の代表者を集め、課題やビジョンの共有を行い、各組織を横断的につなぐ役割を担うこととしました。湯平地域の現状と課題に合わせて、6つのプロジェクトチームが稼働しています。全体像の共有は「ゆのひらんプロジェクト」で、各個別課題についてはプロジェクトチームで取り組む体制を整えました。
 住民たちがどんな湯平にしていきたいかの意見を集めてビジョンを作成しました。ビジョンを住民主体で作成したことが、この地域ビジョンの大きな特色です。講師のお二人は、従前から湯平に居住している住民ではなく、色々な縁があって湯平地域に移住し、そして、この「ゆのひらんプロジェクト」に加わっていますが、共通していることは、自分の居場所づくりという側面もありながら、一番は、子ども達のために元気で楽しい地域を残したいという思いで活動されていることが大きな印象として残りました。
 ビジョンにも「子どもが 孫が 帰ってきたい 居続けたい まちにしよう」とあり、一つの大きな目標が地域全体で共有されていることを改めて感じ取ることができた講演でした。

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(2)講義「"復興から挑戦へ" 由布市・復興まちづくり計画」
   講師:由布市湯布院振興局地域振興課湯平地域災害復旧・復興班 主幹 秋吉 寅男 氏
 この講義では、令和2年7月豪雨と令和4年の台風14号からの復旧・復興と、10年後、20年後を見据えた復興まちづくり基本計画(以下「まちづくり計画」という。)の策定に当たっての経緯を紹介していただきました。
 湯平地域のまちづくり計画は、「まちづくりとは、住民と行政が主体となって行うもの」という前提に取り組んでおり、「最初から専門家、有識者を入れず行政が責任を持って考えを策定する」、「計画策定業務の委託コンサル会社には、まちづくり協議会の会議や意見交換会に参加してもらい行政と住民の想いを理解し意図を汲み取ってもらう」という行政主導型の共創プロセスを採用した点に特徴があります。まちづくり計画には、復旧・復興に係るハード面だけでなく、持続可能なまちづくりに係るソフト面についてもまとめており、また、行政は、まちづくりの一員として参加したことにより、住民が、参加者(=傍観者)ではなく、まちづくりの主体として取り組んできたことから、住民参加型の合意形成を図ることができています。
 一刻も早い復旧・復興に加え、新たな挑戦を行政と地域が一体となって成し遂げることを目的とされた復興まちづくり計画は策定されました。復興を「元に戻すこと」なのではなく「より強くより持続可能な地域へ進化させること」と捉え、「伴走する行政」を体現しているのが湯平地域のまちづくり計画であると感じました。
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(3) 講義「ゆのひらんアイス」
    講師:前 湯平観光協会 事務局長/旅館ゆのひら上柳屋 代表 古長 康行 氏
 「ゆのひらんアイス」は平成19年に開発された地域商品です。大分県の補助金を活用して製造機械を導入し、最初は、地元の原材料を使った「そばの実アイス」の製造から始まりました。その後、このアイスは、JR九州が運行する人気の観光列車である「ゆふいんの森号」での車内販売へと展開され、400個を納品するまでに成長した、湯平地域で愛される商品です。この「ゆのひらんアイス」は、「地域資源の活用」、「補助制度の戦略的活用」及び「外部販路の開拓」という、地域経済循環の実践モデルとなっています。
 行政の復興まちづくりが「基盤整備」だとすれば、ゆのひらんアイスは「地域主体の経済活動」の象徴であり、挑戦の文化の出発点であると感じました。

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↑ ゆのひらんアイス

(4)講義「温泉と自然とアートのまちへ」
   講師:湯平観光協会 事務局長/ゆのひらアートサイト 代表 渡邉 真紗美 氏
 この講義では、アートのまちにするというビジョンを具現化した事例の紹介がありました。湯平温泉は、石畳と立ち並ぶ旅館、川のせせらぎや温泉街に巡っている約500個の赤ちょうちんといった歴史的かつ独特な景観を持っています。水害後に設置された大型の赤ちょうちんや石畳の再生などは、湯平地区が復興していくための象徴的な空間づくりとなっています。その特徴は、単に観光客を呼び込むための機能的な整備に留まらず、訪れる人々が湯平の持つ歴史や文化、そして「懐かしさ」といった独特の雰囲気を深く感じられる、体験型の空間を創り出している点にあります。
 災害とコロナ禍を経て始まったアートプロジェクトが「YUNOHIRA ART SIGHT」です。「まちを歩く人を増やす」をコンセプトにし、常設野外作品を設置し、復興の象徴としました。特に印象的なのが、「お店でのおもてなしは人が必要だが、アートは人がいなくてもおもてなしができる」という発想でした。この発想は、全国の各地域の課題である人口減少や高齢化が進む地域における人的リソースに依存しないコンテンツを持つことによる持続可能なまちづくりのヒントと思いました。
 屋外アートは、湯平地域の景観との調和を配慮しており、湯平地域の持つありのままの雰囲気を壊さない工夫がされている点も重要です。この取組は、復興の象徴として実施されており、昭和から続いている仮装・演劇文化の継承とも合わせたイベントとして実施されています。
 「復興=インフラ整備」だけではなく、「地域アイデンティティの再構築」も取り入れた取り組みが実施されていることが象徴的でした。

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(5) 講義「山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由」
    講師:旅館山城屋 代表/(一社)インバウンド全国推進協議会 会長 二宮 謙児 氏

 この講義では、民間の旅館経営から考えられる持続可能な観光戦略についての紹介でした。二宮氏が示した出発点は明確で、人口減少社会である日本において、国内市場だけでは市場縮小が避けられないため、市場を海外に求めるという人口動態を踏まえた経営判断でした。湯平温泉の山奥に立地するにも関わらず、これをハンデキャップとしてとらえるのではなく、「探してでも行きたい宿」へと転換して訪日外国人宿泊客からも高評価を得ている旅館山城屋の実績は極めて象徴的でした。
 この成功の革新は、「最高のおもてなし=安心感」であるということでした。海外の旅行者は、交通手段やマナー、言語など常に不安を抱えています。その不安を安心感に転換するため、アクセス動画や、マナー動画、多様性への配慮など、細部まで設計された受け入れ体制を徹底的に整備しています。華やかさや豪華さではなく、心理的障壁を取り除くという経営戦略でした。また、情報発信にも成功の革新がありました。旅館山城屋のホームページは、104言語に対応し、トリップアドバイザーの活用など幅広い情報発信を行っています。「受け入れ体制の整備」と「情報発信」の両輪を上手く回すことにより、宿泊日数が長く、曜日変動の少ない外国人旅行者の特性を生かし、平均稼働率の向上につながっています。
 また、旅館山城屋の更なる特徴が、初回満足で終わらない点です。海外からのリピーター客は、来る人が同じであったとしても、同伴者が友人であったり、家族であったりと、各回で異なるという点に特徴があります。
 二宮氏の講演では、最後のまとめで、「やるかやらないか。やるならとことん。」という極めて印象に残るメッセージを残していただきました。実際の現場でまわしている二宮氏だからこそ出る言葉であるとともに、人口減少時代を生き抜く地域へのメッセージでもありました。

(6)フィールドワーク「外国人から見た湯平の魅力」
   ガイド:湯の平あんこーる商店 店主 オン ティティエロ 氏 フィールドワークでは、湯平温泉の象徴である石畳を歩き、これまでの歴史、公衆浴場などを説明していただきながら、実施しました。夕方になるにつれ、石畳街道の上空に設置された赤ちょうちんが照らす"みち"は、湯平地域の力強いまちづくりを象徴し、また、どこか「懐かしさ」といった独特の雰囲気を体感できる空間になっていました。

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4 おわりに

 今回の地方創生実践塾では、湯平地区の「復興から挑戦へ」を掲げた地域づくりの実践を学びました。講義では、行政が責任を持って将来像を描きつつ、住民と歩幅を合わせて計画を策定する姿勢や、ハード整備とソフト施策を両輪で進める重要性が示されました。
 また、ゆのひらんアイスやアートプロジェクトといった地域が主体となった新たな挑戦、更に民間旅館によるインバウンド戦略の実践からは、人口減少社会における市場選択と価値創出の具現化を感じることができました。
 水害からの復興を契機に、「地域の資源」と「地域の誇り」を再編集し、外に開かれた持続可能な温泉地へと転換しようとする湯平地域の取組は、行政と住民、民間が一体となった地域経営のモデルとして示唆に富むものであると感じました。

受講者の声

・移住者の方々がたくさんアイデアを出して湯平を守っていく姿勢をまじまじと見て見習わないといけないと感じました。
・実際にまちの中を歩くことで没入感があった。
・文字だけでなく視覚からの情報も得られる有意義な時間でした。
・フィールドワークで実際に歩くことで、まちの特徴や課題などを多数感じることができた。また、自治体の方の見方や視点、課題の捉え方などが本当に面白く勉強になった。
・湯平地域に根ざした取り組みを知れて良かったです。

■執筆者

  企画・人材育成グループ    濱田 祐輔 (兵庫県播磨町から派遣)
  地域創生・情報広報グループ  早志 梨紗 (広島県から派遣)
  移住・交流推進課       加藤 あさみ(山形県米沢市から派遣)