【終了レポート】令和6年度地方創生実践塾in岩手県紫波町
終了レポート
2025年02月12日
1 開催地概要
紫波町は岩手県のほぼ中心、盛岡市と花巻市の中間に位置し、東は北上高地、西は奥羽山脈に囲まれた総面積 238.98 平方キロメートル、人口 32,742 人(令和6年7月末現在)の町である。国道 4 号を含む 6 本の幹線が町を走り、インターチェンジや 3 つの駅があるなど、交通の便に恵まれている。農業が基幹産業であり、もち米、フルーツ等の生産が盛んである。
都市と農村の新たな結びつきを目指した「オガールプロジェクト」を展開し、日経 BP 総合研究所が発表する「全国自治体・視察件数ランキング」で上位を獲得するなど全国から大きな注目を集めている。
2 開催地の取組
紫波町は平成 10 年まちの中心部、紫波中央駅前の土地 10.7 ヘクタールを 28.5 億円で購入したが、財政難により開発が進まず、「日本一高い雪捨場」と言われていた。前町長の藤原氏は、平成 18 年に現株式会社オガール代表取締役の岡崎正信氏から、「公民連携」手法による開発を提案される。平成 19 年には東洋大学大学院と連携協定を締結し、同大学院経済学研究科公民連携専攻に町職員の鎌田千市氏を派遣した。その後、平成 21 年に「公民連携基本計画」を策定し、この計画に基づき、 公民連携手法を導入して町有地の一体的な整備を行うこととした。町や地元事業者が出資して第三セクターを設立した上で、行政と民間が対等の立場、共通の認識を持って企画段階から一緒に事業に取り組む体制を構築している。オガールプロジェクトは、こうした公民連携により、補助金に頼らずに地域活性化を実現している。 「オガール」とは「成長」を意味する紫波の方言「おがる」とフランス語の「駅」を意味する「Gare(ガール)」をかけ合わせた造語である。
3 実践塾内容
令和6年6月27日から29日にかけて『まちの未来をデザインする~オガール・日詰と農村「学校跡地」の暮らしを愉しむ~』をテーマに地方創生実践塾を開催した。紫波町での開催は、平成30年度から7年連続となった。
主任講師はオガールプロジェクトを行政の立場から推進してきた紫波町企画総務部長の鎌田千市氏である。オガールプロジェクトを含め、都市と農村のつながりを大切にしながら、暮らし心地の良いまちの実現に向けた紫波町の取組を学ぶため、全国から38人の受講者が参加した。
講義①「まちの未来をデザインする~オガール・日詰と農村「学校跡地」の暮らしを愉しむ~」主任講師: 紫波町企画総務部長 鎌田 千市 氏
主任講師の鎌田氏から、オガールプロジェクトをはじめとする紫波町のまちづくりについて紹介いただいた。
紫波町では、10年間放置状態にあった町有地活用について、民間主導で進めることを決め、民間主導型の公民連携(PPP)を活用したまちづくりを行っている。まちづくりにおいて、まず町民や民間企業の意向調査を実施しており、町民との意見交換会は2年間で100回を数えた。こうした取組をもとに、「都市と農村の暮らしを「愉しみ」、環境や景観に配慮したまちづくりを表現する場にします。」を理念とした紫波町公民連携基本計画を策定した。
こうした入念な事前準備に基づき開発を進めた結果、地価公示価格は11年間で33.1%上昇し、エリアとしての価値の向上につながっている。オガールだけでなくリノベーションまちづくりや学校跡地の活用など、町全体でPPP手法を活用した取組が広がっており、「公」と「民」が協力することと役割の重要性を学ぶことができた。
フィールドワーク1「日詰商店街さんぽ」
鎌田氏に先導いただき、紫波町内にある日詰商店街のまち歩きを実施した。大学時代のインターンを機に紫波町に移住した南條氏が経営している空き家を活用したカフェや、災害時だけでなく住民が集まれる場所として建てられた消防団詰所を見学した。
フィールドワーク2「オガールさんぽ」
紫波中央駅の西側駅前10.7ヘクタールといった敷地を誇る、「オガール地区」を3班に分かれて歩きながら、各講師から各施設の概要やこれまでの経緯などを説明いただいた。
図書館や情報交流センターなどから構成される「情報交流館」や県内一を誇る民営の産直販売所「紫波マルシェ」のほか、飲食店、病院、学習塾等の民間テナントが入居する官民複合施設『オガールプラザ』、宿泊施設「オガールイン」やバレーボール専用体育館「オガールアリーナ」がある『オガールベース』、紫波町型エコハウス基準を満たす住宅が建ち並ぶ『オガールタウン』などを見学した。エリアの中央に位置する「オガール広場」では、芝生の上を走る子どもたちの様子や、東屋の下で談笑する町民の姿が見受けられるなど、オガールの持つ多様性に触れる機会となった。
講義②「エネルギーから暮らしをデザインする~快適で省エネなエコハウス~」特別講師:株式会社エネルギーまちづくり社 代表取締役竹内 昌義氏
竹内氏からは、オガールプロジェクトのうち、「脱炭素・省エネ化」という観点からご講義いただいた。
オガールタウンへの居住にあたり、年間暖房負荷を48kwh/㎡に抑えることを必要条件にするなど、自主的に厳しいルールを設けた。最初は売れ行きが低調であったものの、半分を過ぎると一気に完売となった。
日本は、建築物の断熱・気密性能を向上させることに真っ先に取り組んできたため、室内の空調の効きが良く、節電に貢献している。
一方で、再生可能エネルギーの使用割合は日本全体の生産エネルギーのうち約20%に過ぎない。そのため、有事の際はエネルギー供給が途絶え、日本は1週間しかエネルギー供給が持たない現状である。エコ的な観点からも再生可能エネルギーの割合を大きくする必要がある。
すべてのエネルギーを再生可能エネルギーでまかなう、脱炭素化とは、単なる手段である。本当の目的は市民が豊かな生活を享受できることである。
講義③「風景にさわる~そこでしか生まれない次の風景~」特別講師:有限会社オンサイト計画設計事務所 代表取締役⾧谷川 浩己 氏
長谷川氏からは、「風景にさわる ~そこでしか生まれない次の風景」について、ご講義いただいた。
世界の流れをあり様として、風景として全体像を捉えることが大切である。理に適っていない風景は続かない、何らかの理由・何らかの力が働いて今の風景が広がっている。オガールプロジェクトのように新しいことが始まると、新しい風景が生まれ、配置を少し変えると印象は大きく変わる。
現在、紫波町はノウルプロジェクトを進めている。農業という基幹産業を支える施設、紫波町ならではの魅力的な農の風景をつくることを目標にしている。自分たちの農村が美しいなと思える風景、「地の風景」と「生業の風景」を架け合わせ、過去の記憶が浮かび上がる風景を創っていくことが大切とのことであった。
講義④「風景から稼ぐ仕組みを創る~オガールとノウルの思考プロセス~」特別講師:株式会社オガール 代表取締役 岡崎 正信 氏
岡崎氏からは、紫波町でのプロジェクトである「オガール」と「ノウル」を題材に、「風景から稼ぐことについて、ご講義をいただいた。事業の成功は、「継続できていること」であり、「いいものが売れるのではなく、売れるものがいいものである」といったことを強調され、それを実現するうえで「逆算開発」の考えが必要になると述べられた。逆算開発を実現する上で、「大変なことは先にやる」であったり、「売ってから作る」であったりが必要になるとのことである。
また、成熟社会において、町を成長させるためには、企業城下町の考えからの脱却が必要であり、「都市・まちの価値=生活の価値」に変化していると、述べられた。「仕事があるから人が住む」のではなく、「いい暮らしがあるから人が住む」のであって、豊富な選択肢の中から住む場所として、いかに選択してもらえるかを考える必要があると感じた。
トークセッション コーディネート:紫波町 参与 高橋 堅 氏、竹内 昌義氏、岡崎 正信 氏、鎌田 千市 氏
公民連携を開始したときに職員として携わった紫波町参与の高橋堅氏がトークセッションのコーディネートを務め、公民連携を始めた当時の経緯や会議等、様々なことが話し合われた。公民連携は民間に丸投げするものではなく、行政と民間が一緒に住民も巻き込んで作り上げていくものだと学ぶことができた。
講義⑤「日詰商店街に潤いを~人をつなぎ、巻き込むことで新しい動きに~」特別講師:藤屋食堂 代表 鷹觜 賢次 氏
鷹嘴氏は、日詰商店街において、地元の酒粕を使ったフルーツサンドが大人気の藤屋食堂を営む一方で、インターンの学生や移住してきた新しい住民たちと積極的につながりを持ち、サポートを行っている。そんな鷹嘴氏に日詰商店街の変化と、ご自身の取組について、講義いただいた。
店舗が減ったり、オガールの建設により役場が移転したりと大きな逆境を迎えていた日詰商店街だが、「未来を創造し、考え方を変化させ、行動を起こす」ことで、経済産業省中小企業庁『はばたく商店街30選』に選出されるまで活気を取り戻していた。「人々の笑顔が織りなすことで潤いのある日詰商店街へ」をキーワードとした取組の実例として、学生インターンとともに考案した「酒かす料理」の開発や、コロナを機に立ち上げた「日詰未来プロジェクト」の活動、紫波町の魅力を発信するとともに自ら楽しみ、行動し、共感を得ながら豊かな暮らしを目指す社会人グループ「しわりり」の活動、若者の拠点「YOKOSAWA CAMPUS」、町の結節点「ひづめゆ」などを挙げられた。だれのため、何のためを考え、様々な立場の人と協力することが、効果的な取組を行う上で重要になることを感じた。
講義⑥「少しの勇気で小さな公民連携を積み重ね、地域みんなで大きな夢を育もう~オガールプロジェクトの学びを次の世代へ~」特別講師:紫波町産業部商工観光課商工観光係⾧ 須川 翔太 氏
須川氏からは、紫波町で実際に取り組まれている公民連携の活動について、ご講義いただいた。
紫波町の中央部だけでなく農村部も含めて、ヒト・モノ・カネを好循環させ地域を活性化していく、そのためには仲間と一緒に泥臭い公民連携を重ねていくことが大切である。
自分に知識がないと事業者と対等に議論ができず要望を聞くだけの間柄になってしまう。そこで自身も専門的知見を得るため資格を取得し、プレイヤーの一人として現場でも活動した。結果的に仲間が増え、まちの空気が変わり、まちが活性化していった。
「公平公正に」という言葉を意識しすぎると、行動を起こさない言い訳となり、結果として最も不平等になる可能性がある。紫波町でなら想いが叶うを実現するために、自分でできる一歩から行動する必要があるとのことであった。
4 おわりに
紫波町では、行政と民間が同じ目標を目指してまちづくりを行っていた。日詰商店街さんぽや鷹觜氏、須川氏の話などこの実践塾を通して、オガールプロジェクトだけではなく地域住民や行政職員の一人一人が「まちづくり」を"他人ごと"ではなく、"自分ごと"として捉え、それぞれのかたちでまちづくりに貢献していることを強く感じた。
受講者の声
・組織や住民と共に動き始めるに必要な事を知れた。
・意外にも建築の話があり面白かった。
執筆者
企画人材・育成グループ 吉澤 利能(熊本県菊池市より派遣)
井下 雄翔(福井県より派遣)
山脇 英明(東京都中野区より派遣)
連絡先
セミナー統括課
TEL:03-5202-6134
FAX:03-5202-0755
E-mail:seminar(at)jcrd.jp ※メールアドレスの(at)は@に変更ください。