【終了レポート】令和7年度地方創生実践塾in島根県海士町

終了レポート

2025年12月01日

若者に選ばれ続ける島へ~関係人口と共創による地域経営の挑戦~

開催日:令和7年10月23日~25日

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1 開催地概要

 島根県海士町は島根半島から北方約60㎞に位置する隠岐諸島の一つである中ノ島全体を町域とする1島1町の町。面積33.4㎢、人口2,206人(令和7年1月時点)。対馬暖流の影響を受けた豊かな海と、日本の名水百選にも選ばれた天川をはじめとする湧水に恵まれ、半農半漁の営みで自給自足の暮らしができていた島である。明治期には小泉八雲が菱浦港を気に入り8日間滞在し、その体験を『知られざる日本の面影~伯耆から隠岐へ』に記している。

2 開催地の取組

 島根県海士町では、人口減少や島外流出に対応するため、島外の人が地域に関わる機会を広げ、滞在人口や関係人口の拡大を進めている。例えば、「大人の島留学」は、大学生や社会人が一定期間滞在し、仕事や暮らし、地域活動を体験できる取り組みである。こうした滞在を通じて得たつながりは継続的な関係へと育ち、島内外の協働による新たな地域経営を支える重要な基盤となっている。

3 実践塾内容

(1)講義「あらゆる境界を越えて、魅力的で持続可能な海士町の実現へ」

   講師:AMAホールディングス株式会社 代表取締役社長 大野 佳祐 氏

 隠岐島前高校の魅力化事業及びAMAホールディングスのこれまでの取り組みについて講義いただいた。

 ①隠岐島前高校の魅力化

 隠岐島前高校はかつて廃校寸前であったが、島留学によって島外から生徒を受け入れる体制を整え、PBL(プロジェクトベースラーニング)を実践することで学校の魅力化を進めた。その結果、生徒数とクラス数が倍増し、生徒の約半数を島外生が占めるようになった。この取り組みを通して、「しごとをつくる」ことに加え、長期的には「しごとをつくる人を育てる」ことが重要であると捉えている。

 ②AMAホールディングスの取り組み

 AMAホールディングス株式会社は、挑戦する人材を育成し新規事業の創出を図る取り組みを行っている。初めに事業投資に必要な外貨としてふるさと納税の寄付額を5年間で約7倍に増やした。そして、その寄付を原資に基金を立ち上げ、500万円以上の規模で島の将来を担う事業に出資している。

 次に事業を担う人材確保として、大人の島留学制度を開始。毎年島留学生の約20%が島に就職しており、島外に戻った人々も関係人口として地域に関わっている。暮らしのベースを支える住宅不足に対しては、VUILD社のNESTINGを活用した自力建設を進め、住民参加による新たな住宅モデルを構築している。

 さらに、町のファンをアンバサダー化として可視化することにより、関係人口を地域経営に取り込んでいる。最後に、地域をアップデートできる条件として、新しい発想をもたらす人、テクノロジー、ローカライズできる人の3つを挙げ、都市と地方の関係は対等な形に変化していると説明した。

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(2)講義「島留学・複業協同組合とは?」

   講師:海士町複業協同組合 事務局長

      島前ふるさと魅力化財団 還流事業部 統括マネージャー 山口 祥史

 大人の島留学をはじめとする関係人口創出の取り組み及び海士複業協同組合について講義いただいた。

 はじめに、大人の島留学は、移住定住を前提とせず「留学」と位置づけることで地方参入の心理的ハードルを下げ、若者の流入を促進する取り組みである。結果として移住人口の獲得と良質な関係人口の創出につながっている。期間は1年間または3か月間で、地域おこし協力隊インターンの交付税を活用して実施されている。運営は島前ふるさと魅力化財団に委託されており、募集からマッチング、留学開始までを担っている。令和3年度から6年度の4年間で487人を受け入れている。

 大人の島留学以外にも、関係人口による地域経営参画制度として「海士町オフィシャルアンバサダー」があり、地域外にいながら役割を持ち、海士町の一員として活動できる仕組みである。複数のプランによって経済的貢献度が可視化され、島民同様のサービスを受けることもできる。

 また、DAO(分散型自律組織)を活用した「AmanowaDAO」は滞在人口や関係人口の中でもオーナーシップの高い人材の貢献を可視化する仕組みで、クエスト達成によりコイン付与やステータス向上などのリワードが与えられる。

 また、2020年に全国第1号の特定地域づくり事業協同組合制度の認定を受けた人材派遣会社として海士町複業協同組合(AMU WORK)を設立。組合員へワーカーを派遣し、派遣実績に応じた料金を得ることができる仕組み。組合員となった事業所の視点でみると、通常の雇用より負担が抑えられる設計となっており、一定の水準でスキルを持つワーカーを効率的に確保することが可能である。

(3)大人の島留学生との座談会

 少人数のグループ形式で、2名の島留学生と意見交換を行った。島留学に参加したきっかけ、島で取り組んでいる仕事、島での生活などについて、リアルな声を聞くことができた。島留学生は大学生をはじめ20代の若者が多く、活動内容は漁師の手伝い、水産加工場での作業、地域情報発信、住環境の整備等多岐にわたっていた。

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(4)フィールドワーク①

 VUILD社のNESTINGを活用し、大人の島留学生が中心となって建設した「シン・住宅」を視察した。建設に携わった島留学生の方にも同席いただき、住宅の構造や建設時のエピソードについて直接話を聞くことができた。住宅の外壁デザインは一棟ごとに異なっており、それぞれのこだわりが感じられた。続いて町内にある古民家に行き、島留学生と一緒に障子の張り替え作業を体験した。

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(5)講義「島と世界がつながる地方創生プロジェクト!〜地方に新たな価値を創出する取組みへの挑戦〜」

   講師:AMA Whiskey&co.㈱ 代表取締役社長 山内 茂 氏

 海士町におけるクラフトスピリッツを活用した地方創生の取り組みについて講義いただいた。

 AMA Whiskey&Co.株式会社は、海士町を拠点に地域資源を活かしたジンやウイスキーの製造を通して地方創生に取り組む企業である。会社の特徴として、経営陣が全員島外在住であり、定期的に島へ通いながら事業を進めている点が挙げられる。島外の人材が関係人口として関わり、地域経営に貢献している事例となっている。民設民営の形で島に新たな産業を根付かせたいという想いから、最終的には原材料も地産地消で製造することを目指している。

 海士町を選んだ理由として、隠岐四島の中で唯一湧き水のみで生活できる豊富な水資源に加えて、大江町長をはじめ挑戦を楽しむ人々の存在や行政のスピード感が、プロジェクト推進の強い後押しとなったという。蒸溜から熟成まで島内で製造を完結させ、販売も島内に限定して展開することでプロダクトの価値と一緒に島全体のブランド化を図っている。

 さらにプロダクトを用いた関係人口拡大施策として、トークンを活用したマーケティングモデルを構築。トークン保有者は本来島でしか購入できないプロダクトをECサイトから購入できるほか、コミュニティでの意思決定に参加でき、単なる購入者ではなくブランドを共に育てる仲間として位置づけられる

 これらの取り組みがもたらす地域へのインパクトとして、雇用創出、移住以外の関わり方の提示、共創コミュニティの拡大、情報発信力と地域ブランド価値の向上、そして持続可能な産業の構築が期待されると述べた。

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(6)フィールドワーク②

 海士町役場と隠岐神社を視察。2024年竣工の新庁舎1階にある未来共創スペース「しゃばりば」は、誰でも自由に利用でき、住民や来訪者による交流や協働が生まれる場として機能している。しゃばりばでは、庁舎の建替えで廃棄予定だった備品や素材を住民参加のワークショップでリユースし、多くの家具や設備を再生して活用している。

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(7)フィールドワーク③

 八雲広場を中心に、ガイドの方の案内を受けながら菱浦港周辺を視察。八雲広場は、小泉八雲と妻セツが滞在した岡崎旅館の跡地につくられた公園であり、現在は連続テレビ小説「ばけばけ」の舞台としても注目されるスポットとなっている。

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4 おわりに

 海士町では、人口減少や若者の島外流出という状況のなか、若者に選ばれる地域を目指して多様な挑戦を重ねていることが分かった。高校魅力化や大人の島留学、複業協同組合など、他の地域の先駆けとなる取り組みを数多く実践している点は特に印象的であった。また、島の経営に島外の人も組み込み、内と外が一体となって地域づくりを進めている姿勢は大きな特徴である。人口減少や若者流出は多くの地域が抱える共通課題であり、海士町の事例は他の地域にとっても大きな学びとなると感じた。

■受講者の声

・役場の方をはじめ、町の方々の行動力の高さに驚いた。講義だけでなく、フィールドワークや大人の島留学生との話を通して、海士町の魅力を実感できた。

・行政民間問わず、島民の努力や地域の力の高さを感じる実践塾だった。関わっている方々との交流を通し、人のつながりや温かさも島の魅力の一つになっていることを知ることができた。

■執筆者

 地域創生課       飯山 由貴 (新潟県佐渡市から派遣)

 移住・交流推進課    河北 佐那子(福岡県から派遣)