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【終了レポート】デジタルを活用した地域の防災対策~デジタル×防災~
新たな知と方法を生む地方創生セミナー(ベーシック) 終了レポート
2025年10月31日
1 はじめに
令和7年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー(ベーシック)「デジタルを活用した地域の防災対策」を開催し、地方公共団体等から22名の参加がありました。
2 今回のテーマ
日本は災害が多く、地方公共団体では防災予算や人員が不足する中での災害への対応が課題となっています。こうした中で、デジタル技術の活用により、災害の予測や情報共有、迅速な対応が可能となり、地域の防災力の向上につなげることができます。本セミナーは、各地の事例を紹介することで、参加者が自らの地域で活かせる実践的な知見やヒントを得ることを目的に開催しました。
3 講義内容
(1)講義:「防災分野でのデジタル官民連携と防災庁設置に向けての議論と模索」
講師:神奈川県情報統括責任者(CIO)兼データ統括責任者/防災DX官民共創協議会 専務理事 江口 清隆 氏
「防災DX(デジタルトランスフォーメーション)」をテーマに、行政と民間が連携して災害対応力を高める取組について自身の被災地支援経験をもとに、実践的かつ具体事例を交えた講義をされました。
はじめに、防災DXの出発点は「人命を救うこと」であり、デジタル技術は手段に過ぎないと述べられました。行政の防災では、画一的な避難指示や情報発信が行われているが、現在はスマートフォンといった個人端末の普及により、避難情報を個別に届けることも可能になっていると言います。例えば、同じ市内でも地形や住環境によって必要な避難行動が異なるケースがあり、これをデータとネットワークを活用することで、より的確な避難誘導が可能になるそうです。
続いて、能登半島地震における具体的な支援事例が紹介されました。講師自身が災害発生から一週間後に石川県庁に入り、民間と行政の混成チームを結成しました。能登半島地震においては、地方公共団体が指定する避難所以外にも、個人や団体が自主的に開設した避難所へ避難する住民が多数見られました。それに対応して行政、医療派遣チーム、自衛隊など各機関がそれぞれ把握している避難所情報を統合するシステムを開発し、避難所の特定を進めていったそうです。また、避難所運営においては、交通系ICカードを活用して避難者の動態を把握する仕組みを導入したほか、各NPO、NGOが保有するアセスメントデータを一元化する取組も行われ、避難者支援の効率化と情報共有の強化を図ったそうです。これらはすべて、災害関連死の防止を目的としたものであり、「今どこに誰がいて、何を必要としているか」を可視化することの重要性を繰り返し強調していました。
また、「支援を受ける側の準備」の大切さにも触れられました。災害時にはNPO、NGO、政府など多様な主体が支援に乗り出しますが、それらを受け入れ、整理し、適切に活用する体制がなければ、かえって混乱を招く恐れがあると言います。支援者の信用やスキルをどう見極めるか、平時から支援受入れの枠組みやルールを整えておくことの重要性を話されていました。
さらに、災害時に発生する膨大な行政業務(罹災証明発行、義援金申請支援など)についても、AIやデジタル技術を活用することで業務効率化が可能であり、それにより人員を人命救助や支援の現場に集中させられると語られました。
講義の最後には、南海トラフ地震のような広域災害に向けた備えの必要性を指摘されました。局所的な災害と異なり、日本全体が被災する可能性があるため、「各地方公共団体で完結する災害対応」はもはや通用せず、広域での官民連携、データ共有が不可欠であると述べられました。
(2)事例紹介①:岐阜県大垣市
講 師 :岐阜県大垣市危機管理部危機管理課 主事 山下 凌 氏
大垣市が令和3年度から推進している防災DXの取組について紹介されました。同市では新型コロナウイルス感染症の影響により、避難所での密や防災訓練の実施が困難といった課題が生じていました。それらをデジタル技術で解決することを目的に、「避難所受付」「デジタル防災訓練」「シェアリングエコノミーの活用」「自由提案」の4つのテーマで全国から事業提案を公募したところ、39件の応募があり、3つの事業を採択しました。
採択したのは、①避難所受付支援システム ②スマホで防災訓練 ③防災備蓄管理システムの3件。事業は 公民連携で進め、全国のスタートアップ企業と連携して実証実験を行ったそうです。提案の募集には、地方公共団体とスタートアップをマッチングする全国的なプラットフォーム「アーバンイノベーションジャパン」を活用したことで、ネットワークを生かした効果的な周知ができたほかIT専門家の助言なども受けることができたと言います。
「避難所受付支援システム」では、スマートフォンのQRコードやマイナンバーカード、免許証などを活用し、避難所での受付を簡略化する仕組みを導入しました。実証実験では、従来の紙による受付時間が122秒であったのに対し、QRコードによる受付は24秒となり、時間短縮と混雑緩和の効果が確認されました。避難者情報は災害対策本部で即時確認できるようになり、名簿をスムーズに作成できるようになりました。「スマホで防災訓練」では、若年層の参加促進とコロナ禍に対応した訓練の実施を目的に、スマートフォン向けアプリを開発し、体験版のウェブ公開やアンケートによるニーズ調査を経て、アプリを配信しました。アプリは令和5年末で事業終了となりましたが、大垣防災フェスで多くの親子に体験してもらったほか、中学生を対象としたジュニア防災士養成講座でも活用されました。
「防災備蓄管理システム」では、市内191カ所の備蓄倉庫情報がアプリ上で一元管理できるようにしました。エクセルによる従来の手作業管理から移行し、業務の効率化や引き継ぎの簡略化が実現。また、賞味期限の通知や災害時の物資管理との連携機能も搭載され、現在は平時の在庫管理で運用が進められています。
(3)事例紹介③:香川県高松市
講 師 :香川県高松市総務局デジタル推進部デジタル戦略課 課長補佐 岡 宗典 氏
高松市は、香川県中央に位置し、瀬戸内海と讃岐山脈に囲まれた自然と都市機能が調和した中核市です。平成29年度からスマートシティをまちづくりの重点事業に位置づけ、産学官連携の「スマートシティ高松推進協議会」を設立。IoT共通プラットフォームを中核に、多様なデータを集約、可視化しました。特に防災に関する情報は、災害時の分析に役立てるとともにオープンデータとして市民にも公開しています。
防災分野では、災害対応経験の不足や部と海の距離が近いという立地条件によるリスクを背景に、ICTを活用した災害対応の取組を進めています。
水位、潮位センサーを設置し、県と連携して県が管理する河川の水位情報も収集しているほか、土砂災害・危険区域等の地図情報や避難所の停電・通電情報も収集しています。これらの対応により、現場状況をリアルタイムで把握し、避難行動の呼びかけの迅速化、的確化を図っています。
ダッシュボード上では水位、潮位、アンダーパスの冠水状況、避難所情報等を一元表示し、警戒が必要な地点は色分け表示される仕組みを導入。これにより、職員は現場に赴かずに状況確認が可能となり、初動対応の効率化につながっているそうです。
市民向けには、防災アプリ「高松マイセーフティマップ」を提供し、避難所や病院、浸水予測等を可視化。香川県内の綾川町、観音寺市とIoT共通プラットフォームを共同利用し、水位、潮位や気象情報、道路通行実績を共有する広域防災体制も構築されました。
成果として、災害初動対応の効率化、リアルタイムでの情報共有、関係機関との連携強化、県内市町との共同利用による防災力向上につながったそうです。一方、システム運用には継続的なコストや機器更新が必要となっており、システムを維持していくためには、プラットフォームの活用分野拡大や民間ソリューションとの連携強化が課題となっているようです。市ではこれらの課題に対応しつつ、防災力強化と災害に強いまちづくりを継続していく方針です。
4 おわりに
この研修を通じ、防災DXの推進は単なる業務効率化ではなく、「人命を救うための手段」であることを改めて認識しました。わたしは、行政と民間が連携し、地域ごとの状況に応じた情報提供や避難誘導を行うためには、データ基盤の整備と多様な主体の協力が不可欠だと考えます。能登半島地震や各地方公共団体の事例からは、平時からの受援体制構築や情報共有の仕組みづくりが災害時の混乱防止につながると感じ、今後の地域防災力向上に向けた取組の方向性を考える大きなきっかけとなりました。
| 受講者の声 "防災分野のDXを発災時の経験などを元に学ぶことができました。今は担当課ではないですが、対応が必要になってからでは遅い分野なので、事前に考える良いきっかけになりました。" "避難所の受付は実際行うと混乱が多いため、岐阜県大垣市の取組は少しでも手間を減らすことができ、非常に有効だと感じました。" |
執筆者:地域活性化センター 企画・人材育成グループ
姉崎 紗也(福井県福井市)から派遣
連絡先
セミナー統括課
TEL:03-5202-6134
FAX:03-5202-0755
E-mail:seminar(at)jcrd.jp ※メールアドレスの(at)は@に変更ください。