【終了レポート】地域経済循環分析 経済波及効果から考える地域の未来

新たな知と方法を生む地方創生セミナー(ベーシック) 終了レポート

2025年12月16日

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1 はじめに

 令和7年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー「地域経済循環分析 経済波及効果から考える地域の未来」を、令和7924日(水)に開催しました。地方公共団体などから30名の参加があり、地域経済を"数字"から捉え直す手法について、基礎から応用まで学ぶ機会となりました。

2 今回のテーマ

 本セミナーは、地域経済循環分析と経済波及効果という2つの視点から、地域内でのお金の生産・分配・使用状況を客観的に捉え、「お金の流れ」を可視化しつつ、データに基づく政策立案(EBPM)へとつなげるための考え方と、根拠ある施策づくりと説明責任を果たすためのツールの活用方法を学ぶことを目的として開催しました。

3 講義内容

(1)講義:「地域経済循環分析の基礎知識~データを活用した政策立案に向けて~」
   講師:一般財団法人 地域活性化センター 常務理事 大西 達也 氏

 第一部では、地域活性化センター常務理事の大西氏より、「地域経済循環分析の基礎知識~データを活用した政策立案に向けて~」をテーマに講義がありました。

 大西氏はまず、地域経済政策の目的は「地域住民の所得を高めること」にあると強調しました。そのためには、地域経済の長所・短所を客観的に把握し、長所を伸ばし短所を補う政策を組み立てることが必要であり、その土台としてエビデンスに基づく政策立案(EBPM)が求められていると述べました。

 続いて、企業誘致・観光客誘致・補助金獲得といった典型的な地方創生の手段を例に挙げながら、「雇用は本当に地元住民に回っているのか」「税収や利益は本社のある大都市へ流出していないか」「観光客が買う土産物はどこで生産されているのか」といった視点から、外からお金を"呼び込む"だけでは、必ずしも地域住民の所得増につながらない現実を示しました。

 ここで重要となるのが、地域内でのお金の循環です。講義では、地元資本の旅館を例に、食材・人件費・修繕工事などをできるだけ域内で調達する場合と、多くを域外から調達する場合とで、同じ売上であっても地域に残る所得が大きく異なることが示されました。また、企業誘致や観光、補助金などでバケツに水(お金)を注いでも、穴(域外への支出)が多ければどんどん漏れてしまうという「漏れバケツ理論」を用いて、流入額を増やすことと同時に、流出を抑える視点の重要性が説明されました。

 さらに、地域経済を「生産」「分配」「支出」の三つの局面から捉え、所得の発生と地域外との流出入を把握するのが地域経済循環分析であると紹介。そのうえで、近年は国が提供するRESAS(地域経済分析システム)や環境省の「地域経済循環分析自動作成ツール」により、市町村自らが循環構造を分析できる環境が整いつつあることに触れました。かつてはコンサル委託に頼らざるを得なかった分析が、今では自前で更新・比較できるようになったことは大きな進歩であり、説得力ある政策立案と議会・住民への説明に役立ててほしいというメッセージが示されました。

 講義の最後には、「データは万能ではなく、過去の情報である」「統計に現れない実態や地域の空気を、自らの足と目と耳で補うことが必要」との注意喚起がなされました。データ分析と現場感覚の両輪で、地域の弱みだけでなく強みや可能性も見出していくことが重要であるとまとめられました。

(2)講義:「経済波及効果とは」
   講師:一般財団法人 地域活性化センター 副参事 永森 健太 氏

 第二部では、地域活性化センター副参事で北海道芽室町からの派遣職員である永森氏から、「経済波及効果とは」をテーマに講義が行われました。

 はじめに、経済波及効果とは、一つの事業や投資が、直接関わる範囲を超えて関連産業や地域社会へ"波紋"のように広がる経済効果であると解説。商業施設の建設を例に、建設工事やテナント賃料等の「直接効果」、その結果増加する建設資材・運送などの需要の「間接効果」、さらに従業員の所得増が新たな消費を生む効果まで含めて評価する必要があることを、図を用いて分かりやすく説明いただきました。

 次に、こうした波及効果を定量的に捉えるための基盤となる「産業連関表」について紹介がありました。産業連関表は、産業同士がどの産業からどれだけ仕入れ、どの産業・家計・輸出にどれだけ販売しているかを金額で表したもので、産業間のつながりを体系的に可視化するツールです。農業・製造業・サービス業の簡略版の表を例に、縦の列は「何をどれだけ投入して生産しているか」、横の行は「生産したものをどこにどれだけ販売しているか」を表すこと、そして都道府県ごとに産業連関表が整備されていることが紹介されました。

 さらに、産業連関表を基に経済波及効果を求める理論上の計算式にも触れつつ、「行列計算やベクトルを用いる本格的な手法を地方公共団体の現場で一から習得・継続するのは現実的に難しい」という課題が指摘されました。

 こうした高度な計算作業を地方公共団体が自前で担うには負担が大きいという課題を踏まえ、永森氏は環境省が提供する「経済波及効果分析ツール」を活用した実践的なアプローチを紹介しました。

 このツールを用いれば、自前で産業連関表を作成したり、複雑な計算式を用いたりすることなく、地方公共団体名や施策規模(観光客数、移住者数、公共事業費など)を入力するだけで、売上・直接効果・間接効果・税収増などの推計結果が自動で算出されます。

 講義では、北海道芽室町を例に、観光客1万人増加のシミュレーション画面が動画で紹介されました。ツール上で観光客数を入力すると、1人当たり支出額や宿泊率等の初期値を基に、域内調達率を考慮した経済波及効果が瞬時に計算され、パワーポイント形式の報告書が自動生成される様子が示されました。資料には、「地域外への流出を考慮する場合」と「地域外への流出を考慮しない場合(全て域内調達と仮定した最大ポテンシャル)」が併記され、域内調達率の違いが経済波及効果の規模に大きく影響することが視覚的に理解できる構成となっています。

 また、空き家対策(移住者数の増加)、子ども・子育て施策、公共事業など、複数のメニューについてもデモンストレーションが行われ、いずれも数項目の入力だけで波及効果が算出されること、結果表の形式が共通しているため、職員が学びやすく比較もしやすいことが紹介されました。

 さらに、初期設定値を自地域の実情に合わせて変更することで、より現実に近い推計が可能になることも強調されました。例えば、独自に実施したアンケートや既存の家計調査結果を用いて、宿泊率や1人当たり支出額、域内調達率を修正することで、「自分たちのイベント・事業ならどの程度の波及効果が期待できるのか」をシミュレーションできます。国が用意した平均値を鵜呑みにするのではなく、「どのデータを根拠に、どのような仮定を置いたか」を明示しながら、自地域版にカスタマイズすることの大切さが指摘されました。

 応用編として、徳島市が阿波おどりの経済波及効果を独自に算出・公表した事例が紹介されました。徳島市では、来場者数や支出額を調査・推計し、産業連関表に当てはめることで、「生産25億円を誘発し、約400人分の就業機会を創出」という結果を公表しています。

 ここで永森氏は、①仮定条件を丁寧に設定し公表すること、②モバイル空間統計や既存の消費動向調査など外部データを最大限活用すること、③条件を変えたシナリオ比較ができるようにしておくことの3点を、実務上の重要なポイントとして整理しました。完璧なデータが揃わなくとも、「どの前提でどの数値を用いたか」を残しておくことで、次年度以降の改善や政策議論につながる"生きた数字"になることが強調されました。

4 おわりに

 本セミナーを通じて、地域経済を「循環」と「波及」という2つの視点から捉える枠組みと、その具体的な分析手法を整理することができました。RESASや環境省の「経済波及効果分析ツール」など、国が整備した仕組みの活用可能性と、データを読み解く際に必要となる視点の双方を確認できたことは、今後の情報提供や研修企画を行ううえでも大きな収穫となりました。

 また、データは過去と仮定に基づくものであり、現場の感覚や住民の声と併せて活用することの重要性も改めて認識する機会となりました。講義全体を通して、「数字を算出する行政」から「数字を生かす行政」への転換というテーマが一貫して示されており、地域経済に関する理解を深める上で非常に有意義な内容となりました。

受講者の声

・普段知る機会のなかった経済循環、波及効果の算出について知ることができた。

・環境省の地域経済分析ツールについて、非常に利便性が高いことが分かった。こうしたツールを活用すれば、地域関係者間の合意を形成しやすいと感じた。一方で、データを踏まえた政策の立案のプロセスをもっと勉強してみたかった。

・同じ金額でも地域内でお金を循環できるかどうかで結果が大きく異なることは驚きだった。

・難しい内容もありましたが、資料がわかりやすく、あとから見返す際も役立つものだと思いました。ツールがあることも知れたので、機会があれば使ってみたいと思いました。

・実務に反映できる内容であったため、有意義であった。実際に活用できるようになりたいと感じた。

執筆者:地域活性化センター 地域創生・情報広報グループ
    竹村 直人(島根県江津市)から派遣

連絡先

セミナー統括課
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