【終了レポート】事業承継~地域経済持続のキモ~

新たな知と方法を生む地方創生セミナー(ベーシック) 終了レポート

2026年01月15日

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1 はじめに

 令和7年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー「事業承継~地域経済持続のキモ~」を開催し、13名の参加がありました。

2 今回のテーマ

 地方における事業承継の課題と地方公共団体による支援の在り方について、先進事例を通じて学び、地域経済の持続可能性を高めるための方策を探ることを目的として開催しました。

 講師として、事業承継版空き家バンクである「継業バンク」を運営するココホレジャパン株式会社代表取締役の淺井克俊氏を迎え、事例発表者として富山県南砺市からケイギョーラボ代表の遠藤あずさ氏、宮城県東松島市から東松島市復興政策部復興政策課地方創生・基地対策係の大丸喜史氏と東松島市復興政策課移住コーディネーターの関口雅代氏が登壇しました。

3 講義内容

(1) 講義
  講師:ココホレジャパン株式会社  代表取締役 淺井 克俊 氏 

 淺井氏は2012年に岡山県に移住後、地域の課題の根幹にあるのは後継者不在であると感じ、継業バンクというサービスを立ち上げた経緯を説明しました。現在、経営者の約6割が70歳以上であり、そのうち約半数にあたる127万人が後継者不在という状況にあります。地方では中小企業だけでなく、農業、伝統産業、商店街も同様の課題を抱えています。

 淺井氏は事業を規模と展開エリアで整理し、大手M&A仲介や地域金融機関が手数料を取って仲介する領域と、手数料が取れないため民間が介入しにくい小規模事業の領域があることを示しました。個人経営の飲食店や小規模製造業は、一つ一つの事業規模は小さいものの、こうした事業者が地域の魅力を支える社会的資本として不可欠であると強調しました。地方創生の起点は地域産業であり、魅力的な小規模事業者があるから地域に関わる人がいる、地域産業が消失すれば地域に関わる人も減少すると指摘しました。

 令和6年度に総務省が初めて事業承継人材マッチング支援事業で特別交付税措置を創設したことは画期的であり、対象経費(調査、セミナー、マッチングプラットフォーム)の半分を措置する制度で、来年度以降の活用を促しました。

 淺井氏は中小企業庁が定める事業承継を進める4ステップを紹介しました。第一は地域内事業者の支援ニーズの実態把握です。市区町村の約3割が調査を実施済みですが、小規模な市区町村ほど未実施の傾向にあります。調査では後継者不在率だけでなく、事業者の意向(廃業予定か承継希望か)を把握することで適切な施策設計が可能になります。市区町村ごとに状況が大きく異なるため、地域の実態把握が不可欠です。

 第二は地域特性を踏まえた事業承継支援体制の構築です。商工団体との連携が最多ですが、協定を締結している地方公共団体は承継実績が高い(50%以上が実績あり)のに対し、ネットワークのみの地方公共団体は71%が実績なしという調査結果が示されました。人口約30万人の豊橋市のモデルでは、金融機関は守秘義務があり情報共有が困難という課題を、「相談会への誘導」という役割に特化することで解決しています。人口約2万人の北秋田市では、地域おこし協力隊をハブ人材として活用しています。

 第三は事業承継支援施策の実施です。承継実績のある地方公共団体の傾向として、目標設定、協定締結、調査の実施、独自補助金の設置が挙げられました。マッチングサービスについては、第三者承継実績のある地方公共団体では53.6%が利用しており、小規模事業ほどオープンネーム型が適しています。

 第四はフォローアップです。既存の商工支援で対応可能ですが、重要なのは移住者や新規創業者を既存支援に適切に接続することです。

2)事例紹介「富山県南砺市」
   講師:ケイギョーラボ 遠藤 あずさ 氏

 南砺市は人口約45,000人で、「住みたい田舎ベストランキング」で高評価を受けています。遠藤氏は2020年に東京から継業志望で移住し、移住希望者の「仕事がない」という声と、後継者不在で困る事業者とのミスマッチに気づき、2022年2月に市へ継業事業を提言しました。

 提案時には9つの「NO」(富山県の人は話したがらない、センシティブな内容、技術習得が困難、マネタイズ不可能など)を受けたものの、粘り強く働きかけを続けた結果、2022年4月から南砺市主催の事業として採用されました。

 南砺市主催の事業として、遠藤氏が代表を務めるケイギョーラボが業務委託を受け、後継者不在の事業者と起業意欲のある移住希望者をつなぐマッチング支援を実施しています。具体的には、市の求人サイト「なんとジョブ」への継業ページ開設、継業バンクへの情報掲載、事業者へのヒアリングから後継者候補のアテンドまで一貫した支援を行っており、現在4期目を迎えています。

 井波の彫刻刀専門店「匠雲堂」では2023年4月に大阪出身者が入社し初マッチングが成立、地元紙3紙に掲載され注目を集めました。しかし、最終的に事業承継には至らず、この経験から、初成果への焦りによる見極めの甘さ、地域との関わり不足、小さな違和感をスルーすることはいけないという重要な教訓を得ました。継業は単なるビジネスマッチングではなく、人と人、人と地域を繋ぐ活動であると再認識しました。

 一方、成功事例として五箇山の「悠久紙」を製造する東中江和紙加工生産組合では、2024年10月から後継者候補の修行がスタートし、後継者候補、芸大生、高校生、遠藤氏による新規事業開拓チームが結成されました。

(3)事例紹介「宮城県東松島市」
   講師:東松島市復興政策部 復興政策課 地方創生・基地対策係長 大丸 喜史氏

     東松島市復興政策課 宮城 東松島市 移住コーディネーター 関口 雅代氏

 東松島市は「ほどよい田舎」をキャッチコピーとし、SDGs未来都市や脱炭素先行地域に選定されています。ブルーインパルスの本拠地としても知られています。令和41月から5月という短期間で継業バンク開設に至った背景には、「東北で1番最初」という勢いがあったと大丸氏は振り返りました。

 東松島市の特色は、企画部門が移住定住施策の一環として継業バンクに取り組んでいる点です。予算も商工費ではなく企画費に計上しています。移住施策との連携として、23日から67日のお試し移住制度(4回まで利用可能、うち1回は交通費助成)を活用し、事業所との面談や作業体験を組み込んでいます。継業までの間は、お試し移住や地域おこし協力隊の移住施策を活用することで後継者を探す側・後継者になる側双方の負担を軽減しています。

 さらに、地域おこし協力隊制度を活用し、最大3年間の任期で事業承継の準備を進めています。現在9人の協力隊員のうち3人が継業バンクマッチング者です。移住コーディネーターの関口氏は市役所内に席を置き、移住全般と継業をサポートしています。

 関口氏は課題として、3年後の体力・資金面の不安、一般協力隊と継業バンク経由の協力隊の熱量の差、サポート体制の再検討の必要性を挙げました。今後の取組方針として、登録事業者数の増加と、相談窓口から承継完了まで伴走できる体制の構築を目指しています。

(4)トークセッション

 講師4名によるトークセッションでは、事業承継支援の実務的な課題について深掘りが行われました。掘り起こしの難しさについて、オープンネームへの抵抗感が強いものの、淺井氏は成功事例を積み重ねメディアで発信することで「隣の事業者もやっている」という安心感が生まれ、新たな掘り起こしにつながると指摘しました。

 連携体制について、大丸氏は、座談会に金融機関や商工会会長を参加させたことで顔の見える関係が構築できたと報告しました。淺井氏は、青森県の事例を紹介し、県が予算を出して市町村が手挙げで参加する仕組みが有効であると説明しました。

 地域おこし協力隊活用の課題として、淺井氏は3年間人件費がかからないことで企業価値が上がり、3年後の譲渡価格が上昇するという問題を指摘しました。制度設計を慎重にし、公平性・公共性の確保、登録事業者の基準設定が重要です。関口氏は1次産業の職人気質によるマッチングの難しさ、働き方改革世代と団塊世代のギャップも課題として挙げました。

 移住×継業について、遠藤氏は両方ともハードルが高くリスクが大きいとの意見を示しました。実際の成功例では、ライフステージが変化するリスクの少ない人材が成功しやすい傾向があります。淺井氏は、地方では都市部への人口流出が止まらない現実があり、それには地域外から来てもらうしかなく、難しいか簡単かではなくやらざるを得ない状況であると見解を示しました。

 地方公共団体の役割について、遠藤氏は信用が一番重要で、民間個人では連携が困難であるものの、市の事業として実施していることで引継ぎ支援センターとの連携がスムーズであると報告しました。淺井氏は、地方公共団体がすべてを完結する必要はなく、信用・信頼の担保、ネットワークのハブ機能、外部専門家との連携窓口という役割に特化することが効果的であると総括しました。

4 おわりに

 本セミナーを通じて、地方における事業承継支援は地域経済の持続可能性を高めるための不可欠な取組であることが明確になりました。小規模事業者は経済合理性だけでは救えないものの、地域の魅力を支える社会的資本として不可欠な存在であることを改めて認識しました。地方公共団体による実態把握、質の高い連携体制の構築、移住施策との連携、各地域の実情に合わせた体制構築が重要であると感じました。

 特に印象的だったのは、東松島市の関口氏、南砺市の遠藤氏という移住者がキーパーソンとなっている点です。外から来たからこそ地域の価値に気づき、新しい視点で事業承継支援を推進していると感じました。地方公共団体職員のみで推進するのではなく、適切な外部人材との協働が効果的であると考えます。

 

受講者の声

・事業承継分野での移住についての観点は無かったので、非常に勉強になりました。
・人材確保が採用だけでなく、定着、活躍、そして「働き続けたい」と思ってもらうまで一連の流れだということが改めて考えさせられました。

執筆者:地域活性化センター 地域創生・情報広報グループ

    三村 凌平(三重県四日市市から派遣)

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar(at)jcrd.jp ※メールアドレスの(at)は@に変更ください。