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【終了レポート】はじめての地域経済循環分析~地域のお金の流れを見える化しよう~
新たな知と方法を生む地方創生セミナー(ベーシック) 終了レポート
2026年08月24日

1 はじめに
令和8年度新たな知と方法を生む地方創生セミナー『初めての地域経済循環分析~地域のお金の流れを見える化しよう~』を、令和8年6月24日にオンライン開催しました。地方公共団体などから22名の参加がありました。地域内のお金の流れを見える化し、地域経済の現状を客観的に把握する「地域経済循環分析」の手法について学ぶ機会となりました。
2 今回のテーマ
本セミナーは、「なぜ地域経済は活性化しないのか」という多くの地域が抱える課題に対し、お金の流れを「見える化」する地域経済循環分析の基本的な考え方、分析ツールの使い方、分析結果の読み解き方を学び、参加者が客観的データに基づいた効果的・効率的な政策立案に繋げるためのヒントを得ることを目的に開催されました。
3 講義内容
講師: 佐原 あきほ 氏(株式会社価値総合研究所 ポリシーエンジニアリング事業部長)
地域経済循環の基本概念と問題意識
講義では、地域経済が活性化しない根本的な原因は、地域に資源や産業がないことではなく、生み出した富が地域外へ流出してしまう「循環構造の欠如」にあると指摘がありました。工業地帯や観光地、先端企業誘致など、一見すると経済活動が活発に見える地域であっても、住民所得が向上しないケースは少なくありません。これは、地域経済が「循環型構造」になっていないためであると説明されました。
地域経済を分析する際、以下の3つの側面から捉える必要があると解説されました。
1.生産販売(稼ぐ): 地域外へ製品・サービスを販売し、お金を稼ぐ。
2.分配(受け取る): 稼いだお金を家計や企業が受け取る。
3.支出(使う): 受け取ったお金を消費や投資に回す。
この3つのサイクルが域内で機能し、域外への資金流出が抑制される「所得循環型」の構造を構築することが、住民所得の向上につながるとのことです。地域経済政策の最終的な成果は「住民所得の向上」であり、生産性向上だけでなく、成長と分配の好循環をいかに設計するかが問われているとのことです。
好循環と悪循環のモデルケース
分析を通じて、地域経済には好循環と悪循環が存在するとの説明がありました。
○悪循環の例:
・企業誘致・装置型産業の罠:コンビナート立地地域の一部では、生産額は非常に高いが、利益の多くが本社送金として域外へ流出し、住民所得の順位が低下する構造がある。
・観光地の罠: 観光消費が流入しても、土産品や仕入れが域外で行われる場合、支払いがそのまま域外へ流出してしまい、地域の生産販売に結びつかない。
・財政移転依存: 補助金等が流入しても、域内に支出の受け皿となる産業がなければ、資金はそのまま域外へ流出してしまう。
○好循環の例:
地域の基幹産業が、地元の企業から部品や原材料を調達し(産業クラスター)、地域の人材を雇用することで、稼いだ所得が地域内で循環し、関連産業の成長や住民所得の向上に繋がる構造。
分析手法と指標の読み解き方
環境省が提供する「地域経済循環分析自動作成ツール」を用いることで、客観的な分析が可能となることが示されました。分析の鍵は、地域の「競争力の高い産業(絶対優位)」と「得意な産業(比較優位)」を特定することにあるとのことです。
・絶対優位: 労働生産性が全国平均を上回る産業。
・比較優位: 修正特化係数を用い、地域内で相対的に得意な産業。
分析においては、以下の4つの課題を検証する必要があると解説されました。
1.高生産性産業の有無: 加工組立型や知識集約型など、生産性の高い産業が立地しているか。
2.域外依存度: 得意な産業であるにもかかわらず、域外から調達せざるを得ない状況はないか。
3.産業クラスターの有無: 関連産業間での取引が成立しているか。
4.域内調達の充足度: 必要な原材料やサービスを域内で賄えているか。
また、分配面の分析では、住民所得を「雇用者所得」と「その他所得(財産所得、財政移転等)」に分解し、本社等への利益流出や通勤による所得の流出入、財政移転による流入といった要因を分析することが重要であるとのことです。支出面では、地域内消費額と地域住民消費額の差から観光消費などの流入を把握し、設備投資などの現物投資の流出入を分析する手法が示されました。
分析手法と指標の読み解き方
群馬県嬬恋村の事例を参考に、経済分析をどのように施策立案に活用していくのか、解説されました。嬬恋村には、競争力の高い「農業・食料品」と、得意な「宿泊・飲食サービス」という長所がある一方で、全体的な稼ぐ力の低さや、食料品の域外依存という課題があり、これらを踏まえた施策の方向性として、以下の具体策が提示されました。
・6次産業化の推進:地域資本の食品加工場を設置して、地域の農家からの原材料調達、域内のホテル・旅館、飲食店への販売を強化し、農産物の調達から加工、販売までを域内で完結させる。
・観光商品化:地域の得意な「宿泊・飲食サービス業」「その他のサービス」等が連携し、地域の宿泊、移動、イベント、食事等の地域資源をパッケージ化、付加価値を高めて販売する。
・地域商社の育成: 企業間のマッチングや商品開発を担うコーディネーターとして地域商社を育成し、地域イノベーションの促進と競争力の向上を図る。
施策の方向性は「長所と短所の分析」から自動的に出力されるものではなく、担当者の考え方や自治体としての方針と、客観的な分析結果である「短所」と「長所」の両面を整合的に検討していく必要があるとのことです。方向性は一意に決定されるものではなく、地域経済循環構造を構築するための数多くの対策・施策候補が「長所」を損なわず、「短所(≒課題)」を補うものであるかを確認することが、分析ツールの有効な使い道とのことです。分析結果という客観的な枠組みの中で施策を検討することで、的外れな取り組みを避け、実効性の高い政策立案が可能になるということが示されました。
4 おわりに
本セミナーでは、持続可能な地域経済を実現するため、地域経済循環分析の考え方と具体的な実践方法について解説が行われました。地域経済の問題は産業の有無ではなく、生み出した富が地域外へ流出してしまう「循環構造の欠如」にあること、お金の流れを客観的に「見える化」して初めて実効性のある政策立案が可能になることが示されました。また、生産額の大きさだけでなく、所得が地域内でいかに循環しているかを重視することで、より住民の豊かさに繋がる経済政策が可能であることが説明されました。その他にも分析結果を施策に繋げた事例が紹介されました。
本セミナーで得られた知見は、日々の地方公共団体の政策立案業務に直結する実践的な内容であり、今後の経済戦略の見直しや改善に大いに活かせると考えられます。データに基づいた政策を積み重ねることで、地域経済の構造的課題を解決し、真の住民所得の向上に繋がることが期待されます。
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受講者の声 ・データから何をどのように読み取るのかについて理解が深まる研修だった。 ・地域内経済循環の基礎がよくわかった ・興味深いツールの情報を得ることができた。 ・現在進めている事業に活かせると感じた。 |
執筆者:地域活性化センター 企画・人材育成グループ
錦織 大輔(島根県出雲市から派遣)
地域活性化センター 地域創生・情報広報グループ
上原 瑶乃(沖縄県から派遣)