【終了レポート】令和6年度地方創生実践塾in鳥取県日南町

地方創生実践塾 終了レポート

2025年06月13日

中山間地域のモデルを創るまちづくりの実践~森林資源を活用したSDGs✕官民連携による創造的過疎のまちづくり~

鳥取県日南町において、令和6年11月21日から23日にかけて「中山間地域のモデルを創るまちづくりの実践~森林資源を活用したSDGs✕官民連携による創造的過疎のまちづくり~」をテーマに地方創生実践塾を開催し、全国の地方公共団体や民間企業等から16人が参加した。

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1開催地概要

 日南町は中国山地のほぼ中央に位置し、森林が町の面積の9割を占めている。過疎と少子高齢化が進行しており、「日本の30年後の姿」の町として学術機関におけるモデル地域とされている。主要産業である農林業を基軸として、緩やかな人口減少を実現させる「創造的過疎のまちづくり」に挑戦している。

2開催地の取組

 日南町では、町面積の9割を占める森林を活用し、鳥取県の年間素材生産量の約1/3を占める森林の町として、恵まれた森林資源を余すことなく活用する「循環型林業」の取組を推進している。「循環型林業」の実現を目指し、森林資源の活用や、林業の担い手育成、官民連携によるまちづくりに取り組んでおり、Jクレジットなどを活用した林業サイクルの仕組みづくりや、森林資源を価値ある製品へと転換する活動、FSC森林認証の取得によって町内の森林資源の価値を高めるといった取組を進めている。

3実践塾内容

11月21日(木)

(1)講義①「森林資源を活用したSDGs✕官民連携の創造的過疎のまちづくり事例紹介」

   講師:日南町役場まち未来創造課 荒金 太郎 氏

 日南町が進めている森林資源を活用した創造的過疎のまちづくりについて、官民連携してSDGsを意識した取組について紹介をしてもらった。

 日南町では町面積の9割を占める森林を基盤に、森林資源を生かした持続可能な産業創出を進めている。

 町全体で「伐採したら植林し、再び育てる」林業サイクルを推進している。私有地も含めて伐採後の再造林が行き届くよう、Jクレジットなどの新たなスキームを活用し、山主の負担を減らしつつ、持続可能な循環型林業を実践している。

 また、森林資源を価値ある製品へと転換するために、町内に集中的に製材や加工が行える産業拠点「日野上川森林木材団地」を整備した。この拠点では、原木の集積・販売・加工・燃料チップ製造などを一括して行える機能を有しており、町内の森林資源を効率的に価値のある商品に転換している。

 その他、森林管理の国際的な基準であるFSC認証を町単位で取得している。約2万ha規模の認証林を有しており、これは国内でもトップクラスの規模となっている。海外企業や国内大手企業からも「環境に配慮した木材」として高い評価を受けており、日南町産の木材が選ばれる背景にも繋げている。

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<Jクレジットとは>

省エネ機器導入や森林管理などによるCO₂削減量や吸収量を国が認証し、それを「クレジット」として取引できる制度のこと。日南町では森林管理によるCO₂の吸収量の認証を取得し、企業等へ売却することで資金を調達している。調達した資金は森林管理に再投資され、林業サイクルの循環に活用されている。

(2)講義②「伐って、使って、植えて育てる循環型林業の取組」

   講師:日南町森林組合 木村 実次 氏

 日南町で実践されている循環型林業の取組について講義をしてもらった。

 町の取り組む循環型林業では伐採と再造林を常にセットで行っている。伐採した木材の付加価値を高める加工・流通の拠点を整備し、そこから得た収益やJクレジットを再投資し、山主の負担を減らして次の植林を行うサイクルを確立している。

担い手不足や作業コストの問題には、林業専門学校による人材育成や省力化技術の導入、森林認証での高い評価の獲得による付加価値の向上など、官民連携して多角的にアプローチしている。

 結果として、過疎化・高齢化が進む中でも森林面積を維持し、地域の経済・雇用・環境保全の両立を実現している。

 

(3)講義③「林業人材の育成・確保、森林資源を活用した地域価値の創造」

   講師:にちなん中国山地林業アカデミー 小菅 良豪 氏

 「にちなん中国山地林業アカデミー」は、日南町が設立した林業人材を育成する専門学校である。林業の担い手不足等の課題に対して、町が林業人材の育成に直接コミットしているのが特徴となっている。

 アカデミーでは、1年間の集中カリキュラムで安全管理や伐採技術、保育・施業計画など、幅広い知識・技能を習得できる環境を整えており、修了後の就職先まで含めた林業キャリアを総合的に支援している。

 この取組によって、日南町全体の循環型林業を維持・発展させ、過疎や高齢化に苦しむ中山間地域の新たな担い手づくりに繋げている。

11月22日(金)

(4)フィールドワーク①「株式会社オロチの事業概要、LVL製造工場内の見学」

   講師:株式会社オロチ 相見 晴久 氏

 株式会社オロチは、日南町の森林資源を活用し、木材産業の高度化と持続可能な林業を推進する企業である。日野上川森林木材団地を拠点に、木材の生産・加工・販売を行い、林業のバリューチェーンを一貫して担っている。

 見学した工場では、町内で伐採された原木を活用し、薄い単板を、繊維方向を揃えて平行に積層し接着剤とプレスで結合させたLVL(単板積層材)を主に製造している。

 比較的品質の安定性が高く、中小経木や曲がり材なども使用できる点で森林資源の有効活用と付加価値の向上に貢献している。

 株式会社オロチからの安定した原木発注が、森林関係者の計画的な森林保全や雇用創出に繋がる持続的な森林サイクルを作っている。

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(5)フィールドワーク②「白谷工房の事業概要説明、寄木細工ワークショップ」

   講師:白谷工房 中村 建治 氏

 白谷工房では、日南町の豊富な森林資源を活用して、寄木細工やアクセサリー、名刺入れ、インテリア雑貨など多様な木工クラフト製品を製作・販売している。

 材料は主に建築現場や古民家の解体で出た廃材を再利用しており、環境負荷を抑えつつ、高付加価値な商品を生み出しており、木材の節や虫食いの穴、朽ちた素材も「自然が作り出した表情」として作品の一部となり、個性的で唯一無二なデザインを生み出している。

 工房の取組は、地域の雇用創出にも繋がっている。

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(6)講義④「日南町✕山陰合同銀行における脱炭素の取組」

   講師:ごうぎんエナジー株式会社 井上 光悦 氏

 ごうぎんエナジー株式会社は山陰合同銀行が100%出資した会社で、地域脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向けて再エネ地産地消の地域づくりに取り組むため、発電事業プレイヤーとして再エネ電源供給に取り組む会社である。

 日南町とはカーボンニュートラルの実現に向けて連携をしており、日南町の取り組むJクレジットの販売仲介や企業版ふるさと納税、Jクレジットの創出支援などに取り組んでおり、Jクレジットの創出から販売まで一貫した体制で官民連携して取組を進めている。

(7)講義⑤「脱炭素ワークショップ」

   講師:三保テクノス株式会社 洋谷 友子 氏

 三保テクノス株式会社は鳥取県米子市を中心に活動している建築会社である。SDGs宣言を行っており、地域に貢献し、快適で暮らしやすいまちづくりを目指し、様々な活動に取り組んでいる。三保テクノスは日南町のJクレジットの購入によって町の持続可能な林業サイクルへ貢献している。

今回は、三保テクノスが日南町に提供しているSDGs研修を体験した。カードゲーム型のワークショップを行い、各組織が同じ目標に向かって持っている手札(できること)を共有し、最大効果に繋がるように活動することが、脱炭素社会の実現に重要であることを学んだ。

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11月23日(土)

(8)フィールドワーク③「株式会社ウッドカンパニーニチナン 見学」

   講師:株式会社ウッドカンパニーニチナン 秋末 光司 氏

 株式会社ウッドチップカンパニーでは、次世代が活躍できる未来の森林を作るための苗木生産を行っている。

ICT技術を取り入れた温度管理施設や自動灌水施設、種子の種まき機械や移動式栽培棚等を導入して省力化を図っており、従業員2名で生産可能な体制となっている。

 ICTを活用した管理によって従来の半分以下の期間で苗を生産できるようになっており、町内外に向けて販売をしている。

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(9)見学①「日野上イチョウ 見学」

   一般社団法人Loadにちなん

 日南町の主要な観光スポットの一つ。大正6(1916)年に日野上小学校のグラウンドに植樹された、樹齢100年を超えるイチョウの木。平成21年に統廃合により、日野上小学校が廃校になってからは地元の有志が管理を行っている。

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(10)見学②「道の駅にちなん日野川の郷 見学」

 「育てる人、作る人、楽しむ人」をコンセプトにしている地方創造マルシェ型の道の駅。株式会社オロチで生産されたLVLが使用された施設では様々な地域の商品が販売されている。ここに陳列されている商品の値札には「〇〇円+1円」と表記されており、この1円が日南町の森林を守る活動に利用されている。

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(11)振り返り グループワーク

 最後に、3日間での学びを振り返り、各グループで気付きや感想を共有した。体験的な学びが多かった本実践塾では、印象に残った経験や気付きが多く、各グループとも活発な共有が行われていた。

4おわりに

 本実践塾を通じて、森林資源の循環によるまちづくりの可能性に気づくことができた。地方では一見「なにもない」と考えがちだが、日南町では「地域にある資源」を最大限に有効活用することに重きを置き、地域の強みを最大化しつつ、未来にその価値を残していく取組に持続可能な地域社会の理想的な姿を見ることができた。

■受講者の声

・町長や副町長も参加してくださり、日南町一丸となって町を挙げて取組をしているこ

とに感心しました。

・日南町の取組が持続循環されている事が解りやすく、日南町の魅力が大変伝わり終

始、楽しく学ばせていただきました。

■執筆者

 企画・人材育成グループ   小西 悠貴(北海道ニセコ町から派遣)

 情報・広報プロモーション課 永野 豪人(高知県から派遣)

 移住・交流推進課      中村 太一(青森県田子町から派遣)