【終了レポート】令和6年度地方創生実践塾in愛知県長久手市
地方創生実践塾 終了レポート
2025年06月17日
「日本一若いまち」の対話、プロセスを重視したまちづくり~なぜ長久手市は若者を引き寄せるのか?~
愛知県長久手市において、令和6年10月11日と12日に『「日本一若いまち」の対話、プロセスを重視したまちづくり~なぜ長久手市は若者を引き寄せるのか?~』をテーマに、住民主体のまちづくりにおける「対話」と「プロセス」の重要性や、地域課題の解決に向けた実践的な手法を学ぶため、全国の地方公共団体などから22名が参加した。
1 開催地概要
愛知県長久手市は、愛知県の北西部に位置する人口約6.3万人のまちであり、県内でも特に人口増加が著しい地域の一つである。平均年齢が全国の地方公共団体で最も若く、「日本一若いまち」として知られている。丘陵地が広がる自然豊かな環境を持ち、市内には愛・地球博記念公園(モリコロパーク)や歴史ある長久手古戦場などが点在する。一方で、名古屋市に隣接する立地を活かし、大規模商業施設や大学、研究機関が集積し、住みやすさと利便性を兼ね備えたまちでもある。
2 開催地の取組
長久手市は、住民主体のまちづくりを推進し、「対話」と「プロセス」を重視した地域活性化に取り組んでいる。住民同士がつながる場を設け、多世代が関わる仕組みを整備するとともに、企業や大学とも連携し、地域課題の解決を図っている。行政が主導するのではなく、市民が主体となり、持続可能な地域づくりを進めることが特徴である。地方公共団体、企業、市民が協力しながら、単なる「住みやすいまち」ではなく、「住み続けたいまち」の実現を目指している。
3 実践塾内容
(1)市民の自己・活動紹介
①合同会社つむぎて 岩瀬 清佳 氏
合同会社つむぎては、2015年から長久手市の耕作放棄地再生に取り組んでいる。特筆すべき成果として、雑草として知られるセイタカアワダチソウの活用を進め、世界で初めてセイタカアワダチソウエキスの原料登録の達成を実現した。同社は放棄地の雑草を効果的に管理・栽培し、それらを活用した商品開発を積極的に展開している。また、地域コミュニティとの関係構築にも注力しており、高齢者から栽培技術の指導を受けたり、地域行事に参加したりすることで、住民との強い協力関係を築いている。このように、環境保全と地域活性化を両立させた持続可能な取組を実践している。
②株式会社河合電器製作所 Public Relations 神谷 友芽 氏
河合電器製作所は、企業の社会的責任を果たすため、地域貢献と持続可能な活動に積極的に取り組んでいる。地域課題への対応を企業の役割と捉え、地元団体との連携を強化し、技術や専門知識を活かした戦略的な支援を行っている。また、環境保全にも力を入れ、自然環境の保護と経済発展の両立を目指している。これらの活動を通じて、企業と地域社会との持続可能な関係づくりを推進し、企業活動と地域貢献を統合した長期的な視点による地域活性化への取組が注目されている。
③学生団体ボクラモ 秋山 隼大 氏
学生団体「ボクラモ」は、大学生が主体となって地域課題の解決に取り組む組織である。防犯イベントや文化祭の企画運営において、学生の専門知識や斬新な発想を活かした活動を展開している。コロナ禍においては、オンラインイベントを積極的に取り入れ、新しい形での地域連携を模索した。また、地域住民との対話を重視し、様々なプロジェクトを通じて相互理解を深めている。このような活動を通じて、学生が地域社会に能動的に関わることの意義を実証している。特に注目すべき点は、若者の視点を活かした課題解決アプローチであり、従来の地域活動に新たな価値をもたらしている。
④みんなの茶の間プロジェクト代表 町田 悟 氏
みんなの茶の間プロジェクトは、食事を通じた地域住民の交流促進を主な活動としている。多世代が気軽に集まれる場を定期的に設け、コミュニケーションの活性化を図っている。このプロジェクトの特徴は、地域に存在する様々な資源を効果的に活用し、新たな価値を創造することにある。参加者が自発的に活動に関わることで、コミュニティ内に自然発生的なネットワークが形成されており、これが持続可能な地域づくりの基盤となっている。特に注目すべき点は、従来の行政主導型ではなく、住民主体のボトムアップ型のアプローチを採用していることである。
(2)トークセッション
元創造スタッフ 石川 貴憲 氏・元創造スタッフ 小林 大地 氏
長久手市くらし文化部生涯学習課 生田 創 氏・黒野 雅直 氏
このトークセッションでは、文化の家と創造スタッフの役割及びアーティストとの協働をテーマに議論が行われた。
長久手市の「文化の家」では、アーティストと行政が協力して地域文化を発展させる「創造スタッフ」制度を導入している。この制度では、音楽、美術、演劇、ダンスなど多分野のアーティストが契約スタッフとして活動し、年間100~150本の文化事業を展開している。代表的な取組として、音楽フェス「音楽(おんぱく)」がある。このイベントは毎年違うテーマで実施する音楽とアートを融合させたイベントで、アーティストの自由な発想を尊重しつつ、行政がサポートする形で運営したことで成功を収めた。また、65歳以上の男性向けサックス教室の開催や福祉施設での演奏会など、地域に密着した活動も展開している。このような取り組みを通じて、文化活動が地域活性化に大きく貢献し、市民の交流の場として機能している。
(3)講義①
長久手市くらし文化部 地域共生推進課長 嵯峨 寛子 氏
長久手市は1970年代から住民主体のまちづくりを推進してきた。行政主導ではなく、藤が丘駅周辺の開発なども市民が主体となって計画を進めてきた実績がある。平成24年からは小学校区単位でのまちづくりを開始し、平成30年には市民参加型ワークショップを通じて総合計画やまちづくり条例を策定した。令和2年には地域共生推進課を設置し、市民との協働体制を強化している。地域共生推進課は、市民の悩み事相談室の運営、重層的支援体制の整備、市民協働事業の推進という3つの主要業務を担っている。「みんなが元気な社会」を目指し、行政の縦割りを超えた包括的な支援を展開している。実践事例として、コロナ禍における「きた☆がーる」の取組みでは、地域の大人と子供の交流機会創出に取り組んでいる。また、お月見イベントでは地域の歴史と現代の暮らしを融合させた継続可能な取組を実現している。課題としては、ワークショップの成果の具体的なアクション化や、行政評価と地域活動の時間軸のずれが挙げられる。今後は、多様な立場の人々の共感を大切にしながら、制度にとらわれない柔軟な発想で地域共生社会の実現を目指していくる。
(4)パネルディスカッション①
岩瀬 氏×神谷 氏×秋山 氏×町田 氏
ファシリテーター:長久手市若手職員チーム
アドバイザー:九州大学大学院教授 嶋田 暁文 氏
このパネルディスカッションでは、地域活動の活性化に向けた重要な視点が共有された。秋山氏は、地域活動において効率性よりもじっくりとした対話が必要であり、「自分のため7割、街のため3割」のスタンスで活動することを提案した。岩瀬氏は、立場や肩書にとらわれない「フラットな関係」の重要性を強調し、神谷氏は企業広報の立場から、相手の状況に寄り添った伝え方の工夫を重視した。町田氏は、相手の興味を引く話題を見つけ、その世界に入り込むことで対話が深まると指摘した。これらの議論を通じて、地域活動の成功には三つの要素が重要であることが明らかになった。第一に、スピードを落としてじっくり話し、相手に寄り添う対話の姿勢。第二に、否定せず受け入れる姿勢と安心して発言できる環境づくり。第三に、「楽しい」と感じられる活動の場づくりと、「やってみたい」という意欲を尊重する柔軟な姿勢である。
(5)職員の自己・活動紹介
①企画政策課長補佐 稲垣 道生 氏
稲垣氏は2050年に向けた「市民一人ひとりに役割と居場所があるまちづくり」をテーマに掲げている。平成18年からの地域協働計画への関与を皮切りに、市民記者活動や地域包括ケアの推進、東大先端研との連携プロジェクトなど、多様な取組を展開してきた。特に「みどり」を活用したまちづくりに注力し、緑や作物を通じた人々のつながりづくりを推進している。教育・福祉・健康・コミュニティを包括的に捉え、市民自らが手を動かすことで生まれる困難と楽しさを共有しながら、地域の未来を構築することを目指している。
②富士電機株式会社 井戸 裕紀 氏
富士電機株式会社では、コロナ禍における従業員の孤立化やストレスという課題に直面した。その解決策として、耕作放棄地を活用した「つむぎて」での農作業に社員が参加する取組を開始した。この活動により、社内ではデジタルデトックスやストレス解消、コミュニケーションの活性化が実現された。また、社外に対しては地域の地方公共団体や企業、大学との連携機会を創出し、企業活動と地域課題の解決を結びつけるCSV(共通価値の創造)を実践している。この経験を通じ、企業の地域活動への参画促進と、立場を超えた交流の場の重要性が明らかとなった。
③子ども政策課主任 鈴木 悠平 氏
ボクラモは、若者・学生が知識やノウハウを活かして地域課題を解決する団体である。スカイランタンイベントなどの地域イベントを企画・運営し、「できないだろう」ではなく「やってみたい」という精神で活動を展開している。大規模イベントの成功体験が新たなチャレンジへのモチベーションとなり、仕事では実現困難なことも市民活動だからこそ可能となっている。多様な人とのつながりから得られる学びを重視し、従来の地域活動と新しい活動の融合により、次世代のまちづくりを推進している。
④地域共生推進課主任 金子 達也 氏
金子氏は、対話とプロセスを重視した市民主体のまちづくりを実践している。なでラボでの市民活動や前市長との出会いを通じ、まちづくりには相互理解と楽しめる関係性が不可欠であることを学んだ。具体的な取組として、ちゃぶ台研究会での市民アイデアの実現、住民同士の支え合いを促進するコモンズづくり、リニモテラスミートアップでの気軽な交流の場づくりを展開している。活動においては、まず「聴く」ことを重視し、市役所の外部との連携を積極的に進め、拙速な解決を避けることで持続可能な地域づくりを目指している。
(6)パネルディスカッション②
稲垣氏×井戸氏×鈴木氏×金子氏
ファシリテーター:長久手市若手職員チーム
コメンテーター:九州大学大学院教授 嶋田 暁文 氏
このパネルディスカッションでは、⑸職員の自己・活動紹介で登壇した職員がパネリストとなり、ファシリテーター役の長久手市若手職員チームが事例を掘り下げる質問をすることで、事例のどのような点で「対話」と「プロセス」が重視されてきたのかが整理された。ファシリテーターからパネリストに対し、「ハイキングコンサート」や「スカイランタン」等の取組事例が成功した要因を問う質問がなされたが、たまたま望ましい会場や想定以上の人員が確保できたといった運の良さもあり、成果の指標を示すのは難しいとの回答がなされていた。しかしながら、企画にはどのような人物が参加するのかを詳細に仮定するペルソナ化が図られており、その背景には市民との対話が繰り返しなされてきたことがうかがえた。また、パネリストからは、何かを企画する際には、必要な事と重要な事を分けて考えているとの発言もあった。具体的には、市民協働の取組においては会場や資材等のハード面の確保が必要不可欠であるが、そもそも取組をとおして参加者に何を伝えたいのか、地域に何を残したいのかを言語化しているとのことである。市民協働プロジェクトを達成してきたパネリスト達がそのように語る様子から、長久手市の市民活動の中には「対話」と「プロセス」を重視する意識が醸成されていることが読み取れた。
(7)講義②
九州大学大学院教授 嶋田 暁文 氏
長久手市は、若者が集まる魅力的なまちとして知られているが、その要因は単なる地理的条件の良さだけではない。まちづくりの根幹には「対話」と「プロセス」を重視する文化が存在する。1972年以降、住民と行政が対話を重ねながら計画的な都市開発を進め、文化の家の設立や大学との連携など、文化・芸術政策も積極的に展開してきた。市民主体のまちづくりの具体例として、長久手農楽校による農業を通じた地域交流、なでラボによる次世代リーダーの育成、地域共生ステーションの運営などが挙げられる。これらの取組を支える「対話」は、答えのない問題について語り合う場であり、新たな価値の創造や相互理解を促進する。また、プロセスそのものに価値を見出し、遠回りを厭わない姿勢が、多くの人々の参加を促し、新たな可能性を生み出している。このように、長久手市は単なる「住みたいまち」から「住み続けたいまち」へと進化を遂げ、対話とプロセスを通じて持続可能な地域づくりを実現している。
(8)グループワーク
2日間の実践塾の振り返りと総括としてグループワークを行った。内容は、「①実践塾を経て、これからどうするか?」、「②①のグループ共有・意見交換を経て、①についてもう一度考えてみる」というものであり、会場である「文化の家」の敷地内であれば自由に話し合いの場として良いとのことで、会議室や芝生広場等の好きな場所でグループに分かれて「対話」を意識した実践を行った。「これからどうするか?」という自由なテーマに対し、参加者からは、「まちづくりに長期的に携わりたい」、「市民協働プロジェクトに挑戦したい」、「地域おこし協力隊事業に力を入れたい」等の思いや考えの共有があった。それに対して参加者同士で感想を述べたり、質問したりすることで、参加者からは課題が明確になったという声や、壁打ち相手がいることの重要性に気づけたという感想が挙がっていた。
(9)講評・まとめ
九州大学大学院教授 嶋田 暁文 氏
最後に、今回の実践塾の主任講師である嶋田氏から、講評・まとめをいただいた。
4 おわりに
長久手市では、住民主体のまちづくりを推進し、「対話」と「プロセス」を重視した地域活性化に取り組んでいた。住民同士がつながる場を設け、多世代が関わる仕組みを整備するとともに、企業や大学とも連携し、地域課題の解決を図っている。単なる「住みやすいまち」ではなく、「住み続けたいまち」を目指し、地域共生の仕組みを整備しながら、住民・企業・行政が協力してまちづくりを進めている。
今回の実践塾では、長久手市の取組を学びながら、地域活性化における「対話」と「プロセス」の重要性を理解する機会となった。多様な主体が協働する仕組みを学び、参加者自身が地域課題に対してどのように関わるべきかを考える場となった。
■ 受講者の声
・「生の声を聞くこと」「心理的安全性」「完璧にしない関わりシロを残すこと」など、多くの学びがあった。
・「わくわく、楽しく!まずは自分が楽しむ!」という姿勢の大切さを学んだ。
・言語化された説明がわかりやすく、研修として有意義だった。
・長久手市の若手職員の積極的な運営が印象的で、頼もしいと感じた。
■ 執筆者
総務課 西田 周平
移住・交流推進課 濱村 彬生(宮崎県延岡市から派遣)
企画・人材育成グループ 山 敦美(山口県防府市から派遣)