【終了レポート】令和7年度地方創生実践塾in山形県
地方創生実践塾 終了レポート
2026年03月12日
「食」×「地域活性化」 ~食から広がる地方の可能性~
開催日:令和7年9月11日~13日

1 開催地概要
鶴岡市(つるおかし)は、山形県の庄内地方の南部に位置し、日本海・庄内平野・出羽三山に囲まれた自然豊かなまちである。面積は約1,300㎡あり、東北地方で最も広く、全国でも第10位の広さを誇っている。人口は2025年11月時点で約11万3千人。
江戸時代には庄内藩の城下町として栄え、現在も歴史や伝統文化が色濃く残っている。2014年には国内で初めてユネスコ食文化創造都市に認定された。
2 開催地の取組
鶴岡市はユネスコ食文化創造都市認定後、在来作物の保存・継承をさらに強化し、生産者や料理人、市民が関わる体制づくりを進めてきた。学校給食や食育事業を通じて食文化の次世代への継承を図るとともに、食をテーマにした観光やイベントを展開。国内外のユネスコ食文化創造都市との交流も進め、鶴岡の食文化を発信しながら、地域の活性化と人材育成につなげている。
3 実践塾内容
(1) 講義「導入講義」
講師:文化政策研究者/東京芸術大学 客員教授/鶴岡市食文化創造都市アドバイザー 太下 義之 氏

導入講義では、鶴岡市が食文化をまちづくりの中核に据えてきた背景と、その考え方について学んだ。 2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたが、登録対象となったのは懐石料理などの特定の料理ではなく、日本人の伝統的な食文化、すなわち食をめぐる生活文化全体である。旬を大切にする姿勢や行事との結びつき、家庭で受け継がれてきた食のあり方など、人々の暮らしそのものが評価された点が紹介された。
また、訪日外国人の調査では「日本食」は毎年「日本に来て良かったこと」の上位に挙げられており、日本の食文化は世界的に高い評価を受けている。一方で、国内ではその価値が必ずしも十分に認識されていない現状があることも指摘された。
鶴岡市は、日本で初めて「ユネスコ食文化創造都市」に認定された自治体であり、海・山・平野が近接する地理的特性、60種類以上の在来作物、羽黒山の修験文化に根ざした精進料理の伝統、家庭で受け継がれる郷土料理など、多様で厚みのある食文化を有している。
鶴岡市では、「食文化を守るのは人であり、人が価値をつくる」という考えのもと、食文化を軸としたまちづくりを進めてきた。ユネスコ食文化創造都市への認定は、料理の美味しさだけでなく、食文化を基盤とした地域づくりの姿勢や仕組みが高く評価された結果であり、今後の地域政策を考える上で参考となる内容であった。
(2)講義「食文化創造都市鶴岡の取組」
講師:鶴岡市 企画部 食文化創造都市推進課 本間 歩 氏
本講義では鶴岡市がユネスコ食文化創造都市として、食文化を軸に展開している具体的な施策について学んだ。鶴岡市では、「第二次 食文化創造都市推進プラン」に基づき、「食文化とともにつくる産業振興」と「食文化とともに歩む地域づくり」を柱に、官民連携による分野横断的な取組を進めている。
料理人育成事業では、研修やコンペティション、海外派遣を通じて人材育成と発信を両立させているほか、嚥下食プロジェクトでは食を通じた包摂的な地域づくりが実践されている。 また、在来作物の継承や食育、国際交流、フード×サイエンス分野の取組を通じ、伝統と革新を結びつけた持続的な仕組みが構築されている。
(3)講義「鶴岡ふうどガイドの取組」
講師:鶴岡ふうどガイド 中野 律 氏

講師の中野氏より、鶴岡ふうどガイドについて説明を受けた。一般的な観光ガイドは、観光地にある文化財や名所について、その歴史や特徴を正確に説明し、観光客の思い出づくりを支える役割を担うことが多い。一方、鶴岡ふうどガイドは、こうした従来の観光案内とは異なる役割を担っている。ふうどガイドが扱うのは、「風土(自然や暮らし)」と、それを食を通じて体感する「FOOD(食文化)」であり、地域独自の食文化の価値を自ら"つくり"、そして伝える人材である。
単に情報を説明して終わるのではなく、「伝わること」を最重視し、参加者が次の行動を起こすための"火種"を生み出すことを目的としている。価値を届けることで、将来的な地域活動への関わりや文化継承につながるアクションが生まれるよう、体験の設計と伝え方が工夫されている点が大きな特徴である。
(4)講義「サスティナ鶴岡の取組」
講師:合同会社Maternal 代表社員 小野 愛美 氏
サスティナ鶴岡は、「食を通じて子どもたちと地域の未来をつなぐ」ことを目的に、食材生産者や料理人が中心となって立ち上げられた団体である。その活動の特徴は、単に食事を提供するのではなく、調理や一次産業体験を通じて、子どもたちの「自活力」を育む点にある。
年4回実施される「Tsuruokaフードハブキッチン」では、農業・漁業体験から調理、食事までを一連の学びとして捉え、食の循環を体感できる仕組みが整えられている。また、少人数で専門的な学びを深める「サスティナ学校」では、料理人や生産者が講師となり、実践的な食育が展開されている。これらの取組は「第8回食育活動表彰 農林水産大臣賞」を受賞しており、子どもたち・生産者・地域を結びつけ、食文化を未来へつなぐ活動として高く評価されている。
(5)フィールドワーク@五重塔
講師:鶴岡ふうどガイド 中野 律 氏

羽黒山の五重塔を目指すフィールドワークでは、参道を
歩きながら、山岳信仰と人々の暮らしが重なり合う文化的背景を体感した。随神門を
起点に急な坂を下り、再び登る道のりは「生まれ変わり」を象徴する修行の道とされ、歩く行為そのものに意味が込められている。道中には、水利を支えた人工の滝や「爺スギ」と呼ばれる信仰に由来する杉の大木が残り、自然と人の営みの関係が色濃く感じられた。
五重塔は神社境内に現存する全国的にも珍しい建築であり、釘を使わず心柱によって揺れを逃がす構造は、東京スカイツリーにも応用されるなど、現代建築にも通じる日本の伝統技術の
高さを実感する機会となった。
(6)フィールドワーク&講義@羽黒山・斎館
講師:出羽三山神社 羽黒山参籠所「斎館」料理長 伊藤 新吉 氏

羽黒山・斎館での講義では、羽黒山に受け継がれてきた精進料理の成り立ちを通して、山の文化と食の関係について学んだ。羽黒山の精進料理は、修行中に山から下りることができない山伏が生きるための食事として発展してきたものであり、冬季に採取ができない時期に備えた保存の知恵と、旬の食材を組み合わせることで独自の料理体系が築かれている。
講義では、「採る・食べる・料理する」という循環が成り立つことで山の文化が継承されてきたことが強調された。山菜は命がけで採取され、
その採取場が厳重に守られてきた背景には、自然への畏敬と資源を守る意識がある。「食べることは山の命をいただく行為である」という言葉から、自然を丁寧に扱い循環させることが、文化と自然を次世代へつなぐ基盤であることを理解した。
(7)フィールドワーク&講義@松ヶ岡開墾場
講師:鶴岡シルク株式会社 代表取締役 大和 匡輔 氏

本講義では、蚕と養蚕を軸に、地域文化を未来へつなぐ取組について学んだ。蚕は人の手によって完全に家畜化された唯一の昆虫であり、人間に最も依存し、同時に最も恩恵を与えてきた存在である。かつて養蚕は農村部の重要な産業で、日本は世界有数の絹生産国であったが、安価な外国産シルクの流入や後継者不足、着物需要の減少により、国内の養蚕は急速に衰退した。
こうした中、庄内地域では、技術の継承や絹文化の再発見を目的に「侍シルク」プロジェクトが立ち上げられた。侍シルクは、絹そのものの復活を目指すのではなく、武家文化の美意識や地域の精神性といった背景を未来へ届ける取組であり、文化を"意味ごと継ぐ"地域づくりの実践である。
(8)フィールドワーク&講義@PINO COLLINA
講師:PINO COLLINAファームガーデン&ワイナリー
松ヶ岡ジェネラルマネージャー 川島 旭 氏
松ヶ岡ワイナリーのフィールドワークでは、ワインづくりを通じた地域価値の創出について学んだ。松ヶ岡地区は江戸時代から葡萄園として知られ、風が強く湿気の少ない庄内平野の気候は果樹栽培に適した環境を形成してきた。ワイナリーでは、幻の品種「鶴岡甲州」を用い、土地固有の個性を丁寧に表現するワインづくりが行われている。建物は「重力に逆らわずワインをつくる」という哲学のもと設計され、圧搾・醗酵・熟成の工程を自然な流れで行うことで、ワインをできるだけ揺らさず仕上げている点が特徴である。ワインと食文化は相互に高め合う関係にあり、松ヶ岡ワイ ナリーはワインそのものではなく、「庄内という地域の価値」を発信している。


(9)フィールドワーク&講義@アルケッチャーノ
講師:アル・ケッチャーノ オーナーシェフ 奥田 政行 氏
アル・ケッチャーノ奥田シェフの講義では、料理と地域づくりを貫く情熱と、庄内の食材が持つ本質的な価値について学んだ。奥田シェフは、自身の困難な経験を通じて「人は追い込まれたときに進化する」と語り、観察と分析を重ねることで独自の料理哲学を築いてきた。料理とは単なる技法ではなく、食材同士を掛け合わせるとともに、その背景にある風土や生産者の思い、人の感覚まで含めて完成するものであるという考え方が示された。
講義の中で特に印象的だったのは、庄内の食材に対する深い思いである。庄内は海・山・里がすべて近接する稀有な土地であり、生産者の技術水準も高い。庄内の野菜や魚、山菜、在来作物は、ヨーロッパの三つ星レストランにも通用する品質を持ちながら、その価値が十分に伝えられてこなかったという。奥田シェフは、その価値を料理という手段で「翻訳」することを自らの役割と位置づけ、規格外食材や野草にも光を当ててきた。
講義の最後に語られた「皆さんの地域にも必ず宝がある。それを見つけて、翻訳して、未来に渡してほしい」という言葉が強く印象に残った。庄内の食文化が評価されてきた背景には、特別な素材があったからではなく、土地の価値を見つめ直し、それを料理や言葉として丁寧に翻訳してきた人の存在がある。奥田シェフの講義は、地域づくりとは新しいものを生み出すことではなく、すでにある価値に光を当て、次の世代へ手渡していく営みであることを改めて気づかせる内容であった。

(10)グループワーク
講師:太下 義之 氏
グループワークでは、5~6人のグループに分かれ、各メンバーの地元を題材に「地域をどう盛り上げるか」を検討し、発表を行った。講師からの総評では、どの発表にも共通して「人材育成=人づくり」が地域政策の中核であるという視点が見られたことが強調された。農業や食、文化といった分野は本来きわめて創造的な営みであり、そこに関わる人を"担い手"ではなく"クリエイター"として捉える発想の重要性を再認識できた。また、地域資源に価値を与え、作り手の物語を丁寧に伝えることが、産業の自立や地域活性につながるという示唆を得た。
4 おわりに
本研修では、鶴岡市における食文化を軸とした地域づくりの実践を、講義やフィールドワーク、グループワークを通じて多角的に学んだ。五重塔や精進料理に象徴される信仰と暮らしの積み重ね、侍シルクやワイナリーに見られる文化と産業の再編集、そして料理人が地域の価値を「翻訳」する役割を担ってきた事例から、地域の魅力は新たに生み出すものではなく、すでにある価値に光を当て、人の手で意味づけし直すことで磨かれていくものだと理解した。
特に印象的だったのは、地域づくりの中心に常に「人づくり」が据えられていた点である。生産者、料理人、ふうどガイドなど、多様な人材がそれぞれの立場で創造性を発揮し、互いに支え合うことで、鶴岡の食文化は世界的な評価へとつながってきた。
本研修で「食」を通して得た学びを踏まえ、各地域に眠る「宝」を見つめ直し、それを次の世代へ丁寧に手渡していく姿勢を、今後の地域づくりに活かしていきたい。
■受講者の声
・想像していたよりも、多くの参加者と交流出来てよかったです。知識的に知ることよりも、体験から得ることが多く中々できない経験をすることが出来ました。
・鶴岡市の良さと人づくりの大切さを学びました。
■執筆者
移住・交流推進課 宮崎 博行(愛媛県四国中央市から派遣)
地域創生・情報広報G 平嶋 健也(熊本県菊池市から派遣)
企画・人材育成G 酒井 秀輔(徳島県から派遣)