【終了レポート】地方創生実践塾in兵庫県洲本市

2022年02月15日

域学連携から始まる持続可能な地域づくり~再生可能エネルギー等を活用した洲本モデル~

令和3年11月5日(金)~6日(土)の2日間、兵庫県洲本市を会場に、「域学連携から始まる持続可能な地域づくり~再生可能エネルギー等を活用した洲本モデル~」をテーマとして、令和3年度地方創生実践塾を開催しました。全国各地の自治体職員や民間企業社員、地域おこし協力隊など総勢14名のご参加をいただきました。

実践塾開始に先立ち、洲本市長の竹内通弘氏より歓迎のご挨拶と洲本市の概要説明をいただきました

11月5日(金)

「域学連携から始まる持続可能な地域づくり」:主任講師 白石 克孝 氏(龍谷大学副学長)

主任講師の白石副学長より、龍谷大学が洲本市で再生可能エネルギー事業と域学連携事業を始めた経緯や今年で9年目となる域学連携事業の内容や成果についてお話いただきました。

 洲本市と龍谷大学の域学連携は、地域が主体となる再生可能エネルギー事業を活動の中心に据えていることが特徴的です。2012年に龍谷大学が開催した「再生可能エネルギー塾」に洲本市役所職員が参加したことがきっかけとなり、2013年から総務省の「域学連携」地域活力創出モデル実証事業としてスタートしました。

 洲本市域学連携事業は地域資源の活用をテーマとして、地域と大学との連携によるフィールドワーク合宿等により、洲本市内で学生と地域が共に学びあい、実践を行っています。白石副学長は事業開始当初から大学のない淡路島で学生が卒業後も地域と連携関係を続けていく必要性を認識し、大学の外に大学と地域を結ぶ非営利の会社(PS洲本(株))を作りました。PS洲本(株)が興した小水力発電(自家消費モデル)やため池フロートソーラー(売電モデル)など再生可能エネルギー事業に学生が関わっていることが龍谷大学の域学連携事業の特徴です。

 域学連携事業の成果として、6年で3,000人の学生が参加し卒業後も洲本市と関わりを持ち続ける交流人口となったことやその中から移住する人が出てきたこと、域学連携に関わった人達が着地型観光の視点でさまざまなツアーを企画実施していることなどが説明されました。また、受け入れ自治体の洲本市の継続的な取り組みも成果として説明されました。

 基調講演を聞いて、事業当初から長期の視点を持って戦略的に進めている点や受け入れ側の洲本市が域学連携を継続的な事業と位置付けている点が印象に残りました。また、地域の方々の学生を受け入れる力が高いことも継続のポイントだと感じました。

画像2(白石氏講義).jpg

フィールドワーク① 龍谷フロートソーラーパーク洲本

画像3(ソーラーパーク洲本).jpg

続いて、PS洲本(株)が運営している龍谷フロートソーラーパークに移動しました。

洲本市は農業用ため池が全国でも多い地域です。ため池は農業を支える水源として活用されていますが、ため池機能を維持しながらソーラー発電を行っています。

龍谷大学の「地域公共人材・政策開発リサーチセンター」における再生可能エネルギーの地域実装化研究成果のモデルをもとに、龍谷大学、洲本市、PS洲本(株)、地元金融機関が連携して事業を展開しています。売電収入の一部は洲本市での地域活性化事業やため池の管理などに使われています。

ソーラーパネルは浮体式でため池の水面に設置されています。冬はため池の水を抜くため、見学時は水上ではなく水抜き後の土の上にソーラーパネルが並んでいました。池の水面48,200㎡のうち37%の面積に6,300枚のパネルが設置され、年間約206万kwを発電しています。白石副学長から近隣住民への太陽の反射を考慮して一つ一つのパネルの角度を変えていることや、設置の際には田主、水利権者、近隣住民など多数の方の合意をとる必要があったことなどの苦労話などもお聞かせいただきました。ため池の水面にソーラーパネルを設置することができることを初めて知り、地域の資源をうまく活用してエネルギーを創出し、地域内で循環するしくみを作り出したことに感銘を受けました。

フィールドワーク② 竹原集落、あわじ花山水

続いて龍谷大学をはじめ九州大学や早稲田大学など5大学と連携している竹原集落に移動しました。

域学連携の取組として、小水力発電を設置し、集落の防火灯や防犯カメラの動力として利用していることや、連携大学と協力して長距離の自然道を歩くアウトドアレジャー「ロングトレイル」のコースを開発していることなどの説明を受けました。

また、小水力発電設備のすぐそばにあるあわじ花山水(アジサイ園、原木しいたけ)では、洲本市地域おこし協力隊の谷口史朗氏から龍谷大学の域学連携で学生時代に竹原集落に関わっていたことをきっかけに洲本市地域おこし協力隊員となり、オーナーの水田進氏から原木しいたけの生産、しいたけ狩り農園を継業した経緯などを説明いただきました。

大学時代に出会った地域と卒業後も関わり続けることができるのは、地域の方々との温かい心のふれあいがあったからだと感じ、関わり方の重要性を学びました。

座談会①「限界集落座談会~なぜ竹原は限界を突破できたのか~」                                    コーディネーター:野口 満 氏(東京都立大学 助教)                                      パネリスト:太田 明広 氏、水田 進 氏、谷口 史郎 氏(地域おこし協力隊)、小林 力 氏 (地域おこし協力隊)

「限界集落座談会~なぜ竹原は限界を突破できたのか~」と題し、コーディネーターに東京都立大学助教野口氏、パネリストに竹原集落の以前からの住民である太田氏と水田氏、地域おこし協力隊として赴任している谷口氏と小林氏をお迎えして、座談会形式でお話しいただきました。

まず、「変化、実践、循環、未来」の4つのキーワードをもとにこれまでの竹原集落での域学連携を振り返りました。座談会では「学生が地域に入ることで元気をもらえる」や

「学生との年齢の開きが大きくなったことにより学生との関係性が変わってきた」、「竹原集落は変化に寛容な地域であると感じる」などのこれまでの域学連携についての感想や「学生の提案や希望を全て受け入れるのではなく、地域が主導権を握りながら地域で考えて選択することも必要」や「地域の外と中の通訳をする第三の主体者の存在が肝要」、「学生が地域に来て、地域から去るまでが1セット」、「地域の意見集約のスピード感が大切」などの域学連携において大切にしている点や課題を述べられました。

最後にコーディネーターの野田氏より、域学連携を長期投資的視点での青春系と短期投資的視点でのセミプロ系に分類し、地域・大学・行政視点ごとの域学連携の持続や検討にあたっての要点をまとめていただきました。また、域学連携では「直接的な地域づくりの評価」「地域内外の継続的な関係構築」「地域の対外的ブランディング」の3点で立体的に評価することが重要であるとお話しいただきました。

画像7(竹原集落座談会).jpg

10月16日(土)

講義①「空き家・空き店舗を活用したまちづくりへの挑戦」 講師:髙山 慎之助 氏 (レガサルト株式会社)                                       

洲本市と京都工芸繊維大学の域学連携OBでもいらっしゃる髙山慎之助氏に「空き家・空き店舗を活用したまちづくりへの挑戦」と題し、学生時代から現在までの取組事例についてご講演いただきました。学生時代の取組として、「ついどはん」や「YORISOI米田家」といった築100年を超えた古民家をリノベーションした事例、旧兵庫県立淡路特別支援学校の農泊施設へとリノベーションした事例、レガサルト株式会社に入社後の取組として日本橋商店会、本町商店街での事例をお話しいただきました。様々な事例を交えてお話しいただく中で、「建築は目的ではなく手段である」や「課題からではなく、理想から始める」といったキーワードとともにハード面だけでなくソフト面を大切にする意識の重要性を述べていました。

講義②「放置竹林を活用した国産メンマ開発とSDGs」講師:辻 三奈 氏 (あわじ里山プロジェクト代表) 

続いて、「放置竹林を活用した国産メンマ開発とSDGs」と題し、あわじ里山プロジェクト代表の辻三奈氏からご講演いただきました。淡路島で問題となっている放置竹林を解決するため、2019年より竹林所有者と洲本市地域おこし協力隊OB、水産加工業者の3者によるあわじ里山プロジェクトの取組についてお話しいただきました。あわじ里山プロジェクトでは「食べる竹林整備」として国産メンマを商品化しており、一見竹林問題と関係ないと思われる水産加工業者もメンマの茹でる工程において連携しているとのことでした。域学連携としては、学生と一緒に放置竹林問題解決をテーマに龍谷大学SDGsポスターコンテストへの応募や竹林でのフィールドワーク、龍谷大学政策学部洲本プロジェクトとしてアレンジレシピ集の作成の活動事例をご紹介いただきました。取組を通して、世代間の交流や異なる視点での発想が生まれること、学生たちとゼロからイチを生み出す成功体験を共有できることが地域側としても喜びであると述べていました。

見学②学生滞在拠点「ついどはん」

 学生滞在拠点である「ついどはん」は、京都工芸繊維大学の学生が中心となって空き家を改修した施設で、域学連携に取り組む学生の拠点や宿泊施設として活用されています。同じ敷地内には蔵が存在しており同様に改修を行いました。学生の大胆な発想により外壁に透明な素材を採用しており、中の様子を外から見ることができるという特徴的な建物を実現しました。

 講師の高山氏は京都工芸繊維大学の学生として改修に関わった経験から、ついどはんのような施設は、学生にとってとても重要な実地経験の場所だ、と語りました。図面だけの学習ではなく、実際に建物を建築する段階で学ぶことも多く、学生のやってみよう・おもろそうが体現できる場所となっています。

 現在は、日中にデイサービスの会場になっており、昼夜問わず有効活用されている域学連携の成果が表れた施設となっています。

画像10(ついどはん視察).jpg

見学③「竹チップ専焼バイオマスボイラー」

ウェルネスパーク五色ゆ~ゆ~ファイブ(温浴施設)には、竹チップ焚きバイオマスボイラー施設を設置しています。竹チップを燃焼してお湯を沸かす機能を持っており、既存の重油ボイラーの負担軽減を図っています。これは洲本市のバイオマス産業都市構想に基づくもので、竹資源の有効利用を図るために設置しています。バイオマスボイラーの導入により、重油の消費量が年間50%削減されるという成果が上がっています。

 竹をチップに加工する作業や運搬する作業、ボイラーをメンテナンスする作業など多様なステークホルダーが竹資源の活用という目的に向かって協力して事業を進めています。

画像14(竹チップバイオマスボイラー視察).jpg

座談会②「洲本市の域学連携、どのへんが"おもろい"ねん」、グループワーク                           講師:田中 友悟 氏((一社)山梨市ふるさと振興機構代表理事/山梨県立大学(COC+R)特任助教)                      パネラー:櫻井 あかね 氏(龍谷大学政策学部実践型教育プランナー)                                                                                                                                                                                                             パネラー:髙橋 壱 氏(洲本市企画課)

域学連携を洲本市側から推進してきた髙橋氏、龍谷大学側で学生のコーディネートをしてきた櫻井氏による座談会では、洲本市の域学連携のどのへんが"おもろい"かについて話がありました。「おもろい」に全力に島である洲本市について、髙橋氏は、誰かがおもろいと思っていることに対してそれおもろいね、と誰かが言えることがポイントであると語りました。それによりおもろがる人が増えていき、おもろい雰囲気が伝播されていきます。

 櫻井氏は学生が地域に入ることにより、意外なことが起こることほかの地域ではやっていない取組にチャレンジすることがおもろいと語りました。

 グループワークでは2日間の学びを3つのグループに分かれ共有し講師へ質問しました。印象的だったのは、学生は答えを持っていない、ということです。地域に学生が入ってきて活動したからといって必ず成功するわけではありません。外からの人材である学生と一緒になって地域を考えるプロセスにより地域の話し合いの機会が増え、地域力が向上することが持続可能な地域社会につながっていくのだと感じました。

画像1(集合写真).jpg

カリキュラム

11月5日(金)

■開講式 開催自治体代表挨拶 洲本市長 竹内 通弘 氏

■基調講演「域学連携から始まる持続可能な地域づくり~再生可能エネルギー等を活用した洲本モデル~」

龍谷大学副学長 白石 克孝 氏

■見学① 龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター洲本分室

■フィールドワーク① 龍谷フロートソーラーパーク洲本

■フィールドワーク② 竹原集落、あわじ花山水

■座談会①「限界集落座談会~なぜ竹原は限界を突破したのか~」

コーディネーター:野口 満 氏(東京都立大学 助教)

パネリスト:太田 明広 氏

         水田 進  氏

         谷口 史郎 氏(地域おこし協力隊)

         小林 力  氏(地域おこし協力隊)

<11月6日(土)>

■講義① 「空き家・空き店舗を活用したまちづくりのへの挑戦」

   レガサルト株式会社 髙山 慎之助 氏

■講義② 「放置竹林を活用した国産メンマ開発とSDGs」

    あわじ里山プロジェクト 辻 三奈 氏

■見学② 学生滞在拠点ついどはん

■見学③ 竹チップ専焼バイオマスボイラー

■座談会② 「洲本市の域学連携、どのへんが"おもろい"ねん」

田中 友悟 氏((一社)山梨市ふるさと振興機構代表理事/山梨県立大学(COC+R)特任助教)

櫻井 あかね 氏(龍谷大学政策学部実践型教育プランナー)

髙橋 壱   氏(洲本市企画課)

■2日間の振り返りのグループワーク

■閉講式

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp