【終了レポート】令和5年度 地方創生実践塾in宮城県石巻市

2024年02月28日

未来へとつなぐREBORNREBORN!~クリエイティブなまちづくりを新規プレイヤーの創出から学ぶ~

開催日:令和5年11月10日~11日

1 開催地概要

 宮城県石巻市は県の北東部に位置し、人口は県内第2位の134,711人(2023年12月末現在)である。金華山沖は世界三大漁場の一つに数えられ、カツオ、イワシ、サバ等の水産資源の宝庫となっている。石巻工業港が開港するなど、工業都市としても発展を遂げてきた。
 市内には石ノ森章太郎氏の作品を中心に展示する「石ノ森萬画館」があり、街中にも関連したキャラクターの像やフラッグが並んでいる。また、沿岸は三陸復興国立公園の一部であるなど、地域の食や文化、自然を楽しむことができ、訪れる人々に楽しい体験の機会を提供している。

2 開催地の取組

 石巻市は2011年、東日本大震災で県内において最も大きな被害に遭い、復興計画に基づくまちづくりが行われきた。復興まちづくりには行政、民間、大学等が関わっているが、特に民間の多様な主体の活躍があり、復興という枠を超えて劇的に進んでいる。
 一般社団法人ISHINOMAKI2.0はその中でも代表的な存在である。まちの様々な分野の主体が集まり、独自のプロジェクトを展開してきた。震災前のまちに戻すのではなく、オープンでクリエイティブな地方都市のモデルを創出することを目指している。

3 実践塾内容

 石巻市の取組を現場で体験することにより、持続的な関係人口や交流人口を増やす方法、伝統的な手法にとらわれないクリエイティブなまちづくり手法、これにより生まれた芸術・文化活動がもたらす地域への影響について学ぶカリキュラムで、全国から20名が参加した。

(1)トークセッション「B 面のまちづくりのススメ~石巻におけるクリエイティブアプローチ~」
主任講師:一般社団法人ISHINOMAKI2.0 代表理事 松村 豪太 氏

 初日は、被災したガレージを改装した「IRORI石巻」を会場に、主任講師による講義からスタートした。
「これからの社会には、行政や商工会議所等が当然のこととして取り組む、いわゆる「A面」のまちづくりだけでは不十分である。むしろ、移住者やローカルベンチャー、アーティスト等様々な分野で活動する主体による取組である「B面」のまちづくりに焦点を当て、彼らがもたらすインパクトを上手く活用することが重要である。」そのように松村氏は指摘する。
 ISHINOMAKI2.0は、そのようなB面のまちづくりによって世界で一番おもしろいまちをつくろうという思いから立ち上げられ、これまでにIRORI石巻、復興民泊、復興BAR等の取組を実施してきた。被災地からクリエイティブな地方都市のモデルを創出するべく、まちづくりのアイデアを次々と実行に移し、新しい風を吹き込んでいる。

(2)フィールドワーク「OGAWA」「シアターキネマティカ」「ISHINOMAKI HOP WORKS」

 後半はフィールドワークに移り、三つの施設を回った。
 ゲストハウス「OGAWA」は、資産価値の低い空き家を買い上げ、シェアハウスやクリエイターの拠点として改修・運用するビジネスを展開している株式会社巻組によって運営されている。OGAWAは宿泊利用だけでなく、地域の子育て世帯向けの総菜カフェも営んでいる。
 複合エンタメ施設「シアターキネマティカ」は、「映画の灯を絶やしてはいけない」という思いから作られた。これも空き家をリノベーションしたものであり、資金はクラウドファンディングで集め、ソファやスクリーン等備品の多くは寄付によるものだという。施工にあたっては学生や地域の方々も応援に駆け付けており、地域から愛されている施設だと感じた。

 「ISHINOMAKI HOP WORKS」は、イシノマキ・ファームが経営するマイクロブルワリーである。震災後に廃業した映画館を買い上げてクラフトビール醸造所に生まれ変わらせた。クラフトビールは非常に好評で、入手が困難なほど人気を集めている。

(3)トークセッション「ベンチャーパイオニアの取組と"本音"のお話し」
主任講師:一般社団法人ISHINOMAKI2.0 代表理事 松村 豪太 氏
講師:株式会社巻組 代表取締役 渡邊 享子 氏
講師:株式会社石巻工房 工房長 千葉 隆博 氏
講師:石巻市復興企画部SDGs 移住定住推進課 係長 小島 裕之 氏

 2日目の午前は、異なる分野で活動する3名の講師が登壇し、自身の取組について率直なトークを交わした。
 市では、ローカルベンチャー推進事業を通じた起業強化、ふるさとワーキングホリデーを通じた移住促進により、起業件数や移住者数等で成果を上げてきた。いずれの取組もコンソーシアム形成やコンシェルジュ支援など、行政と中間支援組織の連携が重要であるという。
 巻組では空き家を運用しているが、多様化するライフスタイルに対応するにはシンプルな家が良いという考えが根底にある。空き家は改修によりシンプルかつミニマルになり、若い世代やクリエイターにとって住みやすい環境となることで、地域の活性化が図られている。
 石巻工房は震災直後、使える材料を用いて自分たちでベンチを作った。こうした経緯から、石巻工房の商品はシンプルな作りではあるものの、デザイナーや家具メーカーの支援もあり、かっこよく、使いやすいものであるとして人気を集めている。
 3名のトークから、B面により掘り起こされた課題をB面が主体となり解決していることや、行政がそれに気づきサポートしていることの重要性がわかった。


(4)フィールドワーク「Creative Hub 」「ヒトコマ」「まちの本棚」「キワマリ荘」

 午後はフィールドワークから始まり、そこでは芸術・文化に特化した4つの施設を回った。
 「Creative Hub」では、創作したい人に場所を提供し、活動を支援している。年間3万円で利用でき、1階はイベント等が開催できるフリースペース、2階はアトリエ等として利用できるコワーキングスペースとなっている。また、家具メーカーが協賛しており、高価なオフィス家具を利用できるという特徴もある。
 「ヒトコマ」では、マンガを生かしたまちづくりの一環として、地域の子どもたちに対し、マンガを消費するだけではなく生産するものとして、その活動の場も提供している。教材やデザイン本等マンガに関連する書籍が読めるだけでなく、デジタル機器を使ってマンガを描くなどの創作活動を行うことができる。
 「まちの本棚」は本屋であり、約2,000冊の書籍の貸出や販売を行っている。本好きの人たちが集まる地域コミュニティの場ともなっており、出版社との協力により新しい本を定期的に入れることで、常に魅力的な場所であり続けている。週3日オープンし、本にまつわる様々なワークショップも開催している。
 「キワマリ荘」はギャラリーとして機能している元空き家であり、アーティストの有馬かおる氏が設立したアートスペースである。土日にオープンしており、地元のアーティストや来訪者が交流できるプラットフォームにもなっている。
 これらの施設は、地域の人々が自分たちのクリエイティブな能力を発揮し、地域の文化的な豊かさを広げるための場所として機能している。


(5)グループワーク「石巻の2日間を持って帰る振り返り」

 最後は2日間を振り返り、参加者自ら自分の地域で何ができるかを考えた。
 グループワークでは、良かったことが多数挙がると同時に、再現性に疑問が残るという声も多かった。石巻とまったく同じ地域が存在しない以上、それは当然の事であり、それを踏まえて自分の地域を考える必要がある。その結果、商店街や港の空き家をバーに活用するといった案もあれば、体制づくりや意識醸成をするといった案もあった。いずれにせよ、受講者それぞれが自分の地域を想像し、振り返ることができたといえる。

4 おわりに

 本実践塾では、石巻市において行われている関係人口、交流人口の創出から独自に発展してきたクリエイティブなまちづくり手法について学んだ。
 市では、東日本大震災後、まちを元に戻すという意味の復興にとどまらず、それまでどこにもなかったアイデアを果敢に実現していくプレイヤーが数多く現れている。そして、その取組は人口減少社会において注目すべきものばかりであった。
 また、「現在進行形の未来づくり」の現場を五感で感じ、全国からの受講者と意見交換できたことは実りある時間だった。まさにテーマどおり、明日から各地のまちづくりをリードする人たちが次々と生まれそうな熱気あふれる研修で貴重な2日間であった。


受講者の声

 町並みを拝見するのが楽しかったです。地元の方と一緒に歩いて色んな話を聞かせて頂けるのは素晴らしいことだと思いました。コミュニティづくりや既存のコミュニティの生かし方等、ソフト面も知れ、魅力たっぷりのプログラムでした。


執筆者:地域活性化センター 企画・人材育成グループ

能登川 亜美(北海道北斗市から派遣)
藤原 朋也 (鳥取県米子市から派遣)
石倉 駿太郎(島根県出雲市から派遣)

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↑集合写真

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↑オープンスペース「IRORI 石巻」での講義

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↑会員制のコワーキングスペースでのフィールドワーク

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