【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in徳島県神山町

終了レポート

2024年03月06日

まちを将来世代につなぐプロジェクト~将来世代が、可能性を感じられるまちを目指して~

令和5年10月13日(金)~14日(土)に、「まちを将来世代につなぐプロジェクト~将来世代が、可能性を感じられるまちを目指して~」をテーマに地方創生実践塾を開催しました。

LINE_ALBUM_神山町実践塾2日目_231130_2.jpg

1 開催地概要

 徳島県神山町は県東部の名西郡に属する、人口4,817人(令和5101日現在)の山間地域です。町の中央を東西に横断する鮎喰川上中流域に農地と集落が点在し、その周囲を3001,500メートル級の山々が囲んでいます。また、四国八十八箇所霊場の第12番札所である「焼山寺」もあることから、国内外のお遍路さんが訪れる地でもあります。

2 開催地の取組 

 神山町は、平成17年の光ファイバー網の整備を契機としたサテライトオフィスの誘致、町の将来に必要と思われる「働き手」「企業家・起業家」を逆指名して誘致するワーク・イン・レジデンス、「テクノロジー・デザイン・起業」を10代で学べる神山まるごと高専など、地方創生につながる様々な取組を行っています。

 これらが実現した要因には、町の活性化を考える際に既成概念に囚われなかったこと、地域全体に神山町を良くしたいという前向きな風土が根付いていたことが考えられます。この土壌の上に育まれた取組を今回の実践塾で教示いただきました。

3 実践塾内容

 まちを将来世代につなぐためにどのような取組を行ってきたか、地方創生において大事にすべき考え方を学ぶため、全国各地の地方公共団体や民間事業者などから26名が参加しました。なお、神山町での実践塾は平成27年度に続き、2回目の開催でした。

(1)講義①「まちを将来世代につなぐプロジェクト」概要
  主任講師:一般社団法人神山つなぐ公社 代表理事 馬場 達郎 氏

 神山町役場から神山つなぐ公社へ出向中の馬場氏を主任講師に迎え、「まちを将来世代につなぐプロジェクト」の概要について説明いただきました。

 平成27年に本プロジェクト策定のため検討会が発足されましたが、当時の町長である後藤正和氏は「『すべてをやり遂げる』という覚悟で取り組まなければ『神山の将来はない』」、「今回は実現するための計画である」と強調されており、神山町存続に対する危機意識があることを感じさせました。また、本プロジェクトの実現には行政と民間による協働が必要であり、そのために「神山つなぐ公社」が平成28年に設立されました。

(2)講義②「まちを将来世代につなぐプロジェクト~地域によい学校と教育がある状況をつくる"ひとづくり"の取り組み~」
 特別講師:一般社団法人神山つなぐ公社理事・ひとづくり担当 梅田 學 氏

 梅田氏から、町内唯一の高校である徳島県立城西高等学校神山校の地域連携について講義があり、高校生と地域住民による地域をフィールドとした実践教育について説明いただきました。

 平成28年当時は少子化等の影響で入学希望者が激減しており、また、生徒の8割が神山町外からの入学者で、全体の9割がバスで通学をしているため、放課後を神山町で過ごすことがなく、神山町のことを知る機会がないまま卒業していく生徒が多いという状況でした。

 しかし、「生徒たちをもっと地域に出して学ばせたい」という先生たちの声や、「地域のこどもが通いたい高校として残ってほしい」、「高校の管轄は県教育委員会だが、これからのまちを生徒と一緒につくっていきたい」といった町民や町役場職員からの声があり、地域と生徒が交流するプロジェクトや、生徒たちが地域課題に取り組むカリキュラムが生まれました。

 その結果、生徒たちと地域住民との繋がりと実践教育機会の創出が実現しました。

(3)フィールドワーク

①鮎喰川(あくいがわ)コモン~大埜地(おのじ)の集合住宅について~
 特別講師:一般社団法人神山つなぐ公社理事・すまいづくり担当 高田 友美 氏

 建設会社での勤務経験を持ち、神山つなぐ公社への参画をきっかけに移住した高田氏から説明をいただきながら、「大埜地の集合住宅」と「鮎喰川コモン」を見学しました。

 大埜地の集合住宅とは、子育て世帯のために作られた集合住宅であり、鮎喰川コモンは集合住宅に隣接する町民同士の交流を促す集いの場です。

 若い世代が神山町で生活を始めようとすると、空き家はあるがすぐに貸してもらうことができない、山間地ゆえに家を建てる土地が見つけづらいという課題があります。また、学校の統廃合により学校が遠くなったことで、子ども同士で遊ぶ機会が喪失していました。そこで、子どもたちが育つ環境をより豊かにし、新しい活動や関係性が生まれる状況を実現するため、集合住宅建設のプロジェクトが開始されました。

 大埜地の集合住宅では、入居要件を高校生以下の子どもと同居する世帯、もしくは年上が50歳以下の夫婦と設定し、入居者が固定されることなく将来世代へ住み継いでゆく仕掛けを施しました。また、町営の賃貸住宅だが所得で入居者が制限されないようにするため、公営住宅ではなく過疎債を活用した住宅開発が行われました。集合住宅の敷地内には、8棟からなる20世帯分の住宅とボイラーと蓄熱タンクを用いた給湯システムの管理棟があり、子どもたちが安心して遊べるように歩車分離が徹底された駐車場があります。

 集合住宅の隣にある鮎喰川コモンは、子育て支援、放課後・休日の居場所づくり、読書環境づくりを軸に住民活動を支えていくことを目的とし、地域住民が、ともに過ごせて気軽に立ち寄れる「まちのリビング」として愛されています。

 建設にあたっては、地域にある資源と地域の人を活かすことにこだわり、建物には神山町で伐採された神山杉を使用し、大手建設会社ではなく地元の建設会社へ棟ごとに分割発注を行いました。見学中にも、実際に子どもたちが鮎喰川コモンで遊んでいる様子を見ることができ、地域の人に親しまれている様子を伺うことができました。

16913AE7-78DB-49DB-BD13-7B17C95B9DB7.jpg

DXラボ~地域アプリ「さあ・くる」について~
 特別講師:さあ・くる KAMIYAMA LABOリーダー 駒形 良介 氏

 駒形氏から、町内に住む高齢者の移動支援事業について講義いただきました。神山町では町営バスが運行されていましたが、利用者の減少から便数が極端に少なくなり、毎年2,000万円を超える赤字が20年以上続いていたため、町民の移動手段の持続的な確保をいかに図るかが大きな課題でした。

 そこで、移動困難者をなくし、費用対効果が高いサービスを実現するため、町営バスを廃止し、町内に住む高齢者世帯に対して無料でタブレットを配布した上で、各々がオンラインでタクシーを呼び、その運賃の一部を町が補助するという仕組みに変革しました。

 また、デジタル機器の相談窓口やネットトラブルに関する講習会の企画、地域情報を発信するコンテンツの制作等を目的とした「さあ・くる神山ラボ」が設立されました。デジタル機器やシステムにより、世代を問わない情報交換が可能となり、助け合いが起こりやすくなる地域社会を目指して活動を続けています。

 本事業はデジタル田園都市国家構想交付金を活用し今年度よりスタートしたもので、来年度以降に利用者からの声を聞き取り、より良いサービスへとブラッシュアップをしていくでしょう。

LINE_ALBUM_神山町実践塾2日目_231130_36.jpg

(4)講義③「創造的過疎のまちづくりについて」
  特別講師:認定NPO法人グリーンバレー理事・事務局長 作田 祥介 氏

 作田氏から、認定NPO法人グリーンバレーが中心となって行った神山町のまちづくりについて説明いただきました。

 若者にとって魅力的な仕事が無いことが神山町の課題としてあり、移住者を呼び込むことができていませんでした。この課題に取り組むため、認定NPO法人グリーンバレーが中心となり、「創造的過疎のまちづくり」が実施されました。

 創造的過疎とは、過疎化の現状を受け入れた上で、人口増加を直接的に働きかけるのではなく、働く場所がないなど過疎となる要因を改善することです。ICTインフラ等を活用し、多様な働き方を実現できるビジネスの場としての価値を高め、農林漁業のみに頼らない、均衡のとれた持続可能な地域を目指しました。

 その結果、田舎から都会ではなく、神山町に仕事をしにくるという逆転の発想が生まれ、オフィス・レストラン・商店・職人・クリエイター等の集積が実現しました。それぞれの仕事のやり方で神山に住むスタイルが確立されたことで、町の将来にとって必要な働き手や起業者、働く場所を選ばないIT企業等の誘致に繋がりました。

(5)講義⑤「神山まるごと高専の挑戦~人口5000名の町から未来を変える~」
  特別講師:神山まるごと高専事務局長 松坂 孝紀 氏

 松坂氏より、神山まるごと高専についてご講義いただきました。神山まるごと高専(以下、高専)は、起業家たちが心から欲しいと思った理想の学校を作るという志のもと設立され、ソフトウェアやAIに関するテクノロジー教育、Webデザインや映像、アートに関するデザイン教育、リーダーシップなどの起業家精神を学び、モノをつくる力で、コトを起こす人材を育てるカリキュラムを備えています。開校にあたり、同校の理念を民間企業に強く訴え出資や寄付を呼び掛けた結果、多額の資金が集まり奨学金の原資等に利用されています。

 明確な将来像を持った子どもたちが神山町に集まることは学校だけでなく、地域にとっても良い影響を与えてくれるでしょう。

(6)講義④「ふるさと納税を活用した学校支援」
  特別講師:神山町総務課企画調整係長 坂井 義隆 氏

 坂井氏から、高専設立に関して行政が行った支援内容についてお話いただきました。神山町は、個人版・企業版ふるさと納税及び国からの補助金を基金として高専設立を支援しました。また、学生寮として活用するため、神山中学校旧校舎の建物の無償譲渡を行いました。

 町としても、高専が目指す生徒像から、学生と地域に新たな関係が生じ、そこから何かが発生すると考え、転出する割合が高い若年層の獲得につながることに期待しています。

LINE_ALBUM_神山町実践塾2日目_231130_13.jpg

4 おわりに

 ローマは一日にして成らずという言葉がありますが、神山町も同様で、地域を変えようという強い熱意を持った人たちが積み重ねてきた歴史の上に現在の姿があるのだと感じました。

 神山町の成功には、その継続性以外にも大きく2つの理由があると感じました。まず1点目が、既成概念に囚われなかった点です。神山町では、田舎地域の強みである自然資源を活用した地域活性化だけに固執するのではなく、最新のテクノロジーといった田舎の過疎地域と全く性質の異なる要素を柔軟に取り入れていました。

 2点目が、人がいる、いい学校と教育がある、いきいきと働ける環境、住民同士の関係が豊かで町内外に開かれているなど、可能性を感じられる雰囲気を作り出し続けている点です。地域全体に変化してきているという実感が充満し、住民に前向きな気持ちが広がっていることが、様々な事業の担い手が見いだされ、たくさんの新しい取組が実施されている理由になっているのだと学びました。

 それぞれの地域にあったやり方を模索しながら継続的に取り組む必要があります。神山町の取組自体をただ模倣するのではなく、そのプロセスを参考にしたいです。

受講者の声

  • 人とのつながりを改めて大切なことだと感じました。ただ単に人とつながるだけでなく、お互いに思いやることや自分自身の想いをストレートに伝えることで、まちの形が変わっていく大きなきっかけになることを学びました。また、誰か1人がまちを引っ張っていくのではなく、得意なことをそれぞれの人が担当することで、一つのことを究めて進めることができ、まちの大きな発展につながったと今回の研修で知ることができました。
  • もっと講義時間も質問時間もあればいいなと思うくらい、充実した講義でした。初めての参加でしたが、参加者の方も話しやすく楽しかったです。

執筆者

移住・交流推進課      谷口 友規(宮崎県庁から派遣)

企画・人材育成グループ   山﨑 千尋(長崎県庁から派遣)

地域創生・情報広報グループ 大和 史弥(三重県四日市市から派遣)

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp