【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in岩手県紫波町

終了レポート

2024年03月07日

オガールで考える「まちへの投資」~プライベートマインドとパブリックマインド~

令和5年7月7日(金)~8日(土)に、「オガールで考える『まちへの投資』~プライベートマインドとパブリックマインド~」をテーマに地方創生実践塾を開催しました。

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1 開催地概要

 紫波町は岩手県のほぼ中心、盛岡市と花巻市の中間に位置し、東は北上高地、西は奥羽山脈に囲まれた総面積238.98平方キロメートル、人口32,937人(令和5930日現在)の町です。国道4号を含む6本の幹線が町を走り、インターチェンジや3つの駅があるなど、交通の便に恵まれています。農業が基幹産業であり、もち米、フルーツ等の生産が盛んです。都市と農村の新たな結びつきを目指した「オガールプロジェクト」を展開し、日経BP総合研究所が発表する「全国自治体・視察件数ランキング」で上位を獲得するなど全国から大きな注目を集めています。

2 開催地の取組 

 紫波町は平成10年、まちの中心部、紫波中央駅前の土地10.7ヘクタールを28.5億円で購入したが、財政難により開発が進まず、「日本一高い雪捨場」と言われていました。前町長の藤原氏は、平成18年に現株式会社オガール代表取締役の岡崎正信氏より、「公民連携」手法による開発を提案されます。平成19年には東洋大学大学院と連携協定を締結し、同大学院経済学研究科公民連携専攻に町職員の鎌田千市氏を派遣します。その後、平成21年に「公民連携基本計画」を策定し、この計画に基づき、 公民連携手法を導入して町有地の一体的な整備を行うこととしました。町や地元事業者が出資して第三セクターを設立したうえで、行政と民間が対等の立場、共通の認識を持って企画段階から一緒に事業に取り組む体制を構築しています。オガールプロジェクトは、こうした公民連携により、補助金に頼らずに地域活性化を実現しています。

 「オガール」とは「成長」を意味する紫波の方言「おがる」とフランス語の「駅」を意味する「Gare(ガール)」をかけ合わせた造語です。

3 実践塾内容

 令和577日から8日にかけて『オガールで考える「まちへの投資」~プライベートマインドとパブリックマインド』をテーマに地方創生実践塾を開催した。紫波町での開催は、平成30年度から6年連続となりました。

 主任講師はオガールプロジェクトを行政の立場から推進してきた紫波町企画総務部企画課長の鎌田千市氏です。また、講師としてプロジェクトを民間の立場から推進してきた株式会社オガール代表取締役/一般社団法人公民連携事業機構理事の岡崎正信氏にご登壇いただきました。オガールプロジェクトを含め、都市と農村のつながりを大切にしながら、暮らし心地の良いまちの実現に向けた紫波町の取組を学ぶため、全国から28人の受講者が参加しました。

(1)講義①「オガールからはじまった"町の再編集"」
  主任講師:紫波町企画総務部企画課長 鎌田 千市 氏

 主任講師の鎌田氏から、紫波町のまちづくりの変遷を紹介いただきました。

 紫波町では、まちづくりを民間に委ねる覚悟を決め、民間主導型の公民連携(PPP)のために第三セクターを設立しました。また、公民連携に対する町民の不安を払拭するとともに、プロジェクト推進のために、町民との意見交換を2年間で100回実施しました。さらに、エリアのマスタープランを作成するためにオガール・デザイン会議を設置し、建築やデザインに精通したメンバーでデザインガイドラインの作成に取り組みました。こうした入念な事前準備に基づき開発を進めた結果、地価公示価格は8年間で11.43%上昇し、エリアとしての価値の向上につながっています。

 鎌田氏の「相手(民間事業者)を信用したら、とことんプロジェクトを委ねる。」、「ハコを造ることだけがPPPではない。コトを考え、制度を作るのが行政の仕事。」といった言葉が印象的で、PPP手法における「官」と「民」の役割分担の重要性を感じ取ることができました。

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(2)フィールドワークⅠ「オガールさんぽ」
 講師:紫波町企画総務部資産経営課副課長 長谷川 保 氏、紫波町企画総務部資産経営課公民連携係 高橋 竜介 氏

 紫波中央駅の西150mにある、南北約200m、東西約300mのオガール地区を2班に分かれて歩きながら、各講師から各施設の概要やこれまでの経緯などを説明いただきました。

 図書館やスタジオなどから構成される公共施設「情報交流館」や産直「紫波マルシェ」のほか、飲食店、病院、学習塾等の民間テナントが入居する官民複合施設「オガールプラザ」、宿泊施設やバレーボール専用アリーナがある「オガールベース」、紫波町型エコハウス基準を満たす住宅が建ち並ぶ「オガールタウン」などを見学しました。エリアの中央に位置する「オガール広場」では、芝生の上を走る子どもたちの様子や、東屋の下で談笑する町民の姿が見受けられ、オガールの多様性について触れる機会となりました。

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(3)講義②「まちへの投資"民間主導型公民連携の本質"」
 特別講師:株式会社オガール代表取締役/一般社団法人公民連携事業機構理事 岡崎 正信 氏

 岡崎氏から、「投資」という観点で、民間主導型公民連携の本質についてご講義いただきました。

 まちづくりを「不動産開発」として捉えることが大事であり、民間主導型公民連携における行政の責務は「不動産価値を上げること」です。また、不動産価値は「敷地」ではなく「エリア」につくものであるため、エリア価値を上げるための施策を考えてほしい。さらに、出来上がったものを、状況に応じて変化させることも重要であり、そのためには、学び続ける習慣を持ち、良いものを観て、常に変化に対応できるよう柔軟な考えを持ち続ける必要があります。

 講義を通して、行政は「公共空間、公共投資によって民間が稼げる可能性を高めること」と「自らが公共空間で稼ぐこと」の両方の視点からまちづくりに取り組む必要があり、これこそが"民間主導型公民連携の本質"だと強調されました。

(4)講義③「ジブンゴトにして稼ぐ"パラレルワーク"」
  特別講師:オガール企画合同会社代表役員/合同会社koe代表社員 小川 翔太 氏

 オガール企画合同会社でオガール地区でのイベント等を企画・運営しながら、合同会社koeなどで民間企業の立場からまちづくりをしている小川氏の取組についてご講義いただきました。

 小川氏は、大学時代に学んだ設計技術や建築技術を活かして企画から設計、デザイン、建築、運営の全てをコーディネートし、紫波町の中心部にある地域をつなぐ温浴施設「ひづめゆ」を中心に、焼肉屋やラーメン店を手掛け、ファミリー層や高齢者の方まで楽しめるコンテンツを積極的に導入しています。また、飲食店の営業していない朝の時間をほかの人の営業場所として貸し出したり、破棄される予定であった花を買い取り、必要とされる方に提供したりと、「ロスの部分」に価値を見出し、新しい魅力あるものに変えていこうという取組を進めていると述べられました。

 今あるものを活かしながら「ロス」を減らしていくことが持続可能なまちづくりを推し進める方法の一つであると講義いただき、活動の背景として事業を推進していく際には誰に対してなのか、どうしたら町民が豊かになるかを突き詰めることが大切であると感じました。

(5)講義④「これまでと、これから」
  特別講師:sasatta.llc代表 南條 亜依 氏

 大学時代のインターンを機に紫波町に移住し、地域おこし協力隊を経て現在は若者目線で地域づくりをしている南條氏からその取組についてご講義いただきました。

南條氏は、若者目線の施設が紫波町に少ないと感じ、町民の協力を経て長い間空き家となっていた物件をリノベーションしてカフェを中心とする「YOKOSAWA CAMPUS」を経営しています。また、「カフェの次に行く場所がない」という要望に応え、元書店の建物を購入して更なる事業展開を模索しています。

 南條氏のように何かやってみたいと模索する若者が多い中で、行政としては事業の立ち上げからリスク管理まで一緒になって考えていくこと、チャレンジするハードルをなるべく下げることが若者の「やりたい」を具現化していく要因になると学びました。

(6)フィールドワークⅡ「日詰商店街さんぽ」

 最後に、紫波町地域づくり専門員であるハワード講師に先導いただき、紫波町内にある日詰商店街の街歩きを実施しました。南條氏が買い取った「大森書店」や土曜日の朝に商店街で買った飲食物を持ち込みくつろげる空間を提供している「日詰平井邸」を見学しました。各施設の工夫や仕掛け、今後のイメージを実際に体感しながら、住民や事業者がチャレンジできる豊かな場を創るまちづくりや空間づくりのヒントを学ぶ機会となりました。

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4 おわりに

 紫波町では、鎌田氏をはじめとする役場職員や岡崎氏をはじめとする民間パートナーが強い覚悟と高い目的意識を持っていました。また、ひとり一人が「まちづくり」を"他人ごと"ではなく、"自分ごと"として捉え、それぞれが自分なりの豊かな暮らしを求めながら、努力を重ねておられました。そして行政は、それらに寄り添い、とことん考え、ともに悩みながらまちづくりを行っており、その結果が、現在の「オガール」という素晴らしい街並みであることを、今回の実践塾を通して強く認識しました。

受講者の声

  • 紫波町の先進的な取組を学び、自分の地域の活性化にも寄与できるのではないかと思いました。
  • 紫波町のスキームを各自治体がその自治体に合うようにフィットさせることでなんらかの相乗効果が生まれるのではと思います。今回の経験を実践することこそがすべてだと思いました。

執筆者

地域創生・情報広報グループ 杉本 賢二郎(福岡県柳川市から派遣)

企画・人材育成グループ   竹村 晃祐 (富山県南砺市から派遣)

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp