【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in神奈川県真鶴町

終了レポート

2024年03月14日

ローカルから未来をつくる~真鶴町の民力で共創する多様な暮らし~

令和5年4月27日(木)、5月26日(金)~27日(土)に、「ローカルから未来をつくる~真鶴町の民力で共創する多様な暮らし~」をテーマに地方創生実践塾を開催しました。

地方創生実践塾in真鶴町終了①.jpeg

1 開催地概要

 神奈川県真鶴町は県最西部に位置し、人口6,805人(令和5 年4月1 日現在)の港町である。本小松石の採掘や漁業が町を支えている。バブル経済期の昭和62年にリゾート法が施行され、全国でリゾート開発が進められた。そのような中で町は住民の生活環境と港町の景観を保全するため、平成5年にまちづくりのルールを独自に定めた「美の基準」を含む真鶴まちづくり条例が制定され、翌6年から施行された。「美の基準」は、規制のための数値基準がないことから、まちづくりに関し行政が一方的に指導するのではなく、関係者との対話型協議を行いながら進めていく点が特徴である。

2 開催地の取組 

 「美の基準」により大規模開発が行われず景観が守られた一方、真鶴町は人口減少が進み、平成29年に神奈川県で初めて過疎地域に指定された。この状況に対し、持続可能な地域づくりを目指し、空き家を活用した移住体験施設の運営やサテライトオフィスの誘致、関係人口開拓といった移住推進や新しい人の流れづくりに取り組んだ。その結果、令和元年度には人口が社会増に転じ、令和2 年度も社会増が維持される中で、町民をはじめとした共創による多様な暮らしづくりが進められている。

3 実践塾内容

 行政だけでなく、民間企業、住民、移住者等、民間の多様な主体によって実施されているまちづくりの内容や共創の背景を学ぶことを目的とし、全国各地の行政職員や民間事業者など23名が参加した。

(1)事前講義(オンライン)
主任講師:真鶴町福祉課長(兼 子育て支援係長) 卜部 直也 氏

 長年、真鶴町でまちづくりに取り組んできた卜部氏による、町の取組に関する基礎講義をオンラインで実施した。
 全国的なリゾート開発の流れに屈しない「真鶴町まちづくり条例」が制定された背景のほか、町が直面する課題の解決を民間主導で行ってきた"共創"の取組について紹介があった。
 「真鶴町に人が集まり、交流し、新しい取組が生まれる秘けつ・ポイントは何か」「共創のまちづくりが始まった起点は何だったのか」など、町が活性化してきたこれまでの歩みを知ることができた。
 卜部氏をはじめとする「美の基準」と真鶴の美しい風景にひかれ移住した人と、町出身の人がともに取り組み、まちの景観を守り、また真鶴の魅力やよさを町内外に発信してきた。そこには、経済を優先しない、まちと人の暮らしを大事にする文化があった。
 「美の基準」は風景や建築に関する基準でありその調和を図るものながら、最終的には町に住む人の暮らしや活動に結びついている。町の発展の基盤は自然ではなく人である、という卜部氏の言葉どおり、「美の基準」で言語化されていることで町に集う人の意識・目線がそろう。これが共創を生み、さらに人を呼び寄せ引き継がれていく。
 行政は、まちの人と一緒に考え模索し積み重ね、まちづくりの動きと政策を連動させ、必要な範囲に限って支援していく。その一歩引いた立ち位置も民間の活動を阻害しない、大きな要因だった。
 最も印象的だったのは卜部氏の存在である。町内外の人と丁寧に対話し「美の基準」も含めた町の考え方を伝えていく一貫した姿勢に、多くの人が心を動かされると思った。卜部氏を中心とする真鶴町の人のネットワークが、さらに町内外の人とつながり、多くの人が参加する基盤になっていることを実感した。
 このオンライン講義は、現地で学ぶ前に参加者の興味・関心や疑問を整理できるよい機会となった。

(2)トークセッション(第1部)「真鶴をほぐす」
主任講師:真鶴町福祉課長(兼 子育て支援係長) 卜部 直也 氏
講師:一般財団法人 地域活性化センターフェロー・人材育成プロデューサー 前神 有里 氏
   一般社団法人 地域間交流支援機構・ロッキンビレッジ 山下 拓未 氏

 トークセッションは3部制で開催した。
 第1 部では「真鶴をほぐす」と題し、多様な主体による共創の地域づくりが進んでいる背景について、前神氏をモデレーターに、卜部氏と真鶴町で空き家を改修しサテライトオフィスと飲食店を経営する山下氏により意見交換が行われた。
 山下氏は、地方創生分野で有名な株式会社あわえの創業メンバーで、現在はその経験を生かし「地域の中で楽しみ、暮らすことができる、社会を作ること」をコンセプトとして、地方創生に関する取組や地域ビジネスの創出支援などを行っている。また、真鶴町内でのシェアスペース、カフェ・キャンプ場などの各種施設を活用したサービスの提供も実施している。
 同氏からは、民間側として、また移住者・当事者としての視点から説明があった。真鶴町の地理的優位性や自身が真鶴町に移住した理由にはじまり、小さな町だからこそ生まれる当事者意識、地方におけるITビジネスの重要性・将来性などについて語られた。
 その中で、特に印象的だったのが、地域ならではの楽しみ、資源と可能性、そして地域の未来を一緒に考え共に歩もうとすること、この3点が大事であることだった。山下氏は、この考えをもとに真鶴町で実際に行動に起こし実践されており、町の取組において重要な存在となっていた。
 次に、卜部氏からは行政側としての説明があった。卜部氏からは、これまでもこれからも、まちづくりの主体は町内外から集う人であること、町職員は町民と対等に接し必要に応じて情報提供や人と人をつなげる役割に徹すること、という一貫した考え・姿勢が述べられた。また、行政として関わる上で重要な、以下の「3つのキーワード」が語られた。
① ゼロベース:前例や事例にとらわれず、ゼロベースで事業を考えること。
② オープンデータ:主体的に判断を促すため、行政の持っている情報(予算や費用等)を開示・共有すること。
③ 試行:最初から完璧を目指すのではなく、できることから試行してみること。思った効果が得られなければ、事業をやめ、他のことにチャレンジすること。

IMG_4494.JPG

(3)トークセッション(第2部)「ローカルから未来をつくる」
主任講師:真鶴町福祉課長(兼 子育て支援係長)卜部 直也 氏
講師:一般財団法人地域活性化センターフェロー・人材育成プロデューサー 前神 有里 氏
   株式会社honohono代表取締役、株式会社リジョブ・真鶴子ども未来カレッジ 入江 未央 氏
   素陶美代表、石屋の台所Co-founder ストービー 百代 氏
   写真家、真鶴カメラ 仁志 しおり 氏

 町内で行われている代表的な取組として、飲食店経営や駅前のシェアオフィス「月光堂(Blue Tree)」の運営、お仕事体験イベントの企画などをする入江氏、雑貨店経営や真鶴の名産「小松石」を活用した新商品を開発・販売するストービー氏、写真で真鶴の魅力を発信する「真鶴カメラ」を運営する仁志氏が登壇した。民間の力によって町全体でどのような取組が行われているのか、取組に至るまでの経緯、今後の展望などについて各講師から説明があった。
 登壇者の事業内容はそれぞれ違うものの、町民が主体的に事業を行っている点、地元の人と町外の人がつながるきっかけとなっている点、幅広い年齢層の方が事業に関わる点などが共通しており、真鶴町で行われる多様な取組が地域課題の解決や新しい価値を生み出していることがわかった。

IMG_4517.JPG

(4)トークセッション(第3部)「まとめ」
主任講師:真鶴町福祉課長(兼 子育て支援係長)卜部 直也 氏
講師:一般財団法人地域活性化センターフェロー・人材育成プロデューサー 前神 有里 氏
   一般社団法人地域間交流支援機構・ロッキンビレッジ 山下 拓未 氏

 まとめでは、町と町民が対等な立場で率直に議論を交わすこと、町が前に出すぎず「伴走」に徹すること、町民と町職員が常に情報交換できる雰囲気が真鶴町の特徴であり、町民の主体性を育むことが「共創」につながっていると語られた。

地方創生実践塾in真鶴町開始③.jpeg

(5)フィールドワーク
訪問先:①竹林石材店 ②月光堂(Blue Tree) ③コミュニティ真鶴 ④ロッキンビレッジ ⑤真鶴出版

 2日目は入江氏の運営する「月光堂(Blue Tree)」、空き家バンクを運営する「真鶴未来塾」、山下氏の経営する空き家を改装したワーケーション拠点「ロッキン・ビレッジ」、東京藝術大学大学院卒業生が創作活動をしながら働く「竹林石材店」、宿泊と書籍で真鶴の魅力を発信する「真鶴出版」を訪れた。それぞれの事業に関する説明を受けつつ、共創する地域づくりの現場を見て、そこに携わる人達の思いを聞いた。いずれの町民も、それぞれの思いを持ち、時に連携しながら現在や将来の真鶴町での暮らしを豊かにするために、自身の経験・スキルを活かしながら事業を展開していることが分かった。

地方創生実践塾in神奈川県真鶴町 (58).JPG

(6)2日間の振り返り・講師の講評
主任講師:真鶴町福祉課長(兼 子育て支援係長)卜部 直也 氏
講師:一般財団法人地域活性化センターフェロー・人材育成プロデューサー 前神 有里 氏

 2日間の振り返りとして、参加者が学んだことや気付きの共有を行った。町の共創の現場に触れたことにより、「町と町民の関係性」や「人と人をつなぐ重要性」など、それぞれの学びが共有された。
 最後に、卜部氏から、町職員に必要な「積極的な受け身」の重要性が語られた。
 「積極的な受け身」とは、町民と対等に向き合い、積極的に町民の思いを引き出し、アドバイスはするが指示などは行わない姿勢である。これにより、町民が自身の思いに気づき自ら考え動く主体性を育てることにつながる、そしてその積み重ねがまちを活性化させていく、と語られ実践塾は閉講した。

地方創生実践塾in真鶴町終了③.jpeg

4 おわりに

 「美の基準」を起点に、若い世代の減少、地場産業の担い手の高齢化や後継者不足、空き家増加などの課題に対して、民間主導でその解決を目指す真鶴町の取組を学ぶことができた。後押しする真鶴町の一歩引いた姿勢や町民との関係性づくりについても学ぶことが多かった。
 特に印象的だったのは登壇した町民に共通する「行政課題とされてきたものを、町民自らの思い(民力)で解決しようとしている点」である。
 卜部氏の「3つのキーワード」や「積極的受け身」という言葉からも、「行政が決めた方向性を起点に民力を活かす」のではなく、「町民の思いを起点に行政が後押しする」という行政の姿勢が共創を生む土壌を作っていると考えられる。
 また、町のこの姿勢が「移住者や町民が主役となり、自身の思いを実現できる土壌」をつくり、それが真鶴町の魅力となり、町外の人をひき付け、さらに地域が活性化するという相乗効果をもたらしていると感じた。

受講者の声

  • 官民それぞれからの立場からの話が聞け、さらに現在の関わり方や関係性について知ることができた。
  • 今後の事業を考えるうえで、「町民の思いを起点に行政が後押しする」という姿勢は、持続可能なまちづくりを考えていくうえでも重要であると感じた。

執筆者

 企画・人材育成グループ   見上 司(神奈川県綾瀬市から派遣)

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp