【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in長崎県大村市

終了レポート

2024年03月25日

農村観光と新規就農支援の仕組み
~人材育成と地域経済創出の現場から~

 令和5年10月6日(金)~7日(土)に、「農村観光と新規就農支援の仕組み~人材育成と地域経済創出の現場から~」をテーマとして長崎県大村市において地方創生実践塾を開催した。

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1 開催地概要

 大村市は、長崎県の中央に位置する人口98,593人(令和5年11月末日現在)、面積126.73㎢の市である。空港や高速道路のインターチェンジがあるほか、令和4年に開業した西九州新幹線が通り、交通の便が優れている。これに加え、地価の安さ、海や山といった豊かな自然がある住環境の良さから、ベッドタウンとして人気が高く、昭和45年から人口の社会増が続いている。

2 開催地の取組

 大村市は、農家に泊まって農業体験をする農業インターンシップや1年間に渡る技術習得支援研修等、新規就農を希望する人に手厚い支援を行っている。特に、大村市と大村市グリーンツーリズム推進協議会が連携して行っているインターンシップは、農泊や直売所の紹介等を通じて農家の視点を体感できると好評である。
 これらの取組により、大村市では平成28年度から令和2年度までの5年間で90人の新規就農につながった。

3 実践塾内容

(1) フィールドワーク①「おおむら夢ファームの農村観光の仕組み」
講師:おおむら夢ファームシュシュ代表取締役 山口 成美 氏

 はじめに、山口成美氏から、農産物直売所やいちご農園、レストランを見学するとともに、農村観光で収益を得るために重要な商品開発の考え方や各施設の運営方法等の説明があった。
 山口氏は、「できない理由ではなく、できる理由を探すことが大事」と強調された。フィールドワークを通じ、農村観光における商品開発や施設の運営方法等、柔軟な発想を持ちながら取り組む姿勢の重要さを学ぶことができた。
 また、山口氏は、商品を売るには、ターゲットの生活やニーズに合わせた商品の開発、目を引くパッケージデザインが重要と語られた。実際にこの点を生かし、直売所では、単身でも大家族でも消費し切れる様々な大きさのドレッシングや手書きのフォントを使用したパッケージのジュース等が販売されていた。

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(2)フィールドワーク②「大村市の農村観光の現場から」(大又農園)
講師:大又農園代表 大又 耕治 氏

 続いて、大又農園代表の大又耕治氏に案内いただきながら、コスモス畑とスイーツカフェ「野の実」を見学した。春は菜の花、羊毛狩り体験、初夏にはラベンダー、秋にはコスモス、フルーツ狩り、冬にはバードウォッチング等、四季を通して何度訪れても楽しめるようデザインされており、年間約2万人が訪れるという。いくつかのフォトスポットで撮影を楽しむことができるほか、カフェでは、農園で収穫した果物等を使用したスイーツを販売するなど、単なる農園にとどまらない観光地としての魅力を高める取組が行われている。
 農家の本業は農作物の生産であるが、生産物である花きを観光資源としても活用するほか、農作物に付加価値をつけて直接販売することにより、収穫量に左右されづらい収入が確保でき、持続可能な経営を可能にする手法について学べた。

(3)講義①「農村観光と地域経済に繋がる仕組み」
講師:おおむら夢ファームシュシュ代表取締役 山口 成美 氏

 次に、山口氏が「農村観光と地域経済に繋がる仕組み」をテーマとして「観光農業・感動産業・希望産業」の3K農業を目指すシュシュにおける、加工品販売や食育体験、農家民泊等の様々な取組を紹介された。
 観光には食べる体験が不可欠であり、収穫体験や食育体験を行うことで、「シュシュに行けば楽しいことがある」と観光客に感じてもらい、ファンやリピーターを増やすことが重要である。また、作り手が売りたい価格で商品を売れる販売所を作ることで、農家の収入が安定し、産業の持続や後継者の育成につながる。
 最後に、地域の人に愛されて初めて市外の人が来る点を強調され、地域に根ざした農村観光に取り組むことが地域経済を活性化する上で重要なことだとまとめられた。

(4) パネルディスカッション①「おおむら夢ファームシュシュはなぜ年間49万人の観光客が訪れるのか」
ファシリテーター:地域活性化センターシニアフェロー 金丸 弘美 氏
パネラー:おおむら夢ファームシュシュ代表取締役 山口 成美 氏
     大村市グリーンツーリズム協議会副会長 山口 純典 氏

 初日の最後に、パネルディスカッションを行った。
 フィールドワークや講演の内容をより掘り下げていき、それぞれのプログラムで学習したことの理解を深めた。また、海外の方が農泊に来た際の出来事や各関係団体が果たす役割等について、パネラーの方々がお話しされた。
 ディスカッションの中で、観光はコト体験の時代にシフトしていると分析し、農村観光は1軒の農家で収穫体験を用意しても多くの観光客に対応できないため、他の農家と連携し、広域で受け入れる必要があると強調された。また、収穫体験のほか、加工品の開発にも力を入れ、「また大村に行きたいと思ってもらえるような商品開発を行い、ファンを作ることが大事」と話された。
 多くの観光客が訪れるようになるためには、商品開発の努力と受け入れるための地域内の団結が重要であることを学んだ。

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(5) 講義②「大村市の新規就農の仕組みと制度」
講師:大村市農林水産振興課参事 岩永 太 氏

 2日目の冒頭では、岩永氏が大村市の概要や新規就農者に対する市のサポート体制について講義をされた。
 市では、「就農前」・「就農後」・「経営が軌道に乗った段階」において、様々な支援制度を設けている。具体的には「就農前」の支援として、就農に必要な知識と技術を身に着ける「農業インターンシップ」や「技術習得支援研修制度」がある。「就農後」の支援としては、新たに必要となる農地や規模拡大に必要となる農地の賃借料を補助する「新たな担い手支援事業」が、「経営が軌道に乗った段階」の支援としては、新しい品目の導入・品種改良など経営の向上を図るための補助を行う「農業所得向上支援事業」などがある。様々な段階において国の制度や市独自の方法によりサポートを行っている。
 岩永氏は「行政が色々な場面で支援し、農業のイメージを「新3K(感動・かっこいい・稼げる)」にすることが重要である」と述べられた。
 行政支援の必要性が学べたのは言うまでもないが、民間事業者であるシュシュと市が理念を共有して就農者を伴走支援している構図が印象的であった。

(6)パネルディスカッション②「5年間で90名の新規就農を可能にするために必要な要素」
ファシリテーター:金丸 弘美 氏
パネラー:おおむら夢ファームシュシュ代表取締役 山口 成美 氏
     大村市農林水産振興課参事 岩永 太 氏
     大村市認定農業者協議会会長 佐々木 慎吾 氏

 パネルディスカッションでは、北海道から移住し、実際に市の支援制度を活用して就農した佐々木氏にインタビューをしつつ、新規就農者を増やす取組について理解を深めた。
 佐々木氏は、自身が当時活用した市の新規就農支援制度が年々ブラッシュアップされ、研修生に日当が出るなど、より活用しやすい内容になっていると述べられた。また、山口氏は「農業インターンシップ等をどんどん活用してほしい。田舎でのんびり暮らしたい、自然の中で暮らしたい、なんでも良いから農業をやりたいという人が多いが、正直そんなに甘いものではない。研修で学ぶことで、農業を理想ではなく、現実的に考えてほしい。」と述べられた。
 山口氏の農業の厳しさについてのコメント等から、単に就農者を増やすだけでなく、その後の生活の実情についても事前に共有する重要性を学べた。

4 おわりに

 最後に、全行程の締めくくりとして「地域に人を呼び込み、事業化していくためには何が必要なのか」をテーマに、本実践塾で学んだことを踏まえながらグループごとに討論した。
 グループはそれぞれ4人1組となり、職種も年齢も異なる参加者同士で活発な議論が行われた。グループごとに発表された意見は、参加者が居住する地域の特産品振興に重点を置いたものや、人を呼び込むシステムづくりを重要視するものなど様々な視点から検討されており、発表後には金丸氏からの講評や参加者からの質問があった。
 自治体や事業者、協議会等、様々な主体が連携して地域づくりを進めようとするとき、足並みがそろわないなどの課題に直面することもあるが、大村市の各主体は互いに前向きな理念を共有し、密接な連携関係を築いている。この連携関係が様々な取組につながり、移住者や新規就農者の増加、大村市のファンづくりや地域経済の好循環といった効果をもたらしている。
 今回の実践塾を通じて学んだことは、参加者自身の地域づくりの活動に生かせるだろう。

受講者の声

・フィールドワークで学べ、グループワークや農泊も体験でき、大変有意義だった。
・学生としての参加で、とても多くのものを学ぶ機会だった。また、学生生活では自治体の方との交流もないため、とても有意義な時間となった。

執筆者

地域活性化センター 地域創生・情報広報グループ
 熊谷 浩志(山形県から派遣)
 斯波 省三(埼玉県から派遣)
一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN)
 井上 美奈(埼玉県秩父市から派遣)

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp