【終了レポート】令和6年度地方創生実践塾in鹿児島県奄美市

終了レポート

2024年12月02日

地方創生実践塾in鹿児島県奄美市
まちづくりメディアラボ~WEB・動画・写真を駆使した地域プロモーション技法を学ぶ~

 鹿児島県奄美市において、令和6年11月16日から17日にかけて「まちづくりメディアラボ ~WEB・動画・写真を駆使した地域プロモーション技法を学ぶ~」をテーマに地方創生実践塾を開催し、全国の地方公共団体や民間企業等から21人が参加した。

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1 開催地概要

 鹿児島県奄美市は、奄美大島の北部に位置する市で、美しい自然と独特の文化を誇る。奄美市は、奄美群島国立公園の一部であり、世界自然遺産にも登録された豊かな生態系が残っている。希少な動植物が生息するマングローブ林や透明度の高い海でのマリンアクティビティが観光の目玉となっている。また、奄美特有の方言や伝統工芸品の大島紬、独自の音楽文化「島唄」など、文化的な魅力も多彩である。温暖な気候と温かい地域の人々が、訪れる人々を歓迎し、ゆったりとした島時間を提供してくれる。

2 開催地の取組 

 本実践塾は、地方創生イノベーターのプラットフォームである一般社団法人INSPIREの協力で「まちづくりメディアラボ」として開催した。まちづくりメディアラボは、地域マーケティングにおいて重要な役割を担う地域プロモーションを大きなテーマとし、「たった2日間でメディアプロデューサーになる」ことを目指して、技法の習得を目的とするものである。

 地域プロモーションにおいて、地方公共団体職員や地域おこし協力隊員に求められることは、プロジェクト全体の指揮をとるプロデューサー目線である。多くの場合、プロモーション関連のコンテンツ作成は外部業者に委託されている。その制作におけるディレクターやオペレーターの役割は、専門とする外部業者の力を借りるとしても、プロデューサーの役割は発注者にしか担えない。つまり、地方公共団体職員等がプロデューサーとして適切に外部業者をグリップできるか否かが、その成果物に大きな影響を与えることになる。

 そこで本プログラムは、プロデューサー目線を実践的に体験することを目的に、参加者を45人のグループに分け、奄美市を舞台に独自の突き抜けた観光コンテンツを考え、写真や動画等の素材集めを自ら行い、Webサイトを作り上げるという構成である。地方創生実践塾は、地域づくりにおいて先進的な取組を行う地域を開催地としてその取組・手法を学ぶものであるが、本実践塾は事前のオンライン講義と現地2日間の講義・ワークショップ・フィールドワークを通じてアウトプットを具体的に表現する、より実践的な内容となっている。

3 実践塾内容

 

(1)事前セッション(オンライン)「メディアプロデューサー特論」
   主任講師:BBT大学経済学部教授、BBT大学大学院経営学研究科MBA教授、
        一般社団法人INSPIRE代表理事 谷中 修吾 氏

 現地開催前の11月8日には、主任講師の谷中氏がメディアプロデューサー特論のオンライン講義を行った。そこでは、現地でのフィールドワークに向けて、必要な基礎知識を習得した。また、谷中氏は、地域マーケティングの全体像から、プロモーションの位置づけを解説し、メディアプロデューサーに必要な視点や基本的な考え方について講義をされた。さらに、画期的な地域プロモーションを行うための発想や企画をスムーズに推進するためのポイントなどについても事例紹介を交えて講義をされた。

(2)講義「イントロダクション」
   主任講師:BBT大学経済学部教授、BBT大学大学院経営学研究科MBA教授、
        一般社団法人INSPIRE代表理事 谷中 修吾 氏

 11月16日、17日の現地開催では、奄美市で講義とフィールドワークなどを行った。
 はじめに、谷中氏が事前セッションの振り返りとフィールドワークに向けた講義を行った。
 「奄美大島をフィールドとして、「カヌー」、「相撲」、「八月踊り」を体感し、突き抜けた"観光コンテンツ"を提案せよ。」というミッションのもと、8つの実践プロセス(①前提条件の整理、②コンセプト設計、③現地ロケ、④写真の撮影・編集、⑤動画の撮影・編集、⑥WEBデザイン、⑦サムネイルの制作、⑧プロトタイプの発表)について順に説明された。
 次に、事前セッションでも述べられたポイントを再確認し、ターゲットの設定を明確にすることの重要性が述べられた。また、様々な地方公共団体の突き抜けたPR動画の紹介もあり、2日目に制作するWEBデザインのイメージをつかんだ。
 この講義からは、地域プロモーションにおいて、その地域ならではの歴史文化や観光名所、特産品等を突き抜けたアイデアと掛け合わせることで、新しい地域の魅力を生み出し、それらを地域課題の解決に結び付ける考え方を学んだ。

(3)講義「奄美市の文化について」
   講師:奄美市副市長 諏訪 哲郎 氏

 奄美市の概要や歴史、観光資源について、諏訪氏から説明を受けた。奄美市のある奄美大島は大陸と切り離された独自の生態系が形成されている。そのため、多くの固有種や絶滅危惧種が生息しており、生物多様性の面で重要な地域として知られており、2021年に世界自然遺産に登録された。
このような恵まれた自然環境を持つ一方で、文化面でも奄美独特の伝統芸能や祭りが数多く存在する。代表的なものとして、「島唄」や「八月踊り」がある。「八月踊り」は旧暦8月に五穀豊穣を祈る行事で、地域ごとに異なる踊りが受け継がれている。また、豊年祭では「豊年相撲」が行われることもあり、地域の絆を深める場となっている。さらに、奄美市の伝統的な競技として「舟こぎ競争」が挙げられる。これは、地域を代表する競技であり、地元の夏祭りの目玉となっている。
歴史や文化、自然の多様性が融合する地域として、奄美市の豊かな特色を学ぶことができた。

(4) グループワーク「突き抜けたコンセプトをつくる大喜利イノベーション技法」
   主任講師:BBT大学経済学部教授、BBT大学大学院経営学研究科MBA教授、
        一般社団法人INSPIRE代表理事 谷中 修吾 氏

 突き抜けた観光コンテンツを考える上で、各参加者が柔軟な発想をしていくための練習として大喜利を模したグループワークを行った。「ついに奄美が振り切った!突き抜けた観光が、話題沸騰。奄美、一体、何をした?」というテーマの下、参加者はポストイットにそれぞれの"回答"を書き込み、グループ内・全体へ共有した。これは、作りたい観光コンテンツのイメージ(仮説)を持ち、現場を体感しながらコンセプトを精査するために必要なプロセスであった。この仮説を持って現場に入ることで、撮影時により構図を意識し、完成を見据えた現場ロケができると学んだ。また、実際に現場で撮影をする際の工夫や、「二分割構図」、「放射線構図」などの被写体の魅力を引き立たせる構図などの撮影技法について学んだ。

(5)フィールドワーク「カヌー」、「相撲」、「八月踊り」

 奄美市の観光コンテンツを実際に体感し、グループワークで得た仮説との差異を参加者それぞれが埋めながら、WEBデザインの素材となる写真撮影のトレーニングを行った。始めに、「カヌー」ではあいにくの天気であったが、マングローブ林をカヌーで進んでいき、奄美特有の雄大な自然を体感することができた。次の「相撲」では奄美大島における相撲の歴史的背景について学芸員から説明を受けた。その後、実際に土俵に上がり、四股踏みや摺り足、ぶつかり稽古を体験した。最後に、浦上地区の地域の方々により「八月踊り」を披露いただき、参加者もその踊りの輪の中に入って一緒に踊る体験をした。いずれの体験の間も、観光コンテンツをより突き抜けたものにするためのアイデアを巡らし、WEBデザインを制作する際の素材となる写真を撮影した。

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↑カヌー体験の様子                 ↑相撲体験の様子

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↑八月踊り体験の様子

(6)個人&グループワーク「WEB制作」

 前日までの多くの体験を経て、あらためて奄美市の突き抜けた観光コンテンツを考え、SNSで発信するためのサムネイルと詳細を紹介することを意識したWEB制作を行った。制作にあたり、PowerPointやCanvaを使用した実用性の高い作成技術方法について主任講師の谷中氏から説明を受けた。また、途中経過をグループ内で報告し、各自のコンテンツをブラッシュアップしていった。

(7)発表及び講評

 グループごとに制作したサムネイルとWEBデザインの発表を行った。各グループとも、コンセプトやターゲットを明確にしており、参加者が体感した奄美市内の観光資源を生かした、突き抜けたアイデアを具現化した発表であった。
 発表後は、谷中氏から、「明確にターゲットが定められており、奄美市の特徴を活かした突き抜けたコンセプトを具体化できている」と講評をいただいた。
 また、奄美市長の安田氏からは「既存の観光コンテンツをこれまでにない視点で見ることができた。実践したいと思えるアイデアが多く、有意義な発表であった」と講評いただいた。
 最後に、表彰式では「最優秀賞(Eグループ)」、「いいだっか(奄美の方言で「良いね」を表す)賞(Eグループ)」、「地域活性化センター賞(Aグループ)」の3つの賞が授与された。Eグループは最優秀賞とのダブル受賞となった。

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↑発表の様子                    ↑最優秀賞・いいだっか賞を受賞したEグループ

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↑当日制作したサムネイル

4 おわりに

 本実践塾では、メディアプロデューサー視点での地域プロモーションの実践プロセスを学ぶことができた。
 地域プロモーションというと、今あるコンテンツをどう発信するかというディレクターや制作スタッフの視点で考えがちになる。しかし、それでは目を引くような新たな魅力の発信には繋がらない。需要があるコンテンツの創出や新たな魅力の発信を行っていくには、まずは自分自身がその地域におけるコンテンツや魅力について理解した上で、企画全体の設計・運営を行うプロデューサーの視点に立ち、コンセプト設計やターゲット設定等を細かく決めることが、最も重要であると感じた。写真・動画の撮影方法やWEBデザインの制作技法だけでなく、メディアプロデューサーとしての着眼点を習得することで、今後の地域プロモーションに大きく活かすことができると考える。

受講者の声

  • 各参加者の突き抜けたアイデアとのかけ合わせから、「そのままでも十分では?」と思っていた観光コンテンツがより魅力的なものになっていく様子は地域プロモーションを推進する上で必要な考え方だと感じた。
  • 体験したコンテンツの中でも八月踊りが特に心に残った。地方独自の踊りと「敷居が高いと感じる文化をどのように観光客にアピールして落とし込んでいくか」を考える機会になった。

執筆者

 企画・人材育成グループ   松浦 宏太  (岐阜県大垣市から派遣)

               末廣  翼  (鹿児島県から派遣)

 移住・交流推進課      具志堅 絵美里(沖縄県南城市から派遣)