平成28年度第9回地方創生実践塾 滋賀県東近江市

地方創生実践塾 募集終了 終了レポート

2016年11月19日

平成28年度第9回地方創生実践塾(滋賀県東近江市)
「森里川湖のつながりを生かした住民総参加の循環共生型まちづくり
~温かいお金と自治の心でつなぐ人と人・人と自然~」

平成28年度第9回の地方創生実践塾は、滋賀県東近江市の地域内循環を学ぶ目的で開催し、全国から39名の方にご参加いただきました。

今回のテーマは、「森里川湖のつながりを活かした住民総参加の循環共生型まちづくり~温かいお金と自治の心でつなぐ人と人・人と自然~」とし、近江商人の心得である「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の精神によって、東近江の地域力がどのように生み出されているのかを学びました。

講義1 東近江市 森と水政策課 課長補佐 山口 美知子氏

東近江には地域資源を生かした地域内循環を進める人たちが以前からたくさんいたため、地域でモノが回る仕組みを作りつつ、循環共生型の社会が形成されてきました。東近江の特徴は、それぞれの人が自分の分野だけに完結した取組を行っていない点にあり、環境の分野をベースに、そこへ自治や菜園、中間就労、教育の話などが乗っかっており、今回のセミナーにはこれらの要素が全て含まれています。一つの分野だけを視察してもその深さは分からず、東近江の考え方はフルパッケージで知ることが重要とお話いただきました。

講義1

講義2 東近江市 まちづくり協働課長 福井 健次氏

住民活動への支援として「東近江版CB(コミュニティービジネス)×SIB(ソーシャルインパクトボンド)」が新しくスタートしました。東近江には、元々、CBへの補助金制度はありましたが、SIBの手法を取り入れたことによって、活動の成果が出れば出資者にお金が還元され、事業者も出資者の期待に応えようと努力するというメリットが生まれるようになりました。今後は、寄付金や休眠預金、遺贈を活用した「東近江三方よし基金」と連動することで、さらに市民がCBを支えるまちづくりを進めていきます。

講義2

講義3 河辺いきものの森 事務局 丸橋 裕一氏

すべての活動の根底にある東近江の豊かな自然を守るために、河辺林の保全活動が進められています。水害の防備のために植林されていたが管理が放棄されることによって荒廃してきた河辺林を、子ども達が自然の中で遊ぶことによってテレビや本では得られない学びを得る場として活用しています。人の手で河辺林を再び管理することによって特異な自然環境を守ることができ、地域の子ども達が林へ遊びに来て楽しんでいる様子は保全団体の励みへも繋がっています。

講義3

講義4 働き・暮らし応援センター"Tekito-" センター長 野々村 光子氏

暮らしの根幹である食とエネルギーとケアが地域で循環するFEC自給圏の取組の一つとしては、野々村さんが立ち上げた「チーム困救(こんきゅう)」があります。「明日、明後日ではなく、10年後に働いていることを応援する」を信念に、ハンデがあったり引きこもっていたりした人が地域の中の困りごとを救う仕組みを作りました。彼らは、里山保全のために間伐材を割って薪ストーブの薪を作る地域経済循環の一翼を担う人材として活躍しており、野々村さんは彼らのことを「働きもん」と呼んでいます。

講義4

講義5 薪遊庭 村山 英志氏

働きもんが活躍する場となっている薪遊庭は、森林資源の活用策の一つとして薪販売をスタートしました。当初はなかなか採算がとれませんでしたが、野々村さんと繋がったことによって薪プロジェクトがスタートし、環境保全や再生エネルギーの推進をするとともに中間就労の場にもなっています。

講義5

講義6 NPO法人愛のまちエコ倶楽部 事務局長 増田 隆氏

東近江の地域資源を地域内で利用する資源循環型地域づくりの最たるものとして、「あいとうエコプラザ菜の花館」が実施する菜の花プロジェクトがあります。このプロジェクトは、琵琶湖に赤潮が大量発生したことから富栄養化対策として始まったせっけん運動が発展していったものです。現在このプロジェクトは、バイオディーゼル燃料や有機質肥料、環境学習の取組など、様々な分野の利用にまで広がりを見せています。

講義6

講義7 (株)あいとうふるさと工房 代表取締役 野村 正次氏講義

菜の花プロジェクトによってできた菜種油は、「あいとうふくしモール」内の農家レストランで使用されています。あいとうふくしモールは、福祉・医療をはじめ環境、農業、まちづくり等他分野の有志が集まり、地域で安心して暮らせるための理想像として作られた複合施設です。高齢者の働き支援や地域交流施設となっている「田園カフェ」と「薪工房」、デイサービスや訪問看護支援を行う「結の家」、福祉支援型農家レストランの「野菜花」と、それぞれの事業所が軒を連ねています。地域のことは地域で解決することを理念に掲げ、創意工夫しながら暮らし全般にかかわることを解決できるような運営が行われています。

講義7

フィールドワーク① 東近江市長 小椋 正清氏

東近江の56%が森林である現状から、小椋市長は自然環境を生かした豊かな暮らしの実現を目指しています。小椋市長が住む東近江市永源寺地区の通称小椋谷は、轆轤(ろくろ)を使って円形の木地を作る職人である「木地師(きじし)」発祥の地となっており、良い木を求めて山とともに生活していた木地師文化からは、森林資源の適切な管理について多々学ぶことができます。

フィールドワーク①

フィールドワーク② 東近江市地域おこし協力隊 山形 蓮氏

永源寺地区で活動をする山形さんは、政所茶の再生活動を行っています。政所茶は朝廷や彦根藩にも献上されるなど600年という長い歴史を持っていますが、現在は生産者の平均年齢が70歳を超え始めており、45軒のお茶をかき集めても800kgしかないほど生産量が減少しています。そんな中、茶づくり塾や政所茶カフェなどを行うことで、「ヨソ者」の自分が地域に風穴を開けて外と中を繋ごうと活動を続けています。

フィールドワーク②

講義8 (有)丸山薬局 薬剤師 大石 和美氏

高齢化率30%超えの永源寺地区をまるごとケアできるよう、診療所や薬局から、介護施設、行政、警察官や住民団体まで様々な人々が参加する「チーム永源寺」が活動を行っています。定期的に集まり情報交換を行うことで、医療や介護を必要とする人のちょっとした暮らしのお手伝いができるよう取り組んでいます。

根底にあるのは、月に一度開かれる東近江全体の取組である「三方よし研究会」です。市民や行政、医療・介護スタッフなどが集まり、弱みや強みを言い合ったり皆で悩みを共有し、知恵を出し合う顔の見える関係を作ることで、互助と共助の隙間を埋める「地域まるごとケア」を目指しています。

講義8

グループワーク

2日目の最後にはグループワークを開催し、参加者はこれまでの話を聞いてどう感じたか、普段創寄りに参加されている方々と一緒に話し合いました。その結果、東近江の地域づくりはリーダー型ではなく「地域の人を繋げるだけでも変化が生まれる」という野々村さんの話そのものだという意見や、人と人を繋ぐものには何が作用しているのかという疑問には、コーディネーターである(株)農楽代表取締役の西村俊昭さんから、「人と人が関わる時間の長短が豊かさの指標であるとして取り組んでいる」と回答をいただくなど、大いに盛り上がりました。

グループワーク

その後、「プチSOYORI」が体験できる地元主催の交流会を開催していただきました。東近江の地域内循環は、市民と市役所職員が集まって地域の話をする「魅知普請の創寄り」によって人と人を繋ぐところから始まっています。創寄りメンバーの小梶猛さんからは、「SOYORIで聞きたいのはあなたのgood adviceではなくgood newsである」との言葉があり、それこそが循環の原動力なのだと気づかされました。

交流会

パネルディスカッション

  • ファブリカ村 代表 北川 陽子氏
  • マザーウテラス 代表 中島 みちる氏
  • わかば 代表 横川 由貴氏
  • 東近江市地域おこし協力隊 増田 健多氏

東近江の能登川地域には、湖東の地場産業であった麻製品を紹介するとともに、滋賀県発のアートやクラフトを発信する場である「ファブリカ村」があります。商品から思いや物語を知ってもらい、大量消費・大量生産から脱却して良いものが価格以外で売れることを目標に、滋賀のものづくりを知ってもらおうと、展示販売やワークショップ、イベントの企画などを行っています。

北川さんは、ファブリカ村はつくる喜びを体感し、共有できる場所となっており、「作り手」と「使い手」を繋ぐ「伝え手」であるとともに、様々な人が集い繋がる場としての役割を果たしていると語っていました。

パネルディスカッション その1

ファブリカ村の企画は、切れ目のない子育て拠点づくりを行っている「子民家etokoro」でも実施されています。etokoroは、絵という芸術を通して子どもを育むことを目的に、地域のコミュニティの場づくりとして親子講座や縁側ひろばなどを実施しています。中島さんは、子育て支援の課題をどうやったら解決できるか考えるためには、子育ての世界以外の人と関わることが重要であり、様々な人が集まり混ぜてみることで、気づきを共有でき、それによって解消方法が生まれていく、そのための場がetokoroだと考えています。

パネルディスカッション その2

etokoroがある能登川商店街の活性化のために取り組んでいる増田さんは、シャッター街に人が集まる仕組みとして「植物」と「食」をテーマに「二丁目植堂」をオープンしました。定期的に季節の植物や花を使ったワークショップを開いたり、地域の人が飲食店を出店できるよう調理場を貸すなどの支援をしています。

また、これまで開催されていた夏祭りがなくなっていた中、新しく開催したチンドン夏祭りでは、能登川地域全体の住民が参加するようになり、地域の盛り上げに一役買っています。

パネルディスカッション その3

こうした能登川の様々な企画に子どものいる家族が参加するには、子どもの預け先が必要です。そうした場として、少人数保育と一時保育を大事に「保育ルームわかば」があります。横川さんは、行政や民間企業の幼稚園や保育園ではできない、地域の人が地域の子どもを預かる仕組みづくりが重要だと考え、必要な時間に安心して預けることのできる地域の保育ルームとして、etokoroやファブリカ村などとも繋がりながら運営を行っています。

この話を受けて中島さんは、専業主婦や仕事をしている方、シニア世代など、それぞれが考える地域観は全然違うため、お互いの地域観を共有するとともに、多世代を包括した地域活動を行っていかなければいけないと話していました。

パネルディスカッション その4

3日間のまとめ 山口 美知子氏

持続可能な人の幸せには「社会関係資本」「人的資本」「社会資本」「自然資本」の4つの要素が必要であると言われており、今回の講師は、その4つの資本を見事にプロジェクトの中心に置きながら事業を組み立てている方ばかりでした。こうした活動は、各分野をまたぐ統合的アプローチにはつきものの埋まらない隙間を、繋げるだけでなく重ねるという立体的な視点をもって埋めようとした結果、生まれてきたものだということでした。

集合写真

最後に、参加者の皆さんから頂いたお言葉の一部を紹介します。

  • 東近江のすごさ、パワーをとても強く感じました。人と人のつながり、キーマンの元気、リーダーシップがこの地域をつくっているんだと思います。
  • 今回の講師たちものとで一ヶ月くらい仕事体験してみたいと思えるくらい素晴らしい講義実践でした。
  • 地域のつながりはつなげるだけではなく、重ねることもできるということを知りました。
  • 移動中も振り返りや補足説明があってみっちりな3日間でした。
  • つながりからうまれる取組を知ることができた。みなさんが自分事として一歩前で取り組まれていることが大きな動きに繋がっている感じがしました。

プログラム詳細

1日目

開講式 (東近江市長 小椋 正清氏 (一財)地域活性化センター理事長 椎川 忍)
講義1 「東近江市のまちづくりの特徴について」
(講師:東近江市 森と水政策課 課長補佐 山口 美知子氏)
講義2 「東近江市CB×SIB実験事業の取り組みについて」
(講師:東近江市 まちづくり協働課長 福井 健次氏)
講義3 「森が育む」
(講師:河辺いきものの森 事務局 丸橋 裕一氏)
講義4 「10年後の彼を見つめた就労支援」
(講師:働き・暮らし応援センター"Tekito-" センター長 野々村 光子氏)

2日目

講義5 「薪プロジェクトの現場から」
(講師:薪遊庭 村山 英志氏)
講義6 「せっけん運動から菜の花、田舎もん体験へ」
(講師:NPO法人愛のまちエコ倶楽部 事務局長 増田 隆氏)
講演7 「夢をカタチに、安心をカタチに」
(講師:(株)あいとうふるさと工房 代表取締役 野村 正次氏)
フィールドワーク ①木地師資料館見学(講師:東近江市長 小椋 正清氏)
②「政所茶復活の意義」(講師:東近江市地域おこし協力隊 山形 蓮氏)
講演8 「チーム永源寺が目指すもの」
(講師:(有)丸山薬局 代表取締役 大石 和美氏)
グループワーク (コーディネーター:(株)農楽 代表取締役 西村 俊昭氏)

3日目

パネルディスカッション

「地元の資源を使って豊かな生活を送る、次世代をどう育てていくか」

パネリスト

  • ファブリカ村 代表 北川 陽子氏
  • マザーウテラス 代表 中島 みちる氏
  • わかば 代表 横川 由貴氏
  • 東近江市地域おこし協力隊 増田 健多氏)
3日間のまとめ (山口 美知子氏)
閉会 (挨拶:東近江市 森と水政策課 課長 田口 仁紀氏 (一財)地域活性化センター クリエイティブ事業室 前神 有里)

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp