【終了レポート】令和4年度 地方創生実践塾in島根県邑南町

地方創生実践塾 終了レポート

2023年01月27日

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12の地域力で描く地方創生 ~新たなコミュニティのカタチを探る~

 令和4年12月2日(金)~3日(土)の2日間、島根県邑南町で、「12の地域力で描く地方創生~新たなコミュニティのカタチを探る~」をテーマに、令和4年度地方創生実践塾を開催しました。全国各地の行政職員や大学生など21名のご参加をいただきました。

1日目:12月2日(金)

基調講演「地域の縮充・むらの減築を考える ~邑南町の取り組みを中心に~」

講師:島根大学教育学部 教授 作野 広和 氏

 特別講師の作野氏は、スイスの民間シンクタンクであるローマクラブが昭和47年に発表した「成長の限界」を引き合いに出し、昭和50年には日本の人口減少が始まっていたと指摘しました。人口減少が始まると、地域を維持するための住民や組織、行政職員が不足するため、これからの地域行政は、規模を小さくしながら充実した行政サービスが提供できる縮充や減築が必要だと述べました。

 一方で、これまでの行政サービスに慣れている住民からの反発も想定されることから、地域住民の意識改革が必要であり、行政と地域住民が向き合って話をする、伴走型支援が大事だと説明されました。

 邑南町では、昭和30年代より各地域で過疎対策に取り組んでおり、住民自身が意識を改革し、新たな取組を行う素地が出来上がっていて、地域の中で課題を解決する地域運営組織が成り立っていました。作野氏は、これからの時代は、地域でできることは地域で行う地域運営組織のような仕組みの構築が必要であると強調しました。

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講義①「口羽地区における取り組み(集落支援センター構想)」

講師:NPO法人はすみ振興会 理事長 小田 博之 氏

 邑南町の東に位置する口羽地区の取組について、特別講師の小田氏から講義をしていただきました。口羽地区では、人口減少と高齢化に伴う田畑の荒廃や日常生活の不便さ、地域自治の維持困難という3つの課題を認識していた有志が自主組織を結成し、共に活動してくれそうな同志を募りながらメンバーを構成していきました。この自主組織では、集落支援センターの機能を備えており、有限責任事業組合として設立したことで、組合名での契約もできるとのことでした。

 活動予算については、口羽地区での新聞配達業を営んでいた業者の廃業話を聞き付け、その業務を引き受けることによる年間1,000万円の収益や、地区社会福祉協議会の委員会業務を受け持つことによる年間50万円の予算を合わせて、活動資金を確保しています。

 今後は、各地域組織の運営や管理を行える地域マネージャーを確保しながら、地域資源を活かした体験交流産業の創出を目指していると述べました。

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講義② 「持続可能な地域社会の実現に向けた模索」(組織再編の動き)

講師:日貫地区自治協議会 会長 古田 五二嗣 氏

 邑南町の西に位置する日貫(ひぬい)地区について、特別講師である古田氏から講義をしていただきました。日貫地区では、人口減少や高齢化に直面しながら、形だけ存在している既存組織や会議、役員の役回りの多さといった課題があったため、組織の見直しを図りました。そこで、地域の体力があるうちに組織再編と課題解決に着手しようと法人を立ち上げ、趣旨書と賛同書を集落全戸に配布することで合意形成を図っていったとのことでした。

 日貫地区では、若者の減少が顕著であったことを踏まえて、地区に移住してきた若者にお祝い金を渡す、移住者支援を行っています。また、令和4年4月より、ヤマザキ製パン株式会社と連携し、YショップJAしまね日貫店を迎え入れたり、中山間地域等直接支払制度の集落機能強化加算制度を活用し、令和3年より配食サービスを開始して高齢者世帯へ夕食を配達したりするなど、地域課題を地域内で解決するための動きを活発化させています。

 古田氏は、いつの時代でも地域課題の解決に向け模索しながら進めていくことが大事であり、次の世代につないでいくことを考えながら取り組んでいかなければならないと述べました。

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パネルディスカッション「新しいコミュニティのあり方」               

コーディネーター

一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所 監事 白石 絢也 氏

パネリスト

島根大学教育学部 教授 作野 広和 氏
NPO法人はすみ振興会 理事長 小田 博之 氏
日貫地区自治協議会 会長 古田 五二嗣 氏

  

 パネルディスカッションでは、主任講師の白石氏、特別講師の作野氏、小田氏、古田氏の4人が登壇し、新しいコミュニティのあり方について議論が交わされました。

 口羽地区の小田氏からは、中山間地域等直接支払制度や多面的機能支払交付金を活用した地区独自の予算を確保しているとの説明がありました。これにより、地区協議会が高齢になった農家への支援を行うなどの取組ができ、中山間地域であっても地域運営は可能との発言もありました。

 日貫地区の古田氏は、保育所や小学校の魅力を発信することで子どもたちの保護者との関わりを持ち、その過程で若い方にも地域参画に興味を持ってもらえるように取り組んでいると述べました。

 作野氏は、先進事例として取り上げられているものは結果だけを見られているが、その結果も偶然ではなく、過程があった上での必然であるというところに着目すべきと強調しました。その結果を生み出すためには、地区内での合意形成が必須であり、合意形成ができていない地区はうまくいっていないという考えを示しました。

 最後に主任講師の白石氏は、地域ごとの状況は違うが、どう維持していくかは必ず問題になってくるため、邑南町の事例を1つの参考にして取り組んでほしいと述べました。

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2日目:12月3日(土)

講義③「初日の振り返り」              

主任講師:一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所 監事 白石 絢也 氏

 白石氏から、初日の振り返りとして邑南町の取組を再度説明していただきました。白石氏は、邑南町の取組は地縁型の組織が支えているが、そのメンバーは60代後半になっており、今後5年間での高齢化が課題であり、今後の地域のために地区別戦略の取組を実施していると述べました。

 この地区別戦略は、地域が主体となって計画、実行し、その効果を検証して次に生かすことが大事であると強調しました。また、「行政も一緒になって考えるのはいいが、地域との距離感の取り方などのさじ加減が難しいので、間に入る中間支援組織が重要である。そのため、社会福祉協議会や地域包括支援センターなどに、行政ではない第三者的視点で参画してもらうことも必要である。」と話しました。

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フィールドワーク 「日和地区の見学」                                                                   

主任講師:一般社団法人小さな拠点ネットワーク研究所 監事 白石 絢也 氏

 地区別戦略を実行している邑南町日和地区について、白石氏から紹介をしていただきながら、地区内を見学しました。邑南町では、食と農をテーマとした地域おこし協力隊を募集しており、「食のスタジオ」という研修施設を町予算で建設し、協力隊の研修施設として使用しています。ここでは、10代から50代の協力隊が活躍し、任期終了後に町内に飲食店を起業して同町の飲食業界を盛り上げています。研修の施設管理は、指定管理を受けている「ビレッジプライド邑南町」が行っており、邑南町の地域商社として、ふるさと納税の請負業務も担当しています。

 日和地区では、保育所跡地に郵便局や、農業協同組合が撤退した店舗にスーパーマーケットを誘致し、地区が運営している点が特徴的です。地区内の生活で必要な施設を地区内の住民で整備、対応している点が印象的で、邑南町の地域自治の特色の1つだと感じました。

 また、それまで公園のなかった日和地区に公園とスポーツ施設を兼ね備えたバスケットコートが必要と邑南町に要望し、町予算で整備されました。バスケットコートの利用料は無料であり、休日には大会も開催され、松江市や大田市などの町外からも参加者が集まるなど、にぎわいの場になっていることも印象的でした。

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講義④「日和地区で取り組み始めた自治会のあり方検討の現状」

講師:日和地区中央自治会 青年部長 森原 真也 氏

 特別講師である森原氏から、日和地区の現状と若者からの問題提起についての話がありました。日和地区の人口数は、地域おこし協力隊やIターン者などが住んでいる影響により微減でとどまっているものの、2050年には150人を切る推計がされています。

 若者が減りつつある中で、地区内での会議や役回りが多く、若者の負担になっていることから、日和地区の青年部が地区内の全戸にアンケート調査を行い、本当に必要な会議や組織は何なのかを話し合い、効率化に向けた検討を行っているとの説明がありました。

 日和地区の青年部は平成28年に復活し、現在は40名ほどが所属して活動している今では、騒祭(そうづきんさい)という地区の祭りを復活させるなど、若者の地域内での影響力が増しているなど、若者が主体となって動いている事例についても学ぶことができました。

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グループワーク「日和地区のコンサルティング」

 フィールドワークや森原氏の講義を聞いて、日和地区を今後どのようにしていったらよいか、3つのグルーブに分かれて話し合いました。日和地区の課題を整理し、目指す方向性や具体的なアクションについて、付箋を使って自分の考えを見える化し、グループ内で共有しました。

 あるグループでは、日和地区の既存組織のうち、最も必要な組織を3つに絞ってもらう全戸アンケートを行うことで、組織のスリム化を図ってはどうかとの発表がなされました。

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まとめ

 今回の地方創生実践塾in邑南町で学んだ地域運営組織は、地方公共団体の職員数の減少や業務量の増加を考慮すると、これからの少子高齢化社会において必要な形の1つと言えます。地方公共団体がこれまでのように、地域にすべてを提供するフルセットのサービス形態は限界を迎えており、地域でできることを地域で自主的に実施していく仕組み作りが必須だと考えます。しかし、それを住民に依頼するだけでは反発が多く生まれるのも事実です。そこで、住民に対する人材育成の機会が必須であると思います。地域運営組織においても、それを構成する住民自身のスキルや考え方が醸成されていないとうまくいかず、組織だけが出来上がり、ことが進まないことにもつながります。

 また、日和地区のように限られた住民数に対して役員数が多いという課題は、全国どの地域においても言えることです。役回りが多すぎて負担になり、それを理由として地域を離れることになる弊害も考えられます。これからの時代に合わせたスリム化された地域運営を考えていく必要があり、そのためには、住民自身が課題意識を持ち、他人事ではなく自分事として捉え考えることが重要となります。邑南町には、昔から地域のことを地域で考えていく土壌があり、それを支えるリーダーの存在で回ってきた事例です。他自治体で生かそうとしても、最初から完璧にできるわけではありませんが、まずは地域の実情を住民自身に理解してもらい、この先どうしていくかを全ての世代が考えられる機会を提供することが必要であると感じました。

スケジュール

1日目:12月2日(金)

○オリエンテーション・開講式

○基調講演「地域の縮充・むらの減築を考える ~邑南町の取り組みを中心に~」

   島根大学教育学部 教授 作野 広和 氏

○講義①「口羽地区における取り組み(集落支援センター構想) 」

   NPO法人はすみ振興会 理事長 小田 博之 氏

○講義②「持続可能な地域社会の実現に向けた模索」

   日貫地区自治協議会 会長 古田 五二嗣 氏

○パネルディスカッション

   コーディネーター:(一社)小さな拠点ネットワーク研究所 監事 白石 絢也 氏

   パネリスト:作野 広和 氏、小田 博之 氏、古田 五二嗣 氏

2日目:12月3日(土)

○講義③「初日のおさらい」

   (一社)小さな拠点ネットワーク研究所 監事 白石 絢也 氏

○フィールドワーク

○講義④「日和地区で取り組み始めた自治会のあり方検討の現状」

   日和地区中央自治会 青年部長 森原 真也 氏

○グループワーク、小括、個人ワーク