【終了レポート】令和4年度 地方創生実践塾in徳島県美波町

地方創生実践塾 募集終了 終了レポート

2023年03月24日

にぎやかそ(にぎやかな過疎)を創る~サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり~

 令和5年1月20日(金)~22日(日)の3日間、徳島県美波町で「にぎやかそ(にぎやかな過疎)を創る~サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり~」をテーマとして、令和4年度地方創生実践塾を開催しました。美波町では、サテライトオフィス誘致をきっかけに、地域課題の解決に向け様々な事業が取り組まれています。
 日本全国の過疎地で活用できる"にぎやかそ(にぎやかな過疎)"という考え方を、美波町のサテライトオフィス誘致などの取組から学ぶため、今回の実践塾を開催するに至りました。

1日目:1月20日(金)

講義①「サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり」

講師:株式会社あわえ 代表取締役 吉田 基晴氏

 美波町は、「にぎやかそ」(にぎやかな過疎の町)の宣言をしています。人口減少下でも挑戦者が集い、新たな変化が生まれ続ける"にぎやかな"町となるよう取り組まれています。
 吉田氏は、美波町と一緒にサテライトオフィスの誘致に取組まれ多数の実績を挙げられたほか、この美波町での経験をもとに全国の自治体向けに、地方創生の支援サービスを展開されています。
 サテライトオフィス誘致は、「一つの企業がハブになってチャレンジを増やし、多様なチャレンジを創出する」こととの考えが示されています。その結果、美波町では、チャレンジがチャレンジを生み、現在では徳島県内で最多となる30社に迫る企業が進出してきています。(新規事業者の増加率では県内トップレベル、三大都市圏から転入超過も発生(H24~29年までの6年間で5回超過))
 このように、美波町に企業など様々な人が集まり、活発に活動されています。ポイントは、サテライトオフィスの誘致ではなく、「チャレンジを誘致している、そのための手法がサテライトオフィス誘致である」ということを学びました。

画像1.jpg

2日目:1月21日(土)

講義②「美波町の概要、取組」

講師:美波町長 影治 信良氏

 美波町の特徴や取り組みについてご講義いただきました。
 美波町は、人口減少や高齢化、空き家の増加などの問題を解決する1つの政策として、平成30年に「にぎやかそ」(にぎやかな過疎の町)宣言をしています。"にぎやかそ"とは、美波町のまちづくりのキャッチフレーズで、「住んでよかったと実感できるまちづくり、目線はいつも住民とともに常に住民のために何をしなければいけないかを考え続ける」というまちづくりの基本方針です。
 「まちづくりを進めるにはバランスが大切である。何かに特化してもそれだけでまちがよくなるわけではない。住民の健康、災害対策、医療、教育など、基本的なところをしっかり行い、その上で新しい取組も必要である」と説明がありました。そして、まちづくりに意欲的な人々がつながることが大切だと考え、美波町では、サテライトオフィスの誘致をはじめとした、様々な人が連携できる取組を行っています。また、観光以外の関係人口を増やし地域住民との交流を増やす取組のほか、住民票を異動せず、都市部・地方の2つの拠点を行き来しながら、両方の良さを体験できる「デュアルスクール」の新しい取組も行っています。
 今回、活発な方が多くのことに挑戦し新たな取組が数多く生まれるよう支援することで、共感した人が集まってくるという好循環を生み出しているところが、美波町の「選ばれるまち」のポイントであることを学びました。

画像2.jpg

講義③「美波町サテライトオフィス誘致の軌跡について」

講師:美波町産業振興課 課長補佐 鍜治 淳也氏

 鍛冶氏は自治体職員として、サテライトオフィスの誘致活動に取り組まれています。
 そのコンセプトは、「地域課題を地域の資源と捉え、技術と起業のマインドを持った若者を誘致すること」です。美波町が捉えるサテライトオフィスの役割は、「現状の社会情勢にとらわれない『新しい働き方・挑戦』が行える場であり、ICT技術を活用し、既存の社会インフラ・慣習にとらわれることのない新しい働き方・生き方を実現する場所」と説明されました。
 美波町にサテライトオフィスを設置した企業としては、メディア取材などによる企業イメージアップやPRにより優秀な人材を確保できたほか、美波町の環境を生かした職場環境の向上、地域活動などを通じて培った社員のコミュニケーション能力の向上など、多くのメリットがありました。また、美波町にとっても町のPRにつながり、移住者に加え、観光以外での関係人口の増加につながったほか、既存住民の方々の町への見方や愛着が変わり、自信の復活につながったとのことです。
 このように、サテライトオフィス誘致を通じたこれらの取組が、進出企業だけでなく、美波町や住民の方々にもよい効果を生み出していることを学びました。

画像3.jpg

進出企業インタビュー①

講師:株式会社あわえ代表取締役、サイファー・テック株式会社代表取締役、株式会社四国の右下木の会社代表取締役 吉田 基晴氏

 吉田氏は、美波町などで従来行われていた「樵木(こりき)林業」を産業として復活させ、森林保全に配慮しつつ、伐採から備長炭の製造、出荷まで手掛ける仕組みを構築されています。この森林資源を活用した持続可能な取組のため、株式会社あわえに引き続き、株式会社四国の右下木の会社を設立されました。
 「樵木(こりき)林業」とは、出荷に適した長さの木のみを伐採する「択伐」により、全ての木を伐採しない方法であり、これにより短い期間で森林を復活させることができます。今後は、町内の森林資源を活用し、伐採から加工まで町内で行い生産する備長炭を県外に販売し、新たな産業にしていきたいとの説明がありました。また、東京から美波町に移住したことで、生活面でも変化があり、消防団、祭り、教育等の地域における活動に携わることで、地方での生活でイメージしがちなスローライフとは程遠い、多忙な毎日を送っている、というお話がありました。「いくら多忙であっても、会社も個人も地域から必要とされ感謝される、その生活に満足し、喜びを感じている」とのコメントがあり、地方での生活に関する新たな一面を発見することができました。
 質問として、一緒に活動していくために重要な地域内のキーパーソンとの知り合い方が話題になり、「その地域の人を多く知り、どのような役割を果たしているのかをよく見て分解していくことで自ずと見えてくる」との回答がありました。地域の多くの方と知り合いになり、よく知ることが全てのスタートなのだと改めて認識しました。

進出企業インタビュー②

講師:株式会社イーツリーズ・ジャパン代表取締役 船田 悟史氏

 船田氏は、インターネット通信を行う機器開発を中心に、ICT関連の事業を行っていらっしゃいます。本社は東京の八王子にあり、2017年2月に美波町へサテライトオフィスを開設され、今回はその経緯や事業内容、地域との関わり方についてお話いただきました。
 同氏は、美波町への進出後、美波町の課題を解決する製品の開発をこれまで行ってこられました。そのきっかけは、地域住民との交流の中で、地域の「困りごと」について相談を受けたことであり、現在は、美波町で開発した製品を全国に展開し、同様に困りごとを抱えている地域の支援につなげているとの説明がありました。
 質問として、製品開発が終われば美波町から撤退する可能性があるか、との話題が出ましたが、これに対し「製品が完成することはなく、続いて新たな課題も見えてくるので、美波町での取組は続き、撤退などについては考えていない」と回答されました。

画像4.jpg

進出企業インタビュー③

講師:株式会社まめぞうデザイン 代表取締役 ドウゾノ セイヤ氏

 ドウゾノ氏はWEBデザインやブランディング管理などを行うフリーランスとして活動されています。本社を美波町に置きながら、大阪オフィスも開設されています。美波町へサテライトオフィスを設立された経緯や事業内容、地域との関わり方についてお話いただきました。
 美波町へのサテライトオフィス開設について、株式会社あわえの吉田代表取締役に相談し、吉田氏から「美波町にはWEB制作会社がない。オンリーワンはナンバーワンになれる」と言われたエピソードに触れながら、競合が少なく認知してもらいやすい美波町で事業を進めようと決めたと説明がありました。また、美波町は、地域住民や行政との距離が近いことから仕事もしやすく、今後は自らが人と人のハブになり、地域内外の人をつなげる役割を果たしていきたいとコメントされました。
 地域にいる人が、地域の良さ・価値を、進出を検討している企業などに合わせてきちんと伝え、進出後の取組について具体的な検討を促すことで企業進出につながることを教えていただきました。これは、どこの地域でも留意すべきことであり、サテライトオフィス誘致における大きなポイントを学びました。

画像6.jpg

進出企業インタビュー④

講師:一般社団法人ミライの学校 代表理事 高畑 拓弥氏

 高橋氏は、一般社団法人ミライの学校を設立され、「全国の子どもたちが自らの想いで学ぶ場所・暮らす場所を選べる世の中にする」をビジョンに掲げ、デュアルスクールとサテライトスクールを全国へ広げるための活動を行っていらっしゃいます。
 "デュアルスクール"発祥の地である美波町。高畑氏からは、デュアルスクールの概要や導入事例などについてお話しいただきました。
 "デュアルスクール"とは、地方と都市の2つの学校の行き来を容易にし、双方で教育を受けることができる「新しい学校のかたち」のことで、サテライトオフィスへの進出企業の社員の方などが子どもと一緒に美波町に来ることができるよう、住民票の異動をしなくても2つの地域で学ぶことのできる仕組みです。地方と都市の学校を結ぶ教育環境を創造することによって、地方と都市の交流人口や関係人口の創出につながるほか、子どもが地方と都市の双方で学習や生活体験をすることができ、「二地域居住」や「地方移住」につながることが期待されています。
 "デュアルスクール"は、受入地域への効果も大きく、実際に移住につながった家族もいるそうです。現在、自治体からの多くの問い合わせがあり、近々、県外の自治体でも同様の取組が始まると伺いました。
 参加者からは、多くの質問があり、今後、さらに注目が集まる分野だと感じました。 大人の働き方改革が進む中、子どもたちの「学び」にも選択肢が必要とも思います。既存の学校・制度にとらわれない、未来を担う子どもたちの新たな価値観が生まれる場づくりが全国へ広がっていくことに希望を感じました。また、地方と都市のそれぞれの良さや違いを知り、多様な価値観を持った子どもたちが、いろんな場所でつながっていくような取組が"デュアルスクール"で実現できるのではと感じました。

画像7.jpg

フィールドワーク「サテライトオフィス誘致と関連する商店街活性化事例探索」

 主任講師の吉田氏から、サテライトオフィス誘致によって商店街がどのように活性化したのかについて、まちをめぐりながらお話を伺いました。
 薬王寺から海へとまっすぐ続く商店街である「桜町通り」は、かつて参拝客や地元の人たちで賑わったものの、多くのお店が閉店し、人通りが少なくなっていました。近年、サテライトオフィス企業が多数進出する美波町では移住者が増加し、古民家を活用した飲食店等が次々と開業するなど、あらたな"にぎわい"が生まれています。
 各施設の工夫やデザインなどを実際に現場で見て体感しながら、まちづくりのヒントを学びました。

画像8.jpg

講義④「最終日のワークショップに向けて」

講師:株式会社あわえ 取締役 吉田 和史氏

 最終日に向けて、主任講師の吉田氏より、サテライトオフィス誘致の考え方や事例からみたサテライトオフィス誘致のポイントなどをご講義いただきました。

 現在、サテライトオフィスの誘致に取り組む自治体は多くあり、競合が多い分野であるそうです。そのため、他の自治体との差別化を図るためにも、地域特性やターゲット、企業が進出するメリットなどを明確にすることが重要であると学びました。また、サテライトオフィス誘致には継続性が必要であることやアンケート結果からみた企業ニーズなどのお話も伺うことができました。
 地域にとって必要な企業を誘致することはもちろん、企業やワーカーのニーズを理解することや受け入れ体制の整備などを考慮した誘致の仕組みを構築することが必要と学びました。

画像9.jpg

3日目:1月22日(日)

個人ワーク「自分達の地域に誘致したいサテライトオフィスについて」

講師:株式会社あわえ 取締役 吉田 和史氏

 これまでの講義をふまえて、自分たちのまちで"にぎやかそ(にぎやかな過疎)"を実現するための方法を考えました。どのような"にぎやかそ"を目指すのか、自分の目指すまちの姿に近い画像を探し、そこからイメージを具体化させ、実現のためにすべきことを細分化しました。
 自分たちのまちの未来をポジティブに考えながら、それぞれの施策に落とし込むことができ、実践的な学びとなりました。

画像10.jpg

さいごに

 今回の実践塾では、"にぎやかそ(にぎやかな過疎)"に取り組む美波町で、サテライトオフィスを誘致しているのではなく、チャレンジを誘致していること、そのための手法がサテライトオフィス誘致であることを学びました。また、まちづくりのポイントについて幅広く学ぶことができました。
 実践者の方々のお話やフィールドワークを通して、自分のまちの特性は何か、それをどのように活かしていくのかなどを考えるきっかけとなり、非常に実りある3日間となりました。

画像11.jpg

カリキュラム

<1月20日(金)>
1.開講式、写真撮影
2.講義①「サテライトオフィス誘致を核とした人口減少社会のまちづくり」
講師:株式会社あわえ 代表取締役 吉田 基晴 氏
<1月21日(土)>
1.講義②「美波町の概要、取組」
講師:美波町長 影治 信良 氏
2.講義③「美波町サテライトオフィス誘致の軌跡について」
講師:美波町産業振興課 課長補佐 鍜治 淳也 氏
3.進出企業インタビュー①
講師:株式会社あわえ 代表取締役、サイファー・テック株式会社代表取締役
株式会社四国の右下木の会社 代表取締役 吉田 基晴 氏
4.進出企業インタビュー②
講師:株式会社イーツリーズ・ジャパン代表取締役 船田 悟史 氏
5.進出企業インタビュー③
 講師:株式会社まめぞうデザイン 代表取締役 ドウゾノ セイヤ 氏
6.進出企業インタビュー④

 講師:一般社団法人ミライの学校 代表理事 高畑 拓弥 氏
7.フィールドワーク「サテライトオフィス誘致と関連する商店街活性化事例探索」
8.講義④「最終日のワークショップに向けて」
講師:株式会社あわえ 取締役 吉田 和史 氏
<1月22日(日)>
1.個人ワーク「自分達の地域に誘致したいサテライトオフィスについて」
講師:株式会社あわえ 取締役 吉田 和史 氏
2.閉講式

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp