【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in愛知県長久手市

地方創生実践塾 終了レポート

2024年04月16日

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1 開催地概要

 長久手市は、愛知県名古屋市東側に位置し、面積は21.55㎢、人口は60,993人(令和5年8月1日時点)の市である。名古屋に隣接した市西部は、住宅地・商業施設などが多く、都市化が進んでいる。また、市東部は今なお自然を多く残している。市街化された都市と自然豊かな田園の両面を併せ持っている。

2 開催地の取組

 全国で人口減少、少子・高齢化が進む中、そうした課題にまだ直面していない長久手市では、????田市長を筆頭に、2050年という将来に向かって「1人ひとりに役割と居場所」をキーワードに新たなまちづくりに取り組んでいる。

3 実践塾内容

今回の地方創生実践塾は、「日本一若いまちが挑む地域共生~正解のない問いへの取り組み方~」をテーマとし、長久手市が取り組む「地域共生社会の実現」について学ぶため、全国の地方公共団体職員や民間企業社員など32人が参加した。なお、長久手市での開催は初めてとなる。

(1) 講義「長久手市の目指す方向性」 講師:長久手市長 ????田 一平 氏

 ????田市長は「長久手市がこれまでどんなことをしてきたか、どんなことに悩んできたかについて、みなさんに知ってもらいたい。」と話しはじめた。????田氏が普段から大切にしている「ぼちぼち、だいたい、ほどほど」といった考え方を中心に、効率を追求して一つの頂点に向かって登ってきたこれまで社会の在り方から、これからは誰も正解を知らない、無数のルートがある坂を下っていく時代になること、その時に必要な心構えなどについてお話しいただいた。????田市長の「遠回りするほど大勢が楽しめ、うまくいかないことがあるほどいろいろな人に役割が生まれる」というメッセージに、目から鱗が落ちた参加者も多かったことと思う。

(2)講義「地域との協働、これまでの歩み」 講師:長久手市地域共生推進課 金子 達也 氏

 ????田市長と同時期に市役所に入庁した金子氏から、長久手市のこれまでの歩みについて振り返りながら解説いただいた。????田市長の指示が役所では通常考えられない「効率よくやるな、もっと適当にやれ」というものだったため、金子氏は市民との向き合い方に戸惑いながらも????田市長が掲げる、遠回りすることで市民みんなに役割が生まれるまち=「市民が主導するまち」の形を模索していった。目に見える成果が出ず、地域に出ることの必要性が役所内で理解されない時期が続いたそうだが、ここ数年、役所内での他部署からの反応に少しずつ変化を感じるようになってきたという。「市民と同じ目線で汗を流す」、「結果を急がず時間をかけることを意識する」ことが大切と話されていたことが印象的だった。

(3) 「フィールドワーク」
講師:リニモテラス公益施設コーディネーター/tori8coffee オーナー 服部 大祐 氏 
講師:西小校区まちづくり協議会まちの相談員 宗 絵美子 氏
講師:日東工業株式会社広報室長 大野 健弘 氏

 3グループに分かれてフィールドワークを実施した。リニモテラス公益施設併設カフェのオーナー兼コーディネーターの服部氏からは市民の「やりたい」を支える公益施設での活動について、まちづくり協議会で相談員を務める宗氏からは地域の現場から見えてくる地域共生社会の可能性について、市内唯一の上場企業である日東工業の広報室長の大野氏からは「企業市民」としての市とのかかわり方と役割について、3名がそれぞれ講師となり、自身の活動や現在の課題、今後の展望などを現場の視点から解説した。

(4) 「フィールドワークの感想共有」 主任講師:日本福祉大学国際福祉開発学部国際福祉開発学科教授 吉村 輝彦 氏

 各フィールドワークの参加者から、学んだことや感想の共有、振り返りを行った。参加者からは、市役所の外から行政と関わる立場の講師による現場ならではの悩みや事例を聞くことができ、充実したフィールドワークだった様子を伺うことができた。

(5) 「1日目の振り返り」 主任講師: 吉村 輝彦 氏

 2日目の最初に1日目の振り返りとして、全体で感想を共有した。「市長のお話が印象深かった。」、「わずらわしいことを楽しみたい。」、「モヤモヤを深めることが大切だと感じた。」など、参加者が実践塾の1日目を通して感じたことを振り返る時間となった。

(6)講義「これからを見据えて何を大事にしていくのか」 主任講師: 吉村 輝彦 氏

 主任講師の吉村氏から、これからの地域づくりに求められること、これからを見据えて何を大事にしていくべきか、についてお話いただいた。
吉村氏は、社会状況が大きく変化していく中、現在の制度や仕組みに対する成果や課題を踏まえつつ、
①モヤモヤや違和感を出発点にすること
②未来を見据えた時にどのようにあったらいいのかを構想/妄想していくこと
③地域の実情を踏まえ、実践や実験を通して、地域との相性を確かめながら、時にはプロセスを通じて変化させ、取り組むこと
④「成解(※)」を探求し、今後のまちづくりのあり方を構想していくこと
上記4つのことがこれからの地域づくりのアプローチとして求められると話された。また、これまでの当たり前・前提・概念を捉えなおすこと、これまでの進め方や発想を変容させること、そして、これまでの枠組み(組織・事業)を越境することがこれからを見据える際に大事になってくるとも話された。その他、吉村氏からはこれまで取り組んできた事例をいくつか紹介いただいた。その中で、長久手市内にある、長久手2号公園の事例では、「いかに共存できるか」から公園利用のガイドラインの検討を始めたことを挙げられた。経験をする中で感じたこととして、やってみないと分からないこともある。だから、まずはやってみてそこから変えていくことが大切と話された。
吉村氏の講義では、思いを持った人の想いをかたちにすることの大切さについて触れる場面が多くあった。地域には人がいて、それぞれが思いを持って暮らしている。その人たちの思いをつなぎ、かたちにしていくことで、地域づくりが前に進んでいくのではないかと感じた。
※自分たちで考えて「成り立つ解」。

(7)講義「これからの公務員に求められること」 講師: 株式会社イマゴト代表取締役 秋田 大介 氏

 秋田氏は現在、様々な社会課題を解決するコーディネーター(社会課題解決コーディネーター)として活動されている。2002年に神戸市役所に入庁されてからの20年間を振り返りつつ、これからの公務員に求められることについてお話いただいた。
秋田氏は、公務員時代には、都市計画から官民連携まで幅広いキャリアを積む傍ら、被災地支援、アートプロジェクト、NPOの立ち上げなど数々の市民プロジェクトのサポートも行ってきた。秋田氏が市民参画のコーディネートをして感じたこととして、「行政がオープンになると市民が動き出し、市民が動き出すとまちが変わり始める。」と話された。また、「市民が自分たちでやりたいという思いがあることが大切。その思いがあれば行政がサポートすることでちゃんと実現する。」とも話された。他にも、「これからの公務員は、行政の立場と住民(民間)の立場の両方で活動することが求められている。公務員には社会を変える力があり、公務員が頑張れば面白い結果が付いてくる。半官半Xのように、少し飛び出した公務員を目指すのもいい。」と述べられた。

秋田氏の講義から、最初のステップは行政の立場ではなく、住民としてはじめることも一つだと感じた。また、これからの公務員のあり方について改めて考える機会となった。

(8)グループワーク「2日間の感想共有」/決意表明 主任講師: 吉村 輝彦 氏

 グループに分かれ、2日間の学びを共有した。それぞれの想いを語り合い、学んだことを今後どのように活かしていくのかについて意見を出し合った。また、最後の決意表明に向けて、それぞれの「これをやる!」を考え、文字に落とし込んだ。
 参加者、長久手市の若手職員の方々がそれぞれの「これをやる!」を紙に書き、一人ずつ発表した。「目先の成果や結果にとらわれない。長い目でみる」、「市役所に余白をつくる」、「自分の言葉・感情を大切にする」などの決意表明があった。吉村氏からは、ここで決意表明をした仲間として、これからもこのコネクションを大切にしてほしいと話された。発表者の熱い想いを聞き、やりたいことは違っていても一緒にがんばる仲間としてのつながりを感じられた瞬間であった。

4 おわりに

 今回の実践塾では、「地域共生社会の実現」に向かって試行錯誤する長久手市の取組から、これからの地域共生を考え、「正解」のないものへの向き合い方を参加者一人ひとりが考える機会となった。わずらわしさを楽しみ、多くの主体が混ざりあうことで、人々に役割が生まれ、「暮らし」が続いていることを実感した。

受講者の声

・素晴らしい講師陣と吉田市長をはじめとする長久手市の受け入れスタッフに感激しました。地域共生社会推進に必要な内容が凝縮されていました。

連絡先

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