【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in岐阜県飛騨市

地方創生実践塾 終了レポート

2024年04月16日

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1 開催地概要

 飛騨市は岐阜県の最北端に位置する人口約22,200人の市で、南は「飛騨の小京都」と言われる高山市、西は世界遺産の白川郷を抱える白川村と接している。3,000m級の山が連なる東部の飛騨山脈をはじめ四方を山々に囲まれており、市域792,53㎢の約93%を森林が占めている。

2 開催地の取組

 飛騨市の人口は昭和30年をピークに減少を続け、今後の減少速度は全国平均を大きく上回ることが予想されている。高齢化率も全国平均を大きく上回って推移する見通しだ。過疎化や高齢化が進む現在の状況が日本の30年後の姿に近いことから、飛騨市は自ら「人口減少先進地」と称して、地域課題の解決に取り組んでいる。
 加速する人口減少と高齢化を解決するためのポイントとして「地域外との交流」を掲げ、観光客やアニメ映画のファンなど、飛騨市に心を寄せているファンを可視化するため、平成29年1月に飛騨市ファンクラブを設立した。飛騨市に心を寄せるファンを可視化することで、直接コミュニケーションを取ることが可能となり、より効果的なPRを行うことができた。現在の会員数は12,000人を突破している。

3 実践塾内容

 関係人口と共に進める地域づくりについて、令和5年8月25日から26日にかけて「関係人口と共に進める地域づくり~地域の困りごとが地域資源に~」をテーマに飛騨市で地方創生実践塾を開講し、全国の市町村や民間企業等から31人が参加した。
  平成28年3月に飛騨市長に就任し、現在2期目を迎え「みんなが楽しく心豊かに暮らせるまち」の実現に向けた取組を推進する都竹淳也氏を主任講師に迎え、5人の特別講師とともに講義並びにフィールドワークを行った。

(1) 講義「飛騨市の関係人口の取組について」 主任講師:飛騨市長 都竹淳也 氏

 飛騨市は、この30年で全国より倍のスピードで人口減少が進んでいる過疎地域であり、日本の30年後を上回る高齢化率である。こういった課題に対し、ポイントとなるのは「地域外の人との交流」であることから、「飛騨市ファンクラブ」を設立し、ファンの見える化を行った。年会費、入会金は無料とし、オリジナルの会員証及び名刺がもらえる。会員証を提示すると割引を受けられることや、名刺を配る側、受け取る側も特典がもらえることができ、自然と全国にファンが増える仕組みである。
 ファンクラブを立ち上げた当初は会員確保に苦戦した。PRするために職員が製作費ゼロで面白い動画を作成したところ、大ヒットし、各メディアに取り上げられるようになった。全国各地にファンが増えていったことから、イベントができると考え、ファンクラブ会員同士の交流を実施した。東京、大阪、愛知などで実施し、一方で飛騨市内での開催では、市長自ら町案内を行ったり、地元民でしか行かないお店を巡ったりとプレミアムな企画を開催した。運営費は、税金ではなくふるさと納税の寄付金で行っており、ふるさと納税をしてくれた方に、ファンクラブ会員になりませんかと聞くことで、ファンを逃がさない仕組みとしている。なお、飛騨市ファンクラブ会員との交流を皮切りに、スタッフとしてお手伝いしたいという人が増えていったことから、これらが関係人口であることに気づいた。
 関係人口に関する取組を始めたのは、誰かが言って始めたのではなく、すべて経験から学んで実行しているのが飛騨市の特徴である。関係人口になるきっかけやプロセスに共通点があると気づき、そのメカニズムについて研究を開始したことからできたのが、飛騨市関係案内所「ヒダスケ!」である。
 ヒダスケ!とは、飛騨市内にある様々な困りごとの解決のために、全国の皆さんの力をお借りして楽しく交流をしながら助け合いを生み出すプロジェクトである。参加すると、体験や経験、食べ物などのお返しを渡したりしている。また、ヒダスケ!を利用することで、移住者の悩みを解決しており、移住者が地域の方と繋がる仕組みとしても機能している。飛騨市内でも少しずつ賑わいが生まれ、地域の魅力を維持する原動力となっている。
 ヒダスケ!は理論的に生まれたものではなく、飛騨市ファンクラブから派生的に生まれた活動であり、ここに大きな意味がある。関係人口は、「①関心人口」「②交流人口」「③行動人口」の三つに分けられる。いきなり行動人口を増やすのは難しいと考えられるため、まず裾を広げる(関心人口)ことが大切であり、そこを分かっていることが飛騨市の強みである。今後もしっかりとしたファンづくりを行い、おもてなしを行っていく。

(2)講義「ヒダスケ運営について」 講師:飛騨市地域おこし協力隊 ながいしともき 氏

 まずヒダスケ!の運営内容として、「①ヌシ(主催者)を発掘すること」「②プログラム実施のコーディネート」「③ヒダスケ!のマーケティング」「④ヒダスケ!の広報」「⑤その他事務作業」がある。
 プログラムの分類としては、「①保全作業(耕作放棄地の利用など)」「②イベント系(お祭りの手伝いなど)」「③農作業(草取りなど)」「④アイディア出し・広報(SNSの立ち上げなど)」「⑤その他(家の障子の張替えなど)」を実施している。
 ヒダスケ!のヌシ(主催者)は、10代~80代と幅広い方が利用されており、特に地域の団体や事業者が多い。また参加者については、岐阜県内からの参加者が多いが、新型コロナウイルス感染症による行動制限がなくなったこともあり、徐々に県外からの参加者が増えている。
課題としては、地域からの困りごとが出てこないこと、またSNS発信だけでは参加者を集めることは厳しいことから、地域の人と雑談をすることで困りごとなどを引き出し、参加者との関係性を築き、活動を広めていただくことが必要である。なお、運営を行う上で大切なことは、困りごとは生活や雑談の中にあることからそれを引き出していくとともに、地域外の人だけでなく、市民の参加も必要であると考える。

(3) 「石棒クラブ・関係人口について」 講師:飛騨市文化振興課 学芸員 三好清超 氏

 3グループに分かれてフィールドワークを実施した。リニモテラス公益施設併設カフェのオーナー兼コーディネーターの服部氏からは市民の「やりたい」を支える公益施設での活動について、まちづくり協議会で相談員を務める宗氏からは地域の現場から見えてくる地域共生社会の可能性について、市内唯一の上場企業である日東工業の広報室長の大野氏からは「企業市民」としての市とのかかわり方と役割について、3名がそれぞれ講師となり、自身の活動や現在の課題、今後の展望などを現場の視点から解説した。

(4) フィールドワーク「池田農園」 講師:池田農園代表 池田俊也 氏

 池田農園代表 池田俊也氏の案内で「ヒダスケ!」の人気プログラムである池田農園でのヒダスケ体験を行った。
 池田農園内でビニールハウスの草取り作業をお手伝いした。参加者には、最終的に取った草の重さと同じ量のトマトが「オカエシ」として配布された。農園の困りごとを、全国からの参加者がゲーム感覚で楽しみながらお手伝いできる好循環が生まれていた。

(5) クロストーク「ヌシ×ヒダスケさん」

パネリスト:池田農園代表(ヌシ)池田俊也氏
パネリスト:原田郁郎氏(ヒダスケ参加者)
ファシリテーション:上田昌子氏(未来のコミュニティ研究室)

 クロストークでは、「ヒダスケ!」でお手伝いを依頼するヌシである池田氏と「ヒダスケ!」参加者の原田氏、未来のコミュニティ研究会の上田氏が登壇し、お手伝いを依頼する側の視点と参加者側の両方の視点で、より良い「ヒダスケ!」の事業展開を目指して議論が交わされた。
 現在の課題の一つとして、依頼側と参加者側のミスマッチが論点となった。やって欲しいこととやりたいことが異なるケースがあるという。
解決案として、今後は「ヒダスケ!」の活動の様子が分かるレポートや依頼側と参加者側のコメントをより多く公開することが提案された。

(6)講義「関係人口の研究について」 講師:未来のコミュニティ研究室 杉野弘明氏

 杉野氏はFCL(未来のコミュニティ研究室)の研究員として飛騨市の事業に尽力している。
杉野氏は「関係人口の取組を進める際のポイントは『小さな関係で形成された構造から生まれるものに気付くこと』『内にも外にも印象的な体験が生まれるタイミングを紡ぐこと』『連鎖や循環が起きたかどうかを指標の一つとして注視すること』である」と話した。
 飛騨市ファンクラブを通して地域を応援してくれる人たちをつなぎ、「ヒダスケ!」の活動により、地域の人と外部の人が一体となり印象的な時間や体験を共有し、それらの交流が飛騨市への愛着や今後の関係継続につながるような連鎖や循環を生み出す仕組みづくりを行っている。

4 おわりに

 飛騨市では、人口減少や高齢化といった課題を抱えているが、地域内外の人との交流を大切にし、地域づくりを行っていることが分かった。特に、政策を進めていく上で行動人口を狙いに行く地方公共団体が多いと思われるが、まずはその取組に関心を持ってもらう関心人口を増やすことが大切だと感じた。今後は、関心人口を増やすことから初め、関係人口の創出に繋げて行きたいと考える。

受講者の声

・地域の資源、魅力、課題をうまく組み合わせて事業化し、分析しながら進めている点が参考になりました。
・自身が関係人口の勉強中のなかで移住を目的としていたと反省した。取り組んだ成果に関係人口という名前がつくという順番が理想的だと思った。現在の業務でも今後の生活の中でも意識して過ごしていきたい。

連絡先

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