【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in長野県千曲市

地方創生実践塾 終了レポート

2024年04月16日

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1 開催地概要

 長野県千曲市は、人口57,932人(令和5年10月1日時点)の市で、北信地域の南東部に位置し、西は冠着山、東は鏡台山をはじめとする山地に囲まれており、そのほぼ中央を東南から北東に大きく曲がりながら千曲川が流れている。千曲川沿いの肥沃な大地の恩恵でトルコギキョウを中心とした花き栽培や、リンゴやブドウ等の多品目の果樹栽培が盛んであり、戸倉上山田温泉やあんずの里、姨捨の棚田等の観光資源も豊富である。また、首都圏と北陸圏を結ぶ高速道のジャンクションがあることを生かし、最先端のハイテク産業や精密加工業、食品産業が育っている。

2 開催地の取組

 長野県では、観光資源を生かしながら関係人口を増やす手立ての一環として、職場や居住地を離れて豊かな自然に触れて癒されながら仕事をする新たなライフスタイルである「信州リゾートテレワーク」を平成30年度から提案している。これを受けて千曲市では、「快適な働き方の実践」と「温泉・絶景等の地域資源を活かすこと」を目的に、第一回となるワーケーション体験会を令和元年10月に開催した。第一回の主催は、千曲市産業振興課と株式会社ふろしきやで、千曲市がワーケーションにかかる経費を負担したが、令和2年7月の第二回以降は、主催が株式会社ふろしきやで、千曲市は財政的な支援は行わず、ワーケーションで使用する市の会議室や公共施設の確保といったサポートのみを行った。その後、令和4年11月までに15回開催され、累計参加者は534名となっている。千曲市ワーケーションの特徴は、会場を平日の旅館や利用率の低い公共施設、観光列車としており、千曲市にあるものを最大限に活用することに力を入れている。参加者の主体性を引き出すために無料体験は実施せず、すべての企画が有料というのも特徴である。千曲市ワーケーションは、回を重ねるごとに地域の遊休資源の利活用が進み、更には、参加者が次の回の企画と運営に携わるといった変化も見られ、リゾート地のホテル等で参加者が優雅に過ごす従来のものとは毛色の違うものとなっている。
 また、ワーケーションを通じて誕生した「温泉MaaS」という取組もある。温泉MaaSは、タクシーの配車やレンタル自転車の予約をワンストップで利用できるLINE連携アプリを用いた独自システムのことであり、公共交通機関で来訪したワーケーション参加者を主なターゲットとしている。ワーケーション参加者は、温泉MaaSを活用すればいつでも何らかの交通手段で移動ができる。仕事が一段落したら市内の温泉に入ったり、新しいワークスペースに移動したりといった過ごし方も可能となり、
 仕事内容やその時の気分に合わせて働く場所を変えるといった活用が見込まれる。

3 実践塾内容

 今回の地方創生実践塾は、「ワーケーションから生まれた「超」地域型共創~共感がつくりだす官
民ごちゃまぜプロジェクト~」をテーマとし、様々な講師のもと、実際にワーケーションを体験したり「温泉MaaS」システムを活用したりしながら共創について考えることを目的に開催され、全国から市町村職員や会社員、地域おこし協力隊員等14人が参加した。

(1) オリエンテーション 主任講師:株式会社ふろしきや 代表取締役 田村 英彦 氏

 主任講師の田村氏からは、過去の千曲市ワーケーションの取組内容やワーケーションを通じて誕生した企画について紹介があった。千曲市ワーケーションはトライアンドエラーの繰り返しで創り出されたものであり、人と人とのつながりを大事にした日本独自の「関係人口創出型」ワーケーションが育まれている。ワーケーションを初めて体験する参加者も多いことから、働き方のDXやつながり方のDXを通して自身の創造性が向上することを体感しながら、自分の課題を言葉にしてみることが今回の実践塾を通しての目標であると語られた。

(2)講義「VUCAの時代、「ワーケーション」という必然~地域、人、企業にとってのそれぞれの
「価値」とは?~」 講師:テレワーク・ワーケーション官民推進協議会長 箕浦 龍一 氏

 箕浦氏の講義では、仕事をするならオフィスが一番働きやすいということを前置きしたうえで、ワーケーションの意義について説明していただいた。ワーケーションを方程式にすると、「ワーケーションでの生産価値=オフィスでの生産価値-α+β」であり、αは業務効率や通信環境、上司や同僚のサポート等のオフィス環境の利点、βはワーケーションならではの付加価値とのことである。また、「地域」や「同属」の中に閉じた「経験値」はすぐに陳腐化してしまうが、「旅行しながらの価値創造活動」であるワーケーションは、外部の人が地域を訪れイノベーションが起きることから、地域を変える処方箋になり得ると説明された。そのうえで、ワーケーションでイノベーションを起こすには、個人や企業、地域、行政等の共創する者同士が、価値観や課題感において自律していることが重要となるため、実践塾の参加者には内発的な動機をもってワーケーションに臨んでもらいたいと語られた。

(3)講義 「千曲市が取り組んできたこと、行政目線で見た共創」講師:しなの鉄道株式会社(千曲市から出向) 山崎 哲也 氏

 山崎氏は産業振興課に在籍していた際に、田村氏とともに第一回となるワーケーション体験会を企画された。その後、千曲市から信州千曲観光局を経て、しなの鉄道株式会社に出向し、その間も継続してワーケーション企画のコアメンバーとして活動している。ワーケーションには、集客力が求められるが、参加者がリピーターとなり、その口コミで新たな参加者が生まれることから、集客には困っていない。また、多様なスキルを持つ参加者が、次の回では企画・運営側として携わることも多く、自然にイノベーションが起きてワーケーション以外の事業が複数展開されたと語られた。

(4) 講義「参加者が語る、ワーケーションから生まれる共創」
講師:株式会社Maas Tech Japan 取締役CSO 清水 宏之 氏
講師:合同会社KOUYO 代表 坂下 彩花 氏

 清水氏と坂下氏は、元々はワーケーションの参加者であったが、田村氏や他の参加者からの勧めを受けてワーケーション企画のコアメンバーに加わった。ワーケーションの参加者としては、インプットする作業の際にワーケーションを活用することで、より高い成果を生み出せる可能性があると語られた。また、ワーケーションの参加者の多くは、旅行という視点での癒しよりも、新たな出会いや交流を求める人が多い。行政主導の企画では批判的な雰囲気になりやすいが、ワーケーションのような参加者の肩書を気にしない企画では、クリエイティブな意見が出やすいという説明が印象的であった。

(5) フィールドワーク 

 すべての講義終了後、「温泉MaaS」を使って千曲市内を周遊する時間が180分設けられた。参加者は各々で「温泉MaaS」を活用しながら、シェアサイクルに乗って千曲川沿いの景色を楽しんだり、タクシーを予約して市内の観光名所を巡ったり、JRに乗ってトレインワーケーションを体験したりした。

4 おわりに

 実践塾の締めくくりとして「自分の持つテーマ、課題、想いを形にする」をテーマにワークショップの時間が設けられた。参加者からは、「廃校でワーケーションをやってみたい」、「ひたすら歩くイベントを企画したい」、「自治体の正しい名前を覚えてもらいたい」等のアイディアや想いが発表され、それらを形にするには何をすべきかをインプット・リソース(=投入する資源)、アクティビティ・アウトプット(=活動と結果)、アウトカム(=成果)、インパクト(=成果がもたらす社会的な変化や効果)の4つの指標に分けてグループで討論した。グループのメンバーが対等な関係を意識し、発表された内容を自分のこととして捉えることで、心を通わせた討論がなされていた。
  今回の実践塾では、それぞれの課題や想いをもった参加者たちが、同じ目線でワーケーションを体験し、共創について考えることができた。今後は、参加者がそれぞれの地域における魅力や課題と向き合い、様々な団体等と連携した新たな価値の創造が始まることを期待している。

受講者の声

・ワーケーションで初めて会う人たち、初めての環境だと、日頃の人間関係や立場を気にせずに、自分の素直な考えを口に出せたことが新鮮に感じた。
・ワーケーションを通して自分の地域の魅力や課題に気付くことができるなら、実践してみる価値が
 あると思う。
・「温泉MaaS」のようなシステムは自分の自治体でも導入できるかもしれない。

連絡先

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