【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in東京都檜原村

地方創生実践塾 終了レポート

2024年04月16日

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1 開催地概要

 東京都檜原村は、人口2,038人(令和5年1月1日)面積105.41平方キロメートルで、西側は神奈川県と山梨県に接している。急峻な山々に囲まれ、総面積の93%が林野のため平坦地が少ないほか、村内のほとんどが秩父多摩甲斐国立公園に含まれている。また、村内の中央を標高900m~1,000mの尾根が東西に走り、両側には南秋川と北秋川が流れ、その川沿いに点在する集落が緑豊かな風景を作り出している。

2 開催地の取組

 檜原村は「東京都の森」として他の地域にはないブランド力を有している。森林率が世界第2位の「森林大国日本」の象徴が都内にあることの価値を見出し、地域資源を最大限に生かすため、檜原村では、木材利用や木育産業を推進している。基本構想である「檜原村トイ・ビレッジ構想」を基に、木工房による木のおもちゃの製作や「檜原森のおもちゃ美術館」を中心とした多世代交流型木育推進事業及び人材育成に取り組んでいる。

3 実践塾内容

 今回の地方創生実践塾は、地域の木材をおもちゃへ加工し販売する一連のプロセスから地域資源の活用及び産業の活性化を図る取組を学ぶため、全国の地方公共団体や民間企業等に勤務する17人が参加した。
なお、檜原村での地方創生実践塾は初開催となる。

(1)講義「全国に広がる木育推進活動」 講師:特定非営利活動法人 芸術と遊び創造協会 理事長/東京おもちゃ美術館 館長 多田 千尋 氏

 多田氏からは、木育やウッドスタート、多田氏が理事長を務めるNPO法人の活動内容の取組についてご講義いただいた。
「木育」とは、子育て・子育ち環境において木を中心に据え、子どもを含む木育に関わる全ての人々が木のぬくもりを感じながら楽しく豊かな生活を送るための取組である。「誕生祝い品」「木育キャラバン」「木育円卓会議」「木育インストラクターの養成」「姉妹おもちゃ美術館」「木育サミットの開催」といった、森を作る人、国産材のファンに向けた6つの事業がある。特に誕生祝い品の製作は「ウッドスタート」において特に力を入れている事業である。
「ウッドスタート」は生まれてきた赤ちゃんに、地域材で製作した木のおもちゃをプレゼントする取組である。届けられるおもちゃは、地域材の活用のほか、「生まれた場所の文化や伝統を少しでも知って欲しい」「生まれた場所を少しでも好きになって欲しい」という願いも込められている。この取組の達成には、林業、製材業者、製作者、地方公共団体の方々など、地域住民が参画して創り上げることが必要になるため、地域経済の活性化や子育て環境の改善にも効果があるという。
NPO法人芸術と遊び創造協会では「木のファン」を増やし、木育を推進するため、以下の5つの柱を設定している。
① 環境を守る木育:木材の収穫が森林や環境に配慮され、木材の活用が環境保護につながることを理解する。
② 木の文化を伝える「木育」:日本の木の伝統的な加工技術や文化を通じて、子どもたちに木とのかかわりを学び、木の文化を継承するプログラムを展開する。
③ 暮らしに木を取り入れる「木育」:木の製品が減少している現状に対し、五感で木の心地よさを感じ、また暮らしに国産材を取り入れることで、日本の森林資源を活かす。
④ 経済を活性させる「木育」:山村・里山を中心とした地域経済の活性化のため、国産材の活用を促進させる。
⑤ 子どもの心を豊かにする「木育」:木のおもちゃを通じて子どもたちの五感と感性を刺激し、発達を促進。また、木が持つ癒し効果により、子どもの心を豊かにする。
木育はおもちゃの贈呈から木棺選びまで生涯にわたって関わることができる。また、木育の推進は、歴史的な木造建築の保護、木の文化の継承だけではなくビジネスとしても成り立つとされる。将来的には、日本が世界第2位の森林大国として、木の文化やライフスタイルを築きたいと述べられた。

(2)講義 「東京の森林・林業の背景および現状と取組」講師:東京都産業労働局農林水産部森林課長 鐙 美知子 氏

 鐙氏からは、都の森林活用に関する現状や課題、解決に向けた取組についてご講義いただいた。
東京都の約4割の面積が森林であり、多くは多摩地域に分布する。都の森林の特徴として、7割弱を民有林が占め、そのうち人工林が6割となっているほか、5ha未満の面積の所有者数は9,000を超え、特定が困難なこと、木材価格の低下や人件費の高騰が都内の木材が流通しない理由の一因となっている。
都では森林循環を推進するため、伐採事業者への補助金の支給や林業従事者への技術セミナーの実施など、様々な支援策を実施している。例えば、都内で製材された木材の多くは都の補助により伐採、加工されており、このことで森林の循環や林業の振興だけではなく、少花粉スギ等への植替えによる花粉症対策としての効果がある。また林業の労働者不足に加え、伐採の難しい傾斜地の木材利用のために、林道の整備や架線系集材といった森業機械の開発・導入支援といったハード面にも力を入れる。このほかにも若木を食害するといった獣害への対応も行っている。
木材の販売・利用促進については、WOODコレクション(モクコレ)の開催により都内産木材をPRする事業や、公共施設の木質化、国産材の利用促進のためのポイント制度の設立、ブロック塀を柵に変えるといった新たな用途の拡大など、都だけではなく賛同する企業と共に木材の有効活用を進めていると述べられた。

(3) フィールドワーク「おもちゃ工房」 講師:株式会社東京チェンソーズ販売事業部 飯塚 潤子 氏

 飯塚氏は、企業の取組や今後の展望について述べられた。
 チェンソーズは2006年に創業し、山仕事をものづくりに結びつけることにより木材の価値を向上させ、林業と地域の結びつきを強めるために活動している。また、ドイツザイフェン村のように木のおもちゃと地域が結びついた地域を目指して、工房とおもちゃ美術館という産業と観光の活性化のほか、丸ごと1本の木を活用したものづくりを通して木材利用の文化を広める事業を展開している。
 チェンソーズは、現在檜原村の推進する木のおもちゃ製作と、おもちゃ美術館を核とした多世代が交流できる木育プロジェクト「トイ・ビレッジ構想」を提案した企業である。2018年から推進する本構想は、次の段階としてデザイナーや作り手の養成に重点を置くこととしている。大学との連携を通じて、地域の森林に思いを馳せるデザイナーの育成や子どもたちを主役とした木育の取組を拡大させ、森と地域の関係を深化させ、地域材の魅力を発信したいと述べられた。

(4) フィールドワーク「檜原森のおもちゃ美術館」 講師:檜原森のおもちゃ美術館 館長 大谷 貴志 氏

 おもちゃ美術館移動後は大谷氏から、美術館の歴史や機能について説明を受けた。
 檜原森のおもちゃ美術館は、2021年に旧北檜原小学校の跡地に設立された施設である。
かつて地域の子どもたちが学び遊んだ大切な場所に建築された木造2階建ての体験型美術館は、100%村内の木材が用いられている。館内は山・森・川・里といった檜原村の風景を想起させるほか、斬新な発想のおもちゃや、昔懐かしいおもちゃで溢れており、老若男女問わず夢中になれる空間を創出している。
 従事する正規職員は10名ほどで、そのほかおもちゃ美術館を支えるボランティア人材「おもちゃ学芸員」が運営に携わる。幅広い世代の交流拠点として、また地域住民の活躍の場となっている。
おもちゃ美術館が人と森をつなぐことで地域住民に森に関心を持ってもらい、ひいては檜原村の木材産業のさらなる活性化にもつなげたいと述べられた。

(5) 講義「トイ・ビレッジ構想と木材利用の推進」 講師:檜原村産業環境課 主幹兼農林産業係長 藤原 啓一 氏

 藤原氏には、檜原村における木育の推進に関してご講義いただいた。檜原村は、2014年にウッドスタート事業を開始し、2015年から移動型のおもちゃ美術館である「木育キャラバン」を5年間実施した。2018年にトイ・ビレッジ構想を策定し、その基本構想に基づき、おもちゃ工房や檜原森のおもちゃ美術館設立の計画が進められた。檜原森のおもちゃ美術館は、2021年11月にオープンしてから翌年3月末までで14,520人が来館し、2022年度は40,188人が来館した。当おもちゃ美術館の立地としては、元々観光客が訪れる地域ではなかったとのことだが、設立してからは月平均3,000人を超える来館者が訪れることとなった。また、檜原村では林業に関する補助や地場産材を使用した住宅の新築・改築費用補助など、地場産材の利用促進に関する取組を行っている。

(6) 講義「オークヴィレッジが実践する森林資源と地域をつなぐ産業化への取組み」 講師:オークヴィレッジ株式会社 取締役 家具クラフト事業部長 佐々木 一弘 氏

 佐々木氏には、企業の事業を紹介いただきながら、森林資源と地域のつなげ方についてご講義いただいた。オークヴィレッジ株式会社では、「国産材を適材適所に」「100年かかって育った木は100年使えるものに」という理念のもと、木工品から木造建築まで製作している。檜原村では、おもちゃ工房やおもちゃ美術館の設計を行った。「リソースの把握と分析」「商品の検討」「産業化のための試算」を繰り返し、地域の強みに沿った商品製作が重要とのことである。
また、事例として群馬県みなかみ町との連携事業が挙げられた。小規模林業と経済活動を結びつけるため、自伐型林業で切り出した木材を使用し、オークヴィレッジが製品づくりや販売を行うというものである。森林資源と市場をつなげる林業の6次産業モデルの確立を目指している。

4 おわりに

 今回の地方創生実践塾in 檜原村では、木育や檜原村が推進するトイ・ビレッジ構想の取組について幅広く学ぶことができた。
実践塾を通して、地域に眠る森林資源に目を向けるきっかけとなり、地域材を有効活用することによる地域産業の活性化や木育の推進により地域の魅力につながるといった効果を知ることができ、受講者にとって有意義な研修となった。

受講者の声

・美術館内の木の香りに癒された。
・「東京都」だからこそ可能な取組も多かった。
・徹底した地場産材の利用が商品のブランド化につながるのだと学んだ。

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp