【終了レポート】令和5年度地方創生実践塾in宮崎県新富町

地方創生実践塾 終了レポート

2024年04月16日

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1 開催地概要

 新富町は宮崎県のほぼ中央の沿岸地帯に位置しており、人口16,117人(令和5年10月1日現在)、面積61.53km²の自治体である。海、川、台地に囲まれた自然豊かな町で、岸部にはアカウミガメの上陸する美しい砂浜があり、東南部の一ツ瀬川流域には水田地帯、北西部の台地には畑地帯が広がっており、畜産も盛んである。男子プロサッカーチームのテゲバジャーロ宮崎、女子サッカーチームのヴィアマテラス宮崎のホームスタジアムがあり、サッカーの盛んな町でもある。

2 開催地の取組

 新富町は概要でも述べたように豊かな自然を生かした農業が盛んであり、令和3年の都道府県別農業産出額で4位となった宮崎県の農業を支える県下に誇る農業の町である。しかし近年の農業情勢は、後継者不足による農業従事者の高齢化、輸入農産物の増加による価格の低迷と生産経費の増大等による所得の低下、消費者のニーズの多様化等の精算から流通販売に係る多くの課題に直面している。これらの課題に対し、農業を軸とした地域活力を醸成し、地域農産業を発展させるため、一般社団法人ニューアグリベース(農業公社)を設立した。
 ニューアグリベースを中心に、「スマート農業等に関しての情報収集」「人材育成基盤の確立(一般化)」「農業基盤サポート」「出口戦略」の対策を講じている。

3 実践塾内容

 令和5年12月8日から9日の2日間、宮崎県新富町で『農業を基盤としたまちづくり~世界一チャレンジしやすいまちを目指して~』をテーマとして地方創生実践塾を開催した。新富町での地方創生実践塾は初開催となった。
 主任講師は一般財団法人こゆ地域づくり推進機構にて新規事業立ち上げや事業推進、人材採用を担当している日髙桃子氏が務め、全国から16人の受講者が参加した。

(1)講義「こゆ財団について」 主任講師:一般財団法人こゆ地域づくり推進機構経営企画室ディレクター 日髙 桃子 氏

 主任講師の日高氏から、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構、通称こゆ財団について紹介いただいた。こゆ財団は、「自立して稼ぐ、スピード感あるまちづくり」を目的に、町が旧観光協会を法人化して設立した地域商社である。こゆ財団がブランディングに携わった「1粒1,000円の生ライチ」は多くのメディアで取り上げられ、町の特産品の一つとなった。
「世界一チャレンジしやすいまち」の実現には、新たな事業と担い手の創出が不可欠である。こゆ財団ではふるさと納税を主とした商品開発、ブランディング、販路開拓を通じて稼ぎ、そこで得られた利益を人材育成に再投資している。

(2)ランチセッション 講師:合同会社オーガニックファームZERO代表 宮本 恒一郎 氏

 昼食は合同会社オーガニックファームZEROが運営する「有機米農家おにぎり宮本」のおにぎり弁当をいただきながらのランチセッションを行った。オーガニックファームZEROでは有機JASとASIAGAPを認証したほ場で有機米を作り、台湾へ輸出を行うなど積極的に販路を広げている。  昼食でいただいた有機米を使ったおにぎりは、町と商工会議所が「チャレンジする人を応援する」ために作ったチャレンジショップから販売が始まった。2年間のチャレンジショップでの手ごたえを基に令和5年に新店舗で営業を開始している。

(3) フィールドワーク「本部農場」

 本部農場では牛にやさしいストレスフリーな環境を目指しており、牛を固定しないフリーストール、フリーバーン方式を採用している。平成31年に新設した牛舎ではICTを活用した健康管理、牛自らが搾乳機に向かい搾乳するロボットを導入し、効率的な畜産を行っている。また、頭数を増やしたことによるふん尿や搾乳ロボットの排水処理コストを低減させるために、バイオガスプラントも導入した。バイオガスプラントによりふん尿処理の労働負担が低減し、バイオガス発電による電力の生産や廃熱を利用することにより、コストの低減につながった。また適切なふん尿処理は水質汚染や臭気の対策にもなり、周辺地域の衛生環境向上にも寄与している。

(4) フィールドワーク「農業公社ニューアグリベース」

 町では複数の民間企業と協同して持続可能な地域農業の振興と発展を目指すための農業研究を行っている。企業は企業版ふるさと納税を行い、町はその資金で実証試験用のハウスを建築し、施設の運営管理、企業と地域農家との連携調整を行うことで、企業と町双方にメリットのある体制で研究を進めている。ペプチドを利用した農産物の生育促進や、窒素質肥料を有機物から得るプロバイオポニックス技術により化学肥料の低減化を図ることで、持続可能な地域農業の実現を目指している。

(5) フィールドワーク「AGRIST株式会社」

 AGRIST株式会社では「100年先も続く持続可能な農業を実現する」をビジョンとし、テクノロジーを活用して農業課題を解決することを目指している。開発したものは野菜の自動収穫ロボットで、日中の酷暑の時間や夜間の人が働かない時間にロボットを動かすことで、人手不足の解消と新しい働き方の実現を目指している。

(6) 講義「新富町について」 講師:新富町長 小嶋 崇嗣 氏

 小嶋氏は2003年に新富町議員に初当選して以降町政に関わり、2018年に新富町長に就任した。人口減少といった課題に対して、課題を問い続けることによって本質が見え、町にとっての具体的な課題、具体的な政策が打ち出すことができる。例えば町の農業について考えた場合、農家人口は平成12年の5,631人いたが、平成27年には2,404人と大きく数を減らしている。しかしながら経営耕地面積は平成12年には192,649aで、平成27年には184,055aと農家人口ほど減っておらず、農業生産額も大きくは減っていない。これは個人の農家は減ったが農業法人が増えたことによる影響である。このように内容を問い続けていくことで本質的な課題を見つけていくことができる。

(7) 講義「講義「新富町の農業について」
講師:新富町産業振興課 課長補佐 高山 研二 氏
講師:農業公社ニューアグリベース 執行理事 児玉 洋平 氏

 新富町は開催地の取組でも触れたように、「野菜と畜産の町」として県下に誇る農業の町だが、後継者不足による農業従事者の高齢化といった課題に直面している。ニューアグリベースでは地域基幹産業である農業の永続的な発展を目指すため、農業研究への参入と町内体制の構築、産学連携や地域資源素材の洗い出しによる新商品開発を行っている。

(6) グループワーク 講師:主任講師:日髙 桃子 氏

 今回の実践塾で学んだことをグループに分かれて共有し、各自がこれから取り組みたい内容について発表を行った。町長を中心にチャレンジしやすい環境を町が作ることによって、農業を含めて先進的な取組を行っていることを学びとする参加者が多く、各グループ特色のある発表が行われた。

4 おわりに

 新富町では世界一チャレンジしやすいまちを目指すという目標を掲げ、町を中心にこゆ財団やアグリベースが動き、外部人材を積極的に取り入れることで外貨獲得や交流人口につなげていた。その結果農業研究分野で町外の企業が町に参入し、地域おこし協力隊は38人の就任につながった。トップである町長が町の未来をしっかり考え、その未来にたどりつくための手段を考えていることが、町の発展につながっていることを実感した。

受講者の声

・企業版ふるさと納税の使い方に感心した。
・交流会の晩御飯の量が多かった。
・年齢関係なく誰でもチャレンジしやすい制度を整えているので、町民にとっても非常によいと感じた。

連絡先

セミナー統括課
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:seminar@jcrd.jp