平成28年度第9回土日集中セミナー「やねだん東京塾」

新たな知と方法を生む地方創生セミナー 募集終了 終了レポート

2017年01月14日

平成28年度第9回地方成功人材のマッチングによる土日集中セミナー「やねだん東京塾」を1月14日(土曜日)、15日(日曜日)の2日間で開催しました。

鹿児島県鹿屋市にある柳谷集落(通称やねだん)。人口300人程のこの小さな集落に、いま、全国から大きな注目が集まっています。やねだんは、地方のどこにでもある過疎化が深刻な集落の一つでした。しかし、1995年に豊重哲郎さんが自治公民館長に就任したことで、地域の「絆の再生」に成功し自立の道を歩んできています。やねだんが取り組む、住民主体の地域経営を基本とした行政に頼らない地域おこしは高く評価され、各地から多数の視察が訪れています。また、2007年にスタートした「やねだん故郷創世塾」は、参加者一人ひとりが、地域が自立する仕組みを考える、地域のコーディネーター再生人材を養成する場であり、現在までに20回開催され、全国から参加した卒塾生は約800名を数えます。

やねだん東京塾は、3泊4日の「やねだん故郷創世塾」の内容を、土日2日間に凝縮したものです。豊重哲郎さんを中心に、やねだん故郷創世塾の常任講師木村俊昭さんと、卒塾生の皆さんにもお越しいただき、やねだんの取組からこれからの地域づくりを考えることを目的に開催いたしました。

やねだんから学ぶ地域づくりのヒント
豊重とよしげ哲郎てつろうさん【やねだん代表、柳谷自治公民館長、やねだん故郷創世塾塾長】

冒頭、豊重さんから、やねだんの3つのキーワード「住民自治」、「自主財源の確保」、「還元」について、ご説明頂きました。

やねだんでは、地域で出来ることは地域でやる行政に頼らない集落運営を行っています。地域には、反目者と無関心者が混在していますが、反目者とは関心があるからこそ反発をする人たちのことであり、一体的な集落運営には、地域にいる一定数の無関心者に、どれだけ関心を持ってもらえるかが重要です。このため、豊重さんは、日頃から「目配り、気配り、心配り」を心がけ、自身は黒子役に徹しながら、感動と感謝で人の心を揺さぶる仕掛けを行っています。徹底的に地域のみなさんと向き合いながら、一人ひとりの強みに応じて地域活動の表舞台へ引き出す工夫をしてこられました。

そこで大切なのが、"EDUCE"つまり「引き出す」ということです。豊重さんは、住民のみなさんが地域のことに関心を持ってもらうため、子どもから大人まで、全員が集落の運営に役割を持つことを意識しました。事業実施の判断をするときには、住民の意見を聞き、情報をオープンにすることで、常に皆が地域を見守る組織運営になっています。誰のための、どんな事業なのかを明確にすることで、地域に関心がなかった人たちが、自然と集落運営に参加するようになっていたことがポイントでした。

また、EDUCEとは、体験をコーディネイトすることでもあります。地域を社会教育の場と捉え、あえて答えを出さないことで、成功体験から自信を持ってもらうことが狙いです。こういった取組から、無意識のうちに地域に育てられた子どもたちは、大人同様集落の一員となり、誰も補欠がいない地域づくりが生まれます。

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木村式地方創生の方程式
木村きむら俊昭としあきさん【東京農業大学教授、やねだん故郷創世塾常任講師】

木村さんからは、特に行政職員が地域で政策や事業を展開する際に大切な視点についてお話しいただきました。まちづくりの基本は、「五感六育」と「全体最適」です。五感分析により地域の強み、弱みを徹底的に洗い出し、その先に地域ニーズを踏まえた六育プロジェクトを展開します。また、特定の課題や事業を改善する部分最適ではなく、まち全体をよくする全体最適の視点が必要になります。特に地域では、「広聴・傾聴・対話」を繰り返し、情報公開、情報共有、役割分担、出番創出、市民参加の実践を行うことが大切です。行政職員は地域の基幹産業や人の強みに気付き、まちのキーパーソンを繋ぐネットワークづくりが欠かせません。継続的な事業を行うためには、市民が求めていることを分析し、歴史ある地域のストーリーを大切にしながら現状に合わせた事業を展開すること必要だとご説明頂きました。

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十津川村の復興集落づくり
更谷さらたに慈禧よしきさん【やねだん故郷創世塾卒塾生、十津川村長】

奈良県十津川村の更谷村長は、村で発生した大きな水害発生時に、地域住民が行政に対するクレームを言わず、自分たちで道路の復旧作業を行う姿を見て、災害対策の基軸は「村民の命」であると確信しました。村の存在意義を改めて考え、高齢者と若者が安心して暮らせるまちづくりが必要だと認識したことから、安全な村の確保を目指し福祉の拠点づくりなどに努めたそうです。また、これをきっかけに、林業が村の強みであると再認識し、林業の六次産業化へ取り組み始めました。木にこだわった仮設住宅には、十津川村産を中心に奈良県産材を使用し、自主財源の確保のためにも十津川式六次産業として、林業の一次産業から三次産業を村全体で実施しています。更谷村長はこれらを水害が教えてくれた村の宝と話しており、取り組まれた共助のまちづくりはやねだん卒塾生である村長ならではないかと感じました。

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やねだん卒塾生の想い
相澤あいざわ智生ともきさん【やねだん故郷創世塾卒塾生、岩見沢市役所職員】
豊山とよやま希巳江きみえさん【やねだん故郷創世塾卒塾生、山武市さんぶの森図書館司書】

続いて、岩見沢市役所の相澤智生さん、さんぶの森図書館の豊山希巳江さんから卒塾後の活動についてお話し頂きました。

相澤さんは、やねだんで学んだことが現在の行動基盤となり、市役所内外の若手の人材育成とともに、地域の対話と創造の場づくりに取り組んでいます。評論家ではなく活動家になること、近道しないこと、そして、豊重さんがお話しされたEDUCEの考え方等を意識して、業務や現場づくり、仲間づくりに励んでいます。

また、豊山さんは、千葉県山武市の図書館司書として、どのように地域と繋がり、自分を育ててくれた地域に恩返しできるかを考えています。新しい図書館の利用方法として、市役所や金融機関と協力し図書館をエコノミックガーデンの拠点にするなど、これまでになかった地域活動に取り組んでおり、市民のやりたいこと、知りたいことに「伴走する」人でありたいという言葉は非常に印象的でした。

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人口減少時代に立ち向かう地域創生~やねだんの実例から~
椎川しいかわ しのぶ【地域活性化センター理事長、やねだん故郷創世塾常任講師】

地域活性化センター理事長の椎川からは、やねだんの取組には、全ての社会問題、地域課題を解決するノウハウがあることに注目し、やねだんの共生、助け合いの思想と、あるものを活かした地域づくりは、「緑の分権改革」の基本的な考え方等を踏まえているなど、やねだんと法的な仕組みづくりの共通点などをお伝えしました。

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ワークショップ~EDUCEの視点から考える地域課題~

豊重さんからお話しいただいたEDUCEの考え方をもとに、地域にある課題との向き合い方をグループで考え発表しました。

各グループからは、成功体験をつくるため、子どもに自分のまちを紹介してもらう「子どもガイド」という提案や、情報もEDUCEしていく意識が大切であり、情報が集まる行政では、顔の見える関係性をいかにしてつくっていくかが肝心との発表がありました。地域の力を引き出すための新しい視点や、立場を変えた地域づくりを考えることが出来たのではないかと思います。

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終わりに

最後は、やねだんの伝統である決意表明を行い、豊重さんから一人ひとりにエールが送られました。参加者からは「自分が何か動き出さなければという気持ちになった」とのお話もあり、前向きに地域に向き合う気持ちが伝わってきました。このセミナーを機に、10年後の地域を意識した新たな動きが起こることを期待したいと思います。

地域活性化センターではこの「やねだん東京塾」を3年続けて開催していますが、皆様から大変好評をいただいております。2016年12月に開講した「地方創生カレッジ」では、豊重さんの講義カリキュラムも受けられるようになる予定ですので、ぜひともご活用ください!

※ 地方創生カレッジはこちらから ⇒ http://chihousousei-college.jp

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プログラム詳細

1月14日(土)

12:30~13:00 受付
13:00~13:10 10分 開講式
13:10~14:10 60分 講義① 豊重 哲郎氏
14:10~14:20 10分 休憩
14:20~15:20 60分 講義② 木村 俊昭氏
15:20~15:30 10分 休憩
15:30~16:00 30分 講義③ 更谷 慈禧氏
16:00~16:40 40分 活動報告① 相澤 智生氏
活動報告② 豊山 希巳江氏
講評 豊重 哲郎氏
16:40~17:00 20分 登壇者への質問
豊重 哲郎氏
木村 俊昭氏
更谷 慈禧氏
相澤 智生氏
豊山 希巳江氏
17:00~17:10 10分 休憩
17:10~18:10 60分 講義④ 椎川 忍
18:10~18:40 30分 一日目のまとめ 豊重 哲郎氏
19:00~20:30 90分 交流会

1月15日(日)

9:00~10:00 60分 講義⑤ 豊重 哲郎氏
10:00~10:10 10分 休憩
10:10~11:10 60分 グループディスカッション(講評 豊重 哲郎氏)
11:10~11:20 10分 休憩
11:20~12:50 90分 塾生の決意表明・総評 豊重 哲郎氏
12:50~13:00 10分 閉講式

連絡先

クリエイティブ事業室
TEL:03-5202-6134  FAX:03-5202-0755  E-mail:creative@jcrd.jp