【終了レポート】平成30年度第9回土日集中セミナー

新たな知と方法を生む地方創生セミナー 終了レポート

2018年12月21日

平成30年度 第9回土日集中セミナー 「空き家・空き店舗の活用から芽吹くコミュニティの未来~新しいエリアデザインのカタチ~」

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 平成30年度第9回新たな知と方法を生む土日集中セミナー「空き家・空き店舗の活用から芽吹くコミュニティの未来~新しいエリアデザインのカタチ~」を11月24日(土)~25日(日)に開催しました。今回は、全国各地から自治体職員など46名のご参加をいただきました。

【1日目】                                        講義Ⅰ:「尾道空き家再生プロジェクト」                          講師:豊田 雅子 氏(NPO法人尾道空き家再生プロジェクト代表理事)

空き家はいろいろな可能性を秘めている!

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田氏は、尾道市で出会った一軒の空き家「ガウディハウス」をきっかけに「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」を設立されました。ガウディハウスを皮切りに、現在までに120軒以上もの空き家のリノベーションやマッチングに携わっています。今回は空き家バンクや移住定住支援など尾道空き家再生プロジェクトの活動内容や取組事例についてお話しいただきました。

 大手旅行会社のツアーコンダクターとして勤務していた経験から、世界には景観を大切にしている国は多いが、日本は全国どこでも同じ風景で土地の良さを活かし切れておらず、家を使い捨てにしているのは日本だけであると指摘され、空き家をリノベーションしながら価値をあげて、後世に引き継いでいくことが大切であると述べられました。

 また、リノベーションした空き家で、「尾道空き家談義」や「空き家再生蚤の市」など様々なイベントを開催し、空き家を活用して集いの場の創出が行われています。地元の人たちは長年同じところに住んでいると見えないものが多いため、外からの視点で気付きの場を作ることも大切であるとし、移住者や尾道を研究している学生にフィードバックしてもらう機会を作っています。

 尾道市では空き家を再生することにより、観光客数も回復傾向にあり、地域の方の生活も豊かになっているため、豊田氏自身の経験値を通して空き家の可能性を感じていると述べられました。

 まだまだ数多く残る空き家でたくさんの人が尾道のまちづくりを進め、いろいろな視点で空き家を見ることで、自分の得意な分野で空き家の再生に携わってほしいとお話しいただきました。

講義Ⅱ:「自分が この地で 生きていく ために」                     講師:塩田 大成 氏(株式会社ビルススタジオ代表取締役)

個性的な界隈が集まり、おもしろいまちになる!

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田氏の活動拠点である栃木県宇都宮市のもみじ通りのシャッター街のエリアマネジメントや大谷地域の再生など活動事例を含めながら、塩田氏自身がこの地で生きていくために行っていることについてお話しいただきました。

 個人の空間をどう充実させるのかが塩田氏の一番のミッションだと説明され、そのために近隣の価値デザインや界隈の価値デザイン、地域の価値デザインを行っています。

○近隣の価値デザイン

 自分の住んでいる場所から一番近いコインランドリーを利用するという特性を活かして、コミュニティをはぐくむ複合施設「ランドリーコーヒー」の運営に携わっています。現代社会では隣近所に住んでいても顔を知らない、見たことがないという人が多い中、コインランドリーで出会う人は明らかにご近所さんで、ご近所コミュニティはその"知っている"程度の緩やかなコミュニティが一番心地よく、生活の安心感が増すのだとお話しされました。

○界隈の価値デザイン

 信頼できるおもしろい人に会えて、安心する生活がしたいとの想いから始めたもみじ通りのエリアマネジメントについて説明され、感覚に共感できる生活者が増えることを重視しているとお話しいただきました。また、場所があることで起こる「想像外のできごと」を期待しているとのことです。

○地域の価値デザイン

 もみじ通りに併せて、生活が充実している状況の中、遊べる場所や満足できる場所がほしいとの動機から、大谷地域の再生を行っています。まずは小さくてもいいから事業を起こすため、「できるひと」と「できること」から、やってみて、それをしっかりと伝え、広めていくことが大切だと述べられました。

 塩田氏は「まちをつくる」ことがミッションではなく、「ひとつの場所・事業を成立させる」ことが、界隈に派生され、その個性ある界隈が近くに集まり、最終的におもしろい「まち」になっていくのだと述べられました。

講義Ⅲ:「『つるおかランド・バンク』によるエリアマネジメント」              講師:早坂 進 氏(鶴岡市櫛引庁舎産業建設課長)

行政職員が頑張っている人を見つけてまちにつなぐ!

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坂氏は老朽空き家を解体することは周辺住民の居住環境を考えるといいことであるが、ただそれだけでは地域の活性化にはつながらず、老朽空き家の活用や老朽空き家解体後の更地活用を行わないとまちとしては効果がないと述べられました。早坂氏が首都大学東京の饗庭教授と一緒に作ったランドバンク事業による鶴岡市のコンパクトシティに向けたエリアマネジメントについて説明されました。

 ランドバンクとは、小規模連鎖型区画再編事業のことで、空き家と空き地を取得し周辺の土地を含めた地域を一体的に活用・再生する手法です。

 ランドバンク事業では、主役は地元の不動産であり、その活動をサポートする行政は、全てを民間任せにするのではなく、一緒に事業を行っているという視点を持つことが大切であり、また、どんな問題でも何事も当事者として考えてほしいと述べられました。

トークセッション「新しいエリアデザインを語る~これまでとこれから」           講師:豊田 雅子 氏 × 塩田 大成 氏 × 早坂 進 氏

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-クセッションでは、「新しいエリアデザインを語る~これまでとこれから~」と題し、豊田氏、塩田氏、早坂氏をパネリストに迎えて、お互いの活動の共通点や、どんな視点で活動しているのか、それぞれの立場から考える新しいエリアデザインのカタチについてトークセッションしていただきました。

 豊田氏は、空き家を上手く活かしたいと同じ夢を持つ人に出会い、同じ思いの人を巻き込んでいき、気付いたら自分がコーディネートをする立場になっていたと言います。公民連携について、行政主導で何かをやってもおもしろいことにはならないので、尾道市では民間から出てきた動きを補助したり、法を整備したり後押しをしていると述べられました。

 塩田氏は、自身の「おもしろい」「楽しい」「ほしい」の感性を大切にされていて、それをまちづくりに反映させています。行政と起業家はそれぞれ何で稼ぐことがお互い一番気持ちよい方法なのかを理解して、助け合うことが大切であると説明されました。

 市の職員であり、NPOの理事もされている早坂氏のお話ではまちづくりには一歩引いて冷静に活動を見守る人も必要だと学びました。

 まちづくりは従来の都市計画とは異なり、個を大切にすることで、点が線になり、面になっていき、あるものを活かして編集していくことが重要です。またそのためには、いきなり大きく始めるのではなく、小さく手の届く範囲でやっていくことが大切とお話しされました。

 まちづくりには一人のカリスマの存在よりも町民一人ひとりが当事者として、自分事として感じて、関わることが大切であるとまとめていただきました。

【2日目】                                        講義Ⅳ:「ハード・ソフトのリノベーションがイノベーションを起こす」            講師:長坂 泰之 氏(独立行政法人中小企業基盤整備機構高度化事業部参事兼経営診断総括室主任研究指導員)

エリア価値の向上を目指す!

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坂氏は、日本は資本主義のもと、商業機能の郊外立地を容認したために中心市街地は衰退し、またネットの普及により、中心市街地の役割は相対的に低下していると指摘されました。そのため、目まぐるしく変化するこれからのまちづくりでは、考えるだけではなく、行動して失敗しながら小さな成功を積み重ねて初めて新たな地域の魅力が根付くと述べられ、様々な地域での取組事例をご紹介いただきました。

 まちの個性は地元の店でしか演出できないとし、イギリスの事例を紹介いただきました。リノベーションはその「個性」のひとつですが、リノベーションをすると人が来るわけではなく、中身を伴う必要があり、その先をどうするのかが重要であると説明されました。

 また、熊本県熊本市上乃裏通の事例では仕掛け人の山野氏のお話を伺いました。わざわざまちづくりを行っているのではなく、個性の磨き合いを行うことでまちがよくなっていると言います。

 尼崎市の事例からは、企画段階から情報発信をすることでまちづくりのムーブメントを多くの人に理解してもらうため、情報発信をすることが重要であり、一つひとつの輝きを集め情報発信を行うことが行政の役割であると述べられました。

 自分たちのまちの可能性をどうとらえるのか、地元の魅力を再認識することで、ブランド意識を高め、まちづくりが成功すると説明されました。そして、それぞれの地域が自らの強みに気付いたうえでエリアの価値をいかにして向上させるかを考え、行動することが最も大切であると述べられました。

グループトーク

IMG_2098.JPGグループに分かれて、グループトークを行いました。各講師の講義の振り返りや学んだことを参加者同士でアウトプットし、その後、豊田氏、塩田氏、早坂氏、長坂氏に各グループにご参加いただき、意見交換を行いました。

 参加者が実際に直面している地域課題を解決するための具体的な取組など、講師から経験を踏まえた的確な意見や助言、考え方がフィードバックされ、様々な価値観や想いを共有する場となりました。

 

セミナーを終えて

 今回のセミナーでは、空き家・空き店舗の活用で地域にもたらすコミュニティの強化や好循環について学びを深めることができたと思います。

 今回の学びを活かし、参加者の皆様の地域で新しいエリアデザインのカタチが生まれ、地域が活性化されることを願っております。

講演者紹介

豊田 雅子 氏(NPO法人尾道空き家再生プロジェクト 代表理事)

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 1974年生まれ、広島県尾道市出身。関西外国語大学米英語学科を卒業後、大手旅行会社のツアーコンダクターとして勤務。その経験を活かして帰郷後は尾道らしいまちづくりを提唱し、2007年に「尾道空き家再生プロジェクト」を発足。2009年より尾道市から空き家バンク事業を委託される。昭和初期の建築物「ガウディハウス」や改修ゲストハウス「あなごのねどこ」等、これまでに120軒の空き家の再生、マッチングに携わっている。

「平成26年度ふるさとづくり大賞団体表彰」受賞。

【ホームページURL】

http://www.onomichisaisei.com/bukken.php(NPO法人尾道空き家再生プロジェクト)

塩田 大成 氏(株式会社ビルススタジオ 代表取締役)

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 1976年生まれ、栃木県宇都宮市出身。東京都立大学建築学科卒業。建築設計事務所勤務後、ロンドンのCentral Saint Martins College of Art and Designにて MAF取得。帰国後は栃木県宇都宮市もみじ通りで、不動産・建築設計・地域プロデュース・グラフィックデザイン等、「空間/場所づくり」を行う。シャッター街だったもみじ通りで は、出店・新規開業の相談から大家との物件交渉までを行い、個性的な界隈を創出する。栃木県初のシェアハウス「KAMAGAWA LIVING」、観光商品をトリガーとした地域価値創造プロジェクト「OHYA UNDERGROUND」等をプロデュース。

【ホームページURL】

http://www.met.cm/company/(MET不動産部/株式会社ビルススタジオ)

長坂 泰之 氏 (独立行政法人 中小企業基盤整備機構 高度化事業部 参事 兼 経営診断統括室 主任研究指導員)

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1963年生まれ、1985年中小企業事業団(現独立行政法人中小企業基盤整備機構)入団。全国各地の中心市街地、商店街、ショッピングセンター、個店の診断を多数実施。また、英国でのタウンマネジメントに関する調査のほか、各地(国内、韓国)で中心市街地活性化などに関する講演多数。中小企業診断士(経済産業大臣登録)、地域活性化伝道師(内閣府)、タウンプロデューサー(経済産業省)。

著書『中心市街地活性化のツボ』(学芸出版)

【ホームページURL】◆http://www.gakugei-pub.jp/chosya/021nagasaka/(学芸出版社)

早坂 進 氏(鶴岡市櫛引庁舎産業建設課 課長 / NPO法人つるおかランバンク 理事)

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1961年、鶴岡市生まれ。1985年鶴岡市役所入所。商工観光課、社会教育課、課税課勤務、建設部都市整備課、都市計画課、建築課等を経験後、2015年都市計画課長、2018年から櫛引庁舎産業建設課長を務める。2013年からはNPO法人つるおかランド・バンク理事を兼任。

【ホームページURL】

◆http://www.city.tsuruoka.lg.jp/(鶴岡市)

◆http://t-landbank.org/(NPO法人つるおかランドバンク)

スケジュール

1日目(11月24日)

13:00~13:30 受付
13:30~13:40 開講式
13:40~14:40 講義Ⅰ「尾道空き家再生プロジェクト」 講師:豊田 雅子 氏
14:50~15:50 講義Ⅱ「自分が この地で 生きていく ために」 講師:塩田 大成 氏
16:00~17:00 講義Ⅲ「『つるおかランド・バンク』によるエリアマネジメント」 講師:早坂 進 氏
17:10~17:50

トークセッション「新しいエリアデザインを語る~これまでとこれから~」

講師:豊田 雅子 氏 × 塩田 大成 氏 × 早坂 進 氏

18:30~20:00 交流会

2日目(11月25日)

9:00~9:05 1日目の振返り
9:05~10:05 講義Ⅳ「ハード・ソフトのリノベーションがイノベーションを起こす」 講師:長坂 泰之 氏
10:15~11:45 グループトーク
11:45~12:00 閉講式