【終了レポート】令和4年度 地方創生実践塾in岐阜県飛騨市

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2022年12月06日

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地域資源の価値創造とその仕組みづくり~「飛騨市・広葉樹のまちづくり」における公民連携を例に~

令和4年9月9日(金)~10日(土)の2日間、岐阜県飛騨市で、「地域資源の価値創造とその仕組みづくり~「飛騨市・広葉樹のまちづくり」における公民連携を例に~」をテーマとして、令和4年度地方創生実践塾を開催しました。全国各地の行政職員や大学生など10名に参加いただきました。

1日目:9月9日(金)

開講式

 開講式では都竹市長より、飛騨市では広葉樹の有効活用については8年間取り組んでいることと、材としての価値が低い広葉樹を価値あるものに変える取組は、官民が連携して試行錯誤しながら進めてきたとのお話がありました。今回の実践塾では、受講者の皆さんに、地元にある素材をどうやって活かすかという考え方を学び、思考の枠組みを感じて持ち帰ってほしいと述べられていました。

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講義①「広葉樹の価値を高める仕組みについて」

主任講師:飛騨市林業振興課長 竹田 慎二 氏

 竹田氏は今後人口が減っていくという前提のもとで課題の洗い出しを行い、その中でこの地域には「動ける人の活動の場がない」、「活動主体がいない」、「活動する人を応援する仕組みがない」という課題がわかり、その解決策として地域商社と連携して進める広葉樹の活用が挙がったと説明がありました。木材の活用には国の森林・林業基本計画がありますが、この計画は戦後沢山植えられた針葉樹林を活用するための施策だったため、広葉樹を活かした取組には言及されていませんでした。そのため飛騨市内でも広葉樹の9割が売値の安いチップやパルプの材料になっていました。また、飛騨市は高級家具の産地ですが、使用する材はほとんど輸入に頼っており、これは飛騨市に限らず全国的にも同じ傾向にあります。活用が進まない理由として、広葉樹は天然林が多く樹種がバラバラで形も歪なため、加工に手間がかかるという課題があり、コストをかけるよりチップにしてしまうのが簡単だというところに落ち着いていることにあります。

 この価値観の見直しとして、安く外に売られてしまうチップから、価値が残る家具などの材料として利用できるようにすることや、使いにくい材をどう使い、広葉樹の価値をどう上げるかという取組が行われました。また、その活動主体として新たに「株式会社飛騨の森でクマは踊る(飛騨クマ)」が設立されました。飛騨クマの活動により、広葉樹への理解が市民に広がりました。また、成果をどんどん発信することで市民からの信用を得ているほか、木を切る人、使う人が集まるコンソーシアムを設立、材について勉強したいという人向けにセミナーを実施しました。セミナー参加者からは「こんな木に需要があると思わなかった。」「こんな材があるとは思わなかった。」など、今までの価値観との違いを認識できるようになったとの意見が寄せられました。今後の取組として、「木材を今使いたい。」という需要にこたえることを目標に、木材の乾燥時間の短縮化について研究が行われています。最後に、講師からは「広葉樹は可能性の塊、そして地域の特徴を反映している、しかし、大規模生産には向かないので同じように取り組む自治体との連携が今後必要になる」との発言があり、今後の取組の方向性について言及がありました。

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講義②「広葉樹の新しい価値の創造」 

講師:株式会社飛騨の森でクマは踊る 取締役 井上 彩 氏

 同社では、テクノロジーと職人の技を組み合わせた事業を展開し、デジタルモノづくりができるカフェFabcafeを運営しています。そのほかにも会社の設計やデザインをする「森の端(は)オフィス」や熊の生態の研究や実験の場として活用できる「飛騨クマの森」などを拠点に、森を通して人をつなぐ取組を実施しています。

・森を活かしてカタチにする部門 

 小径木の活用の取組としては以下のものが実施されています。オフィス内に使用される木材のコーディネイションを担当し、オフィス改革を進める「鈴与本社リニューアルプロジェクト」、また、ソニーコンピュータサイエンス研究所との連携では、創造性を刺激する作品として、チップ化予定だった木材を原木のまま加工し、木の持つ存在感を活かしたいすや机を制作しています。また、木の形状を3Dデータ化して世界中の人が閲覧できるようにし、世界の人が木材の使い方を検索できる仕組み作りに取組んでいます。

・森で穫れた恵みを提供する部門

 Fabcafeや飛騨クマの森をフィールドに、市民や国内外の教育機関向けの体験プログラムを提供しています。例えば「蔵出し広葉樹」では広葉樹の木材を量り売りし、たくさんの樹種や形状の木に触れ、購入できる機会を提供しています。また、森林をはじめ、市内各地のお店や工房に足を運んでもらい、木が様々な場所で利用、循環していることを体験できる企画を実施しています。

・森へ事業部

 木材が手元に来るまでのプロセスを伝えることを大切にし、Webミーティングを通して現地の木を見てもらうほか、東京で木のはかり売りを開催し、木材に対する関心を広げる活動を行っています。

 飛騨クマではプロジェクトを、森から始めることを大切にしています。これは、イベント等で参加者に対し、まずは森を歩いてもらい、五感で感じてもらうことや、森の生態系からインスピレーションを得てもらう目的があるほか、自分の選んだ木がどこから来たかを知ってもらうねらいがあります。また、高度な技術を持つ地元の人たちがクリエイティブに活動できる今の飛騨市の環境は、他地域からも注目され、他分野の企業(例:鉄工所)からの視察があったほか、新事業が考えている企業が新たな発想を得る場として選ばれた実績があります。飛騨市には小さな循環があり、それは木材の生産者と加工する職人が見える関係にあることを中心として、多様な人たちが関われる環境により作られていました。その関係者の中では、木のように長い期間をかけて未来を志向していくという考え方が共有されており、そこには大量生産と即効性が求められる都会の考え方との大きな差が認められました。最後に講師からは、この飛騨の考え方は、今後この都会の考え方に少なからず影響を与え、アップデートしていくようになるのでは、とのコメントがありました。

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市内フィールドワーク①「飛騨市森林公園」               

講師:飛騨市森林組合 新田 克之 氏

 周辺には樹齢2年から70年程度の広葉樹林があり、針葉樹林と同様に管理し、質の高い木材になるように育てています。この技術はスイスからフォレスターを招いて技術習得をしたとのことです。こういった取組により、関係者の意識も変化してきて、伐採に関わる方も、用途のなさそうな材を見つけたときにチップやパルプに回す前に何かに使えるのではという考え方に変わり、伐採される小径木のうち1割程度しか用材として販売できなかったものが現在では4割まで販売できるようになったとのことでした。パルプの材料として安く販売する方が簡単とのことですが、手間を惜しまず生産や加工、販売の方法など、各過程で試行錯誤を続けたことや、森林組合と飛騨市、製材所等がそれぞれの役割を理解し、協力しあうことで広葉樹の利用の拡大につながっている、と講師から説明がありました。

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市内フィールドワーク②「西野製材所」              

講師:株式会社西野製材所 代表取締役 西野 真徳 氏

 講師からは、加工する職人、作り手に直接木材を見てもらうことで、原木の新たな利用価値が見出され導入につながった他、原木購入から製材、乾燥までの作業効率化によりコスト削減が実現されるなど、様々な取組が進められているとの説明がありました。今までは森→林業→土場→製材→乾燥→加工→販売→人 というサプライチェーンの中で各職人が自分の関わる範囲でしか見ることができなかったものを、コンソーシアムの立ち上げによって全体が見えるようになり、各過程で無価値として落とされていたものに別の視点を向けることで価値を見出し、利用者に新しい発想を与える機会となっています。

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2日目:9月10日(土)

講義③:「地域資源の流通とマッチング」                                                                     

講師:飛騨市広葉樹活用コンシェルジュ 及川 幹 氏

 飛騨市広葉樹活用コンシェルジュの及川氏より、広葉樹流通の考え方についてご講義をいただきました。及川氏は、家具や器、おもちゃメーカーなど個別の要望に合わせて広葉樹の木材をコーディネートし、多様な需要とマッチングさせることで、これまで大半をチップに加工していた広葉樹に新たな流通を生み出しています。

 また、専門・分業化されている木材の流通は閉塞的になりがちですが、地域に流通拠点を設置することによって木材の中間流通を見える化し、木材の調達から販売に至るまでに関わる人たちの距離を近づけ、森と人をつなぐ取組を行っています。

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グループワーク・発表・講評

2日間の講義やフィールドワーク等を通じて学んだことをグループで共有し、これから自分の仕事や地域にどのように活かせるかについて意見交換をしました。グループ内で出た意見を発表し、竹田氏と及川氏から、各グループの発表に対して総合的に講評をいただきました。

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まとめ

飛騨市では、市内の各分野の事業者が連携してアイデアやネットワークを活用することで、これまで未利用であった広葉樹に新たな価値を創造し、「広葉樹のまちづくり」を進めています。行政がすべてを主体で行うのではなく、「株式会社飛騨の森でクマは踊る」や「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」の設立など、新たなかたちで広葉樹を活用する主体をつくり連携することで、地域内に地域の人が活躍できるプラットホーム(仕組み)が生まれるということを実感しました。当事者の方から直接お話を伺うことができ、非常に学びのある2日間となりました。

スケジュール

<9月9日(金)>

1.開講式

2.講義①「広葉樹の価値を高める仕組みについて」

  主任講師:飛騨市林業振興課長 竹田 慎二 氏

3.講義②「広葉樹の新しい価値の創造」

講師:株式会社飛騨の森でクマは踊る 取締役 井上 彩 氏

4.市内フィールドワーク①「飛騨市森林公園」

  講師:飛騨市森林組合 新田 克之 氏

5.市内フィールドワーク②「西野製材所」

講師:株式会社西野製材所 代表取締役 西野 真徳 氏

<9月10日(土)>

1.講義③:「地域資源の流通とマッチング」

講師:飛騨市広葉樹活用コンシェルジュ 及川 幹 氏

2.グループワーク・発表・講評

3.閉講式