2001年13月号 子どもを支える地域づくり
事例1 山形県鶴岡市「遊び」軸に非認知能力を育む ―官民連携の全天候型児童教育施設―
筆者 KIDS DOME SORAI館長 渡邉 敦 |
冬場の悪天候時も体を動かして遊べる場所を
キッズドームソライは、地方都市の課題を希望に変える街づくり事業を行う株式会社SHONAIが運営する全天候型の児童教育施設です。設立の経緯は、「冬場の天候が悪い日でも子どもたちが思いっきり体を動かして遊べる場所を庄内地域にも設けたい」という地域の子育て世帯の声を受けて、鶴岡市と当社が官民連携プロジェクトとして開設しました。
2015年当時、鶴岡市では市民のニーズに応える屋内型児童遊戯施設の設置に関する議論が行われていましたが、市の財政状況を考慮すると、単独での建設は難しい状況でした。この課題を解決するため、鶴岡サイエンスパークの未利用地を活用する計画が提案され、鶴岡市と当社が共同で児童施設の開発に向けて動き出しました。具体的には、鶴岡市から施設規模を約2000平方㍍とする案が出され、その規模を前提に建設計画やプログラム内容について協議を重ねました。
しかし、最大の課題は建設資金の確保でした。山形県内の児童遊戯施設では一般に行政が建設費を全額負担するケースが多い中、鶴岡市の財政状況では単独での資金調達が困難でした。そこで、当社が事業活動を通じて建設資金の大部分を捻出し、総工費の約80%にあたる10億円を負担。残りの2億円は鶴岡市の補助金として加えることで資金を確保し、施設の建設に至りました。
当施設は、建築家の坂茂氏が設計した木造のドーム状の建物に、高さ6㍍のオリジナル遊具が設置されたアソビバと、約1000種類の素材と200種類の道具がそろえたツクルバ、約800冊の本が楽しめるライブラリがあります。これからの時代を生きる子どもたちに必要なチカラを「遊び」を通して育んでいくことを目的としています。コンセプトとしては、庄内藩校「致(ち)道館(どうかん)」で古くから教えられた学問、徂徠(そらい)学が掲げる「天性重視個性伸長」をコンセプトの核とし、「遊び」を主軸とした多様なアクティビティを通して、子どもたちの考える姿勢や非認知能力を育む環境づくりを目指しています。
「ツクルで世界は変わる」を理念に学童やフリースクールなど3機能
教育理念は、「ツクルで世界は変わる」としています。社会課題が山積し、不透明な未来において、私たちは、ひとりひとりの「ツクル」で世界を変えられると思っています。物質的なモノを造ること、見えないコトを作ること、新しい価値を創ることなど、子ども自身が主体的に取り組むツクルなら何でもよく、自らが行動し生み出すことで世界は変わるという思いを込めています。
この施設とコンセプト、理念から、大きく三つのサービスを展開しています。キッズドームソライの一般来館者、鶴岡市の学童の委託事業としてSORAI放課後児童クラブ(学童)、フリースクールとしてのSORAI SCHOOLです。
キッズドームソライの一般利用のコンテンツとしては、アソビバ、ツクルバ、ライブラリーを活用して、子どもたちが自ら遊びをつくり出し、子どもたちの世界を広げられるような環境を提供しています。「ツクル」という行為は、想像し、創造することで、自分の想像を現実の世界に創造することで、世界を変えていくことができると考えます。物を作ること、空間を作ること、人と人との関係性を作ることなど、さまざまな「ツクル」の体験が、子どもたちの思う世界を作る体験となるようにコンテンツをデザインしています。
SORAI放課後児童クラブは、子どもたちが自分たちの手で学童をつくります。放課後時間は、学校から家庭に帰る前の子どもたち自身の時間です。自らの世界/居場所である学童を、子どもたち自身がその時間の過ごし方を決められるよう、大人は「管理」するのではなく、子どもたちの自治活動の「サポート」をします。子どもたちは自分とみんなが思いのままに過ごせるよう、運営ミーティング、イベントの企画、ルール作り、予算運用のプレゼンテーションなどを行います。「なければ自分でツクル」マインドで、自分たちの住む世界をつくる学童として、大人も子どもも対等な関係で運営しています。
ソライスクールは、庄内藩校「致道館」の徂徠学の精神を受け継ぎ、子ども自身が主体となって学びをつくるフリースクールです。徂徠学では、自身の内面に目を向け天性を知り、社会に目を向け世界を知ることで、自身の生きていく道を見出すことができるとしています。私たちは、子どもたちの「ツクル」が世界を変える、そしてそれこそが天性だと考えています。さまざまな「ツクル」から天性を知り、それと社会を接続させることから学べるような学びのデザインとしています。
企業サポーター支援金や再エネ事業の収益を充当
現時点での最大の課題は、より良い子育て環境、教育環境をあまねく家庭に安価に届けることができるかということです。学童については鶴岡市の委託事業ということで、委託料、補助金を活用することができますが、一般の利用、フリースクールの運営については、市からの助成はありません。そこで、私たちは弊社の取り組みに賛同いただける企業サポーターからの支援金や、ソライソーラーという再生エネルギー事業による収益から、この施設の運営を支えています。一民間企業でやれることは限られています。子ども中心の地域作りは、行政や企業との連携が最も重要だと考えており、今後はより一層連携を強化していきたいと思っています。