2001年13月号 子どもを支える地域づくり
事例10 熊本県菊池市 プラチナ森の学校・きくち ― 中・高校生対象に「グローカル人財」育成 ― 菊池市教育委員会学校教育課学務係長 松野眞理子 |
地域で未来のリーダーを育てる
菊池市は、熊本県北東部に位置し、総面積276・85平方㌔のうち約63%を山林と田畑が占める自然豊かな田園都市で、令和6年3月末現在の人口は4万6646人である。市内の学校は、小学校10校、中学校5校、高校3校で、令和5年5月1日現在の小中学校児童生徒数は3737人である。
「郷土が人を育み 人が郷土を育む 文教のまち菊池」を本市の教育基本理念とし、国際社会で通用する能力やグローバルな視点、経験をもって、地域の課題解決を担い、地域の発展に貢献する「グローカル人財」育成に取り組んでいる。
その取り組みの一つとして、一般社団法人プラチナ構想ネットワークが全国の中学生を対象に「プラチナ社会実現に寄与する未来のリーダー育成」を目的として開講している「プラチナ未来人財育成塾」に平成28年度から毎年5名~8名を派遣してきた。また同年に、このプラチナ未来人財育成塾の理念を本市でも取り入れ、グローバルとローカルの視点で考え、本市の豊かな「自然」を通して多様な物の見方があることを学ぶため、同ネットワークの「プラチナ未来人財育成塾@自治体」として「プラチナ森の学校・きくち」を開校した。
さまざまな分野の講師から最先端の講義を対面で
本市の事業では、全国規模の「プラチナ未来人財育成塾」の塾長であり、東京大学未来ビジョン研究センターの教授である菊池康紀氏の監修を受け、プラチナ構想ネットワーク事務局のご協力により、菊池教授をはじめ、さまざまな分野で活躍されている講師による最先端の講義を対面で受けることができる。
また、地域を見つめる教育として、自然の中でのフィールドワークをプログラムに取り入れることで、参加者は地域のことを知り、学び、身近にある課題から日本・世界規模の課題を考え、自分ごととして課題解決について深く考えるような事業展開を行っている。
さらに、グループには高校生や大学生スタッフが中学生のまとめ役として参加し交流することで、多世代での価値観を共有し、議論を深めている。
令和5年度に実施した際には、中学生40人と高校生19人が参加した。「現在から未来へ向かい、多様な解を考えてみよう」をテーマとし、現在の世界の情勢(グローバル)や将来のこと、地域のこと(ローカル)を学ぶことで、自分自身のことや学校のことなど、より身近な課題をSDGsの視点から見つけ、自分にできることを考える機会とした。
最終日のグループ発表では身近な地域や森林のことを軸に日本や世界の未来がどうなっていてほしいか、それについて、自分自身が具体的にどう関わっていくかについて発表したグループが多くあった。課題解決に向けた考えを一人一人が話し合い議論する姿からは、3日間だけの短い研修期間とは思えない著しい成長が見られた。また、高校生からは、普段聴くことがない著名な講師陣の講義を受け、中学生のまとめ役をした経験から自己の成長や自信につながったという感想が多くあった。
そこで得られる学びは参加者全員の知的好奇心を高め、質の高い成果発表へとつながっている。
これからの課題と展望
実施後のアンケート結果では回答した全員が「参加してよかった」と感じており、77%が「また参加したい」と回答した。残り23%の生徒が「また参加したい」と思えるようなプログラムを来年度に向けてどう展開していくかが課題である。事業終了後から次回に向けての反省点や課題を洗い出し、関係者で協議を行い、より充実したプログラムの内容を検討している。
また、本事業では地域のことを知る機会になったという感想が多く、森の学校きくちの経験を生かしてまちづくりに強い関心をもった生徒たちが、夏休みに毎年開催される菊池市子ども議会でレベルの高い質問を考えている。
さらに、森の学校きくちで学んだ生徒が「プラチナ未来人財育成塾」への東京派遣も希望しており、派遣後は学校や地域で、一人一人が学んだ成果を報告し、未来で活躍できる人財へと成長している様子が伝わってくる。このように、参加生徒にとって「プラチナ森の学校きくち」で学んだ経験は、成長の糧となるだけでなく学習の好循環を生み出している。
これからも私たちは「プラチナ森の学校きくち」事業の人財育成と学習の好循環について、より多くの方に知ってもらい、多くの生徒の主体的な参加促進に取り組む必要がある。
おわりに、本事業はプラチナ構想ネットワークの小宮山宏会長をはじめ、東京大学の菊池教授、今までご協力いただいた全ての講師の先生方、ボランティアスタッフの方など、関係者の皆様方の多大なる御厚意の上成り立っており、あらためて感謝申し上げたい。
「プラチナ森の学校きくち」事業について
菊池康紀(プラチナ未来人財育成塾塾長、東京大学未来ビジョン研究センター教授)
人財育成塾は変化の激しい現代社会を生きる中高生に、答えのない問いに対して自身で考え、協創により学び合える場と機会を提供することを目指している。東京で行う育成塾と各地域で行う育成塾は役割が異なる。より身近な環境における課題を発掘できる地域での育成塾が、自分事として考え続けるきっかけとなり、さらに、同じ地域に軸を持つ仲間とのネットワーク作りとなるよう、今後も取り組んでいきたい。