2001年13月号 子どもを支える地域づくり
事例5 福井県 ライフステージ通じ支援を拡充 ―日本一幸福な子育て県「ふく育県」― 筆者 福井県健康福祉部 こども応援ディレクター 武原 智美 |
充実した子育て環境
本県は、安定した雇用環境や教育環境の高さ等が総合的に評価され、令和4年まで5回連続で幸福度ランキング日本一(日本総合研究所)を獲得した。共働き割合が全国1位、女性の就業率が全国2位など、日本一の共働き社会であるが、女性の仕事と子育ての両立を三世代同居・近居割合の高さが支えるとともに、全国トップクラスの学力・体力を生む教育、待機児童ゼロなど、充実した子育て環境が整っている。令和5年2月に本県で開催された全国初の「こども政策対話」でも、岸田首相から、「国がこれから目指すべきモデルケースである」と高く評価された。
令和4年2月には、日本一幸福な子育て県「ふく育県」を宣言し、全国でも類を見ない大胆な子育て応援の強化に取り組んできた。併せて、テレビCMやSNS等により県内外への発信を続けることにより、「ふく育県」の認知度は着実に高まりつつあると感じている。
「ゆりかごから巣立ちまで」の切れ目ない支援
子育て世帯を対象に実施した県民アンケート等では、理想とする子どもの数を持てない理由として、経済的な負担を懸念する声が多いことから、「ゆりかごから巣立ちまで」のライフステージを通した切れ目のない支援の実現が重要と考えている。
・日本一の不妊治療費助成
公的医療保険適用以前から本県独自の不妊治療支援を行ってきたが、令和4年の保険適用後もなお、自己負担額が高額との声を踏まえ、同年10月、1回の不妊治療の自己負担額が基本的に6万円を超えない「日本一の不妊治療費助成」を実現した。
「助成により希望する治療が受けられた」と利用者の約7割が回答し、治療件数は、前年度に比べ約4割程度増加の見込みである。今後も医師・胚培養士の育成も含めた総合的な支援により安心して不妊治療を受けられる体制を強化していく。
・日本一の男性育休支援
本県は共働き率が日本一である一方、子育ての負担が女性に偏る傾向にある。長期間の男性育休取得を強力に促進するため、1社あたり最大602万円を支給する日本一の奨励金制度を創設し、令和6年4月には企業の声を踏まえてさらに制度を拡充した。企業の実情を踏まえた支援策を引き続き展開し、男性による育児休業が当たり前の社会の実現を目指していく。
・日本一の"複育"応援
「ふく育県」として"複"数のこどもの"育"てる世帯への支援を大幅に拡充し、令和6年度から、第2子以降の保育料無償化や高校授業料無償化、在宅育児応援手当の支給にかかる所得制限を撤廃するとともに、県内大学等進学者への授業料減免制度を拡充することにより、「日本一の"複育"応援」を実現することとしている。
地域全体で若い世代を応援
一方、これまで本県の子育てを支えてきた三世代同居割合が低下するなか、経済的支援に加え、核家族やIターン世帯でも、安心して子育てできる環境のさらなる充実化により、「地域全体で」若い世代を応援する体制のさらなる強化が必要と考えている。
・ふく育さん、ふく育タクシー
夜間や休日等に安心して子どもの預かり等を任せることができるよう、県内では限定的であったベビーシッターサービスの普及を進めている。ふくい家事育児サポーター「ふく育さん」として、県から委託を受けた事務局が、緊急時の一時保育や家事サポート、リフレッシュ保育など、各家庭のニーズ応じた人材を派遣している。保育士や看護師など、専門資格を持つ方を中心に、県内全域が派遣可能エリアとなっている。
また、子どものみの送迎や妊婦の通院など、子育て世帯の外出を県がサポートするため、県内のタクシー事業者と協力し、県が認定するドライバーがサービスを提供する「ふく育タクシー」の運行を令和5年10月から県内全域で開始し、令和6年3月までに200件以上利用されている。
今後は、「ふく育さん」や「ふく育タクシー」をネット予約・電話等で簡単に一元的に申込みできるシステム整備を進めるとともに、お試し利用キャンペーンを展開し、利用者目線のサービス改善を図り、誰もが仕事・子育て等の希望をかなえられる社会を実現していく。
・母子保健の強化
妊娠期からの切れ目のない支援の拡充に向け、産後ケア事業の充実が必要と考えており、里帰り出産などの場合でも、市町を超えて利用できるよう、県内市町と医師会・助産師会による集合契約の締結を進めるとともに、現在は市町ごとにバラバラとなっている利用単価の統一化や、受入れ施設の拡充等に取り組んでいる。
加えて、本県独自の「気がかりな妊婦・親子を支援するための連携システム」により産科・精神科・行政が連携し、メンタル面も含めた妊産婦の早期支援を図るほか、新生児マススクリーニングや乳幼児健診の強化等、妊娠期から出産・子育て期の不安を解消し、母子ともに不安を抱えることなく生活できる環境の充実化を図っていく。
とことん「こども目線」で応援!
今後は、「こどもまんなか社会」の実現に向けた取り組みをさらに強化したいと考えており、その一環として、若手職員を課長相当職に登用する本県独自の制度を活用し、令和6年度から「こども応援ディレクター」を新設した。「とことん『こども目線』で応援!」をコンセプトに、県内のさまざまな境遇のこども・若者の意見発信・活動等への伴走支援を通じ、現場の視点に立ったこども・子育て応援施策を先導する司令塔として、こどもも親も幸せが実感できる「ふく育県」のさらなる強化に取り組んでいく。