2001年13月号 子どもを支える地域づくり
事例6 岐阜県飛騨市地域総がかりの「飛騨市学園構想」 ― 課題解決・探究学習通じ人々と関わる場をつくる ― 筆者 岐阜県飛騨市教育委員会 学校教育課課長補佐 下嶋健児 |
対話を重ね子どもの育ちを考える
飛騨市では、令和元年度より「飛騨市学園構想」を立ち上げ、社会(地域)総がかりで、予測困難な時代を生きる子どもたちに、幸福な人生と持続可能な社会の創り手となる力を育むための地域魅力化プロジェクトを進めています。「飛騨市学園構想」は、新たな学校をつくるものではなく、地域全体で子どもが育つための目標や風土を醸成し、飛騨市のどの地域、どの学校で育つ子にも、多様な場で、多様な人と関わる場をつくり、地域との協働や課題解決学習、探究学習を通して、資質・能力を育成しようとするものです。
そのために、保育園や学校、教育関係者はもちろん、地域住民が対話を重ねてきました。2019年度には、週1回のコアチームミーティング、2020年度からは、毎月一回の学園構想コア会議を開き、ビジョン作成や取り組み計画立案、100人を超える地域住民へのヒアリング等を行いました。
また、2020年度の学園構想推進会議では、推進員による推進委員会、地域学校協働本部連絡会、カリキュラム部会の三つの部会を開き、学園構想のビジョンの具体化に向けて対話を重ねました。(写真)
そこでは、飛騨市で育つ子にどんな子に育ってほしいか、どんな資質・能力が必要か、どのような活動があるとよいか等を話し合いました。さらには、飛騨市がどんな地域であるべきか、飛騨市の大人に求められるものは何かを考える必要があることに気づかされました。
さらに2021年度とその翌年には、「学びみらい会議」を開催し、講演会やパネルディスカッション、分科会を実施しました。市内外より150人を超える参加者があり、「人が育つ地域をどう創るか」をテーマに、地域の教育やあり方について考えるひと時となりました。基調講演では、文部科学省調査官や大学教授に学校と地域の協働について講話をしていただきました。分科会では、図書館やお寺など4会場に分かれ、地域で学べる環境づくりに挑戦しました。これらの対話や学びの場が、現在の飛騨市学園構想の礎になっているのは、間違いありません。
「飛騨市学園ビジョン」と3つのプロジェクト
前述の対話を通して、「飛騨市学園ビジョン」を作成しました。言わば、子どもの育ちの道筋から18歳までにつけたい力をまとめた「資質能力マップ」で、①15年間をつなぐ課題解決型学習(PBL)の実施②地域と学校の持続可能な協働体制の整備③多様な交流学習の推進―の観点から三つのプロジェクトを掲げています。これをもとに、幼児教育から高校まで、特別支援教育も含む先生方で話し合い、総合的な学習等のカリキュラムを編成し、工夫や改善を重ねています。
ビジョンでは、子どもたちが自分の関心や問題意識などからテーマや課題を設定し、解決方法を考え、計画や調査、分析等を行い、行動や提案をしていく課題解決型学習を重視しています。さらに、その過程で生じた新たな関心や課題の追究や、工夫した発信を行います。これらの学びは、多様な分野にわたる学びとなるため、地域との連携・協働が欠かせません。
この三つのプロジェクトをスタートさせた年はコロナ禍と重なり、計画の変更も多々ありました。しかし、「子どもたちのために、今何ができるか」という大人の探求(探究)が始まり、新しい活動もたくさん生まれました。子どもたちの願いを大切に、みんなで目的を共有し、身近なふるさとのよさや課題と向き合い、語り合い、知恵を出し合い、進んで行動する中で、賛同者も増えて輪が広がりました。その中で、「飛騨市学園構想と各校の取り組み」のような実践が生まれました。
子どもの思いをもとにした地域との協働による活動や学習
学校での学習だけではなく、地域学校協働本部が創意工夫して、地域での防災学習や学習支援、見守り活動やキャンプスクールなどの事業を展開しました。特に、子どもたちとともに地域の課題を見つめ、地域のよさや魅力を発信するイベントや販売会、ポスターやPR動画の作成、地域貢献活動等を行いました。これらの活動では、企画段階から子どもたちが地域とつながり、多様な人とコミュニケーションをとるなど、学園構想が目指している力を高める活動となりました。
昨年度は、新たに「探究フェス」を開催し、「ココロ踊る。スキに出会う。」をスローガンに講演や講座、ワークショップ、さらに児童生徒の探究発表を行いました。探究発表では、小学生によるSDGsの視点で地域資源を生かした提案や、中学生による地域の魅力や資源を生かした様々な視点での地域おこしや商品開発の提案発表がありました。また高校生は、キャラクターによる地域PRやロボットの専門的知識や技術を生かした提案発表を行いました。どの提案発表も、クイズや寸劇、歌、動画や実演を交えたアイデアや表現力が素晴らしかったです。
児童生徒は、多様な他者と関わり、協働することで、人間関係形成力を高めるとともに、情報活用能力や思考力・判断力、表現力などを身に付けることができます。何より、やりたいことができるワクワク感や学びへの意欲をもつことができ、課題解決や地域貢献を通して自己有用感や自己肯定感が生まれます。さらに地域の強みや魅力の再発見、新たなアイデアの創出などによる地域の活性化が期待できます。
今後は「飛騨市学園構想第2章」の取り組みによって「ひと・もの・こと」がつながり、幸福な人生と持続可能な社会の創り手である「志を語り合い しなやかに挑み続ける 飛騨びと」の育成を目指し続けていきたいと考えています。