2001年13月号 子どもを支える地域づくり
事例8 岡山県瀬戸内市楽しい移動遊び場「プレーカー」 ―みんなでつくる「こどもひろばプロジェクト」― 瀬戸内市こども・健康部こども家庭課参事 松田秀太郎 |
子育て世代の声から生まれた取り組み
「子連れでも出かけやすく楽しめる場所を増やしてほしい」―そんな子育て世代の声から生まれた取り組みをご紹介します。
瀬戸内市は、瀬戸内海に面した人口約3万6000人のまちです。本市では、自宅で遊ぶことが多い子どもたちのために、海水浴場や公共施設の芝生広場など市内のさまざまな場所で子どもたちが遊べる「こどもひろば」を臨時に開設したり、遊び道具や材料を積載した車両「移動遊び場『プレーカー』」が出動したりして、季節や場所の特性を生かした外遊びを楽しむ機会をつくっています。2020年からは、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえるまちの実現を目標とする「瀬戸内市こどもひろばプロジェクト」を展開し、取り組みを一層充実させてきました。
子育て世代を対象とした市のニーズ調査では、充実してほしい子育て支援策として、「子連れでも出かけやすく楽しめる場所を増やしてほしい(公園など)」との回答が、就学前の子どもを育てる保護者の81%からありました。全回答項目の中で最も高い数値です。ニーズ調査以外にも、公園の老朽化した遊具の新設や補修、新たな公園や遊び場の整備を求める声が届いていました。しかし、公園の整備には時間もお金もかかります。そこで考えたのが「こどもひろば」や「プレーカー」の導入です。
人のいるところに人は集まる
2016年から、多世代の市民の見守りや参加により、豊かな自然や地域の魅力など、あるものを生かした「こどもひろば」の取り組みを展開してきました。例えば海水浴場の砂浜を大きな砂場として楽しんだり、稲刈り後の田んぼで、収穫された新米をおにぎりにして食べたり、雨の日の開催では、公園の斜面にシートを敷いて天然のウォータースライダーとするなど、市民参画、みんなの創意工夫で実証的な取り組みを重ねました。
2020年には、「瀬戸内市こどもひろばプロジェクト」が始まりました。プロジェクトの理念は、「外遊びを楽しむまち。瀬戸内市」です。「こどもひろば」の展開を一層推進するとともに、遊びの道具や材料を積載した移動遊び場「プレーカー」を導入しました。
外遊びの普及に関する講演会の開催や遊びの環境づくりに関わる人材の養成などにも取り組み、「こどもひろば」は前年までの10倍となる年間70回を開催しました。この年にはまた、子どもの遊び場の整備や運営ノウハウに実績のある株式会社ボーネルンドと「瀬戸内こどもひろばパートナー協定」を締結。同社は「こどもひろば」の開催や「プレーカー」の立ち上げにも参画しました。
遊び場道具積み、市内各地に出動
「プレーカー」はもともとヨーロッパで導入が進んでいた仕組みです。大型バンや大型バスを改造した明るい車体色の車に、多彩な遊び道具を積載し各地を回る、そんな楽しい車です。導入に向けた計画段階では、プレーカーがけん引していく車両も検討しましたが、納期と運行技術が課題になり断念しました。
瀬戸内市のプレーカーは国の地方創生推進交付金を活用した軽バン2台です。リース契約ですが、「せとうちイエロー」と名付けた鮮やかな車体で、2020年に市内の社会福祉法人に委託し、運行を開始しました。保育園の子どもたちが、園の前を走る「プレーカー」を見つけて、運行スタッフに手を振る光景が見られます。
2023年度は、市民や民間団体や地域主体の公民連携のひろがり、まち独自のユニークな取り組みの認知もすすみ、「こどもひろば」は170回の開催、6000人を超える市民、ボランティアの方の参加となりました。
取り組みの中で大切にしているのが、主役は子どもということです。子どもにとって遊ぶことは、特別なものではなく、毎日のことです。子どもたちが、自ら発見し工夫しながら遊ぶ機会をもっとつくっていきたいと考えています。
少子化、核家族化など急速な社会状況の変化は、瀬戸内市も同じです。近年は子育て世帯の移住により、市全体では社会増の一方、世帯数の減少や高齢化による、地域の担い手不足を課題とする地区もあります。
「プレーカー」は、車両を停める場所があれば、いつでもどこでも遊び場になる手軽さがあります。開放的な屋外は、出入りがしやすく、家族連れ、お父さんの参加も多く、祭りなど地域のイベントとの連携も増えています。
また、みんなでつくる取り組みであり、参加者をお客さんにせず、準備や片付けもできるだけみんなで行うことを大切にしています。この積み重ねが、他人との関りを生み、地域とつながり関わるきっかけになっています。
いいまちには、あそびがある
人口規模が少ない地方は、商業施設の集積などの面で、都会の暮らしとくらべた選択肢が少ないと言われます。また、豊かで魅力的な自然はあるものの、生かしきれず、単なる背景と化していることを、もったいなく感じます。ハード整備は出来なくても、まちにあるものを見つけておもしろがり、みんなであそびを楽しむソフトの取り組みを続けていきたいと思います。
大変ありがたいことに、全国の多くの方から、個人版、企業版のふるさと納税のご寄付で、「瀬戸内市こどもひろばプロジェクト」を応援いただいています。瀬戸内市の「こどもひろば」は、どなたでも歓迎です、よろしければ参加ください。