2001年13月号 子どもを支える地域づくり
事例9 福岡県糸島市いっしょに作り、いっしょに食べる ー 大学生による無償の学習支援も ー 筆者 いとしまこども食堂ほっこり代表 笹渕 隆広 |
子どもたちが作るから「こども食堂」!~立ち上げの経緯~
きっかけは、中学生の子どもを持つ共働き世帯の保護者からの悩みでした。仕事から帰ってきても子どもが、お腹が空いたとしか言わない。家事、育児の大変さを家族にも分かって欲しい。と話されました。
子どもたちが大人になった時に困らないように、料理の基本的なことを教えよう、ご飯が炊けてみそ汁を作れれば、なんとか生きていけるのではないか。地域の子ども好きな方が集まり、料理を教え一緒に作る。それを地域の人たちが食べにくる。子どもたちが作るからこども食堂でよくないですか。とのアイデアに賛同した有志が集まり、2016年11月に始まりました。
キーワードは「一緒に!」~こども食堂リニューアルに向けて~
子どもたちが地域の多世代と触れ合い、交流することで、自尊感情が高まり、美味しいと食べてくれる人の笑顔を見て、自分も嬉しいと感じられる食堂となりました。
月に1回、開催するごとに反響が大きく、参加者が増えました。その中でボランティアさんの意見も大きく2つに分かれました。「私たちは自分たちの生活もあり、これ以上お客さんが増えると負担も大きい。ボランティアの領域を超えているのではないか。」「いやいや、たくさんの方々が喜んでくださっているので地域制限しなくても、人数制限しなくてもよいのではないか。」という意見。最終的には「何のために、誰のためにこども食堂をやっているのか。そこに参加者の思いは入っているのか、そして開催する私たちは何がしたいのか、お客さんに何を伝えたいのか、お客さんは私たちに何を望んでいるのか。」を明確にしました。
ほっこり食堂の名前はいくつかの候補の中からスタッフ、お客さん、地域の方からの投票で決まりました。「こころと体が温まり、満たされ、癒される。誰もが微笑ましい気持ちになれる、ワクワク、ドキドキする。」ところ。目的は、こどもの笑顔・尊厳を大切にし、こどもに寄り添い、こどもを真ん中に。自分のことは自分でやれるようになる。できないことは助けてもらう。やれることは協力する。そのためには多世代で触れ合い一緒に学ぶことで、全ての人の可能性を広げ、人間力の成長に繋げることとしました。
「いとしまこども食堂 ほっこり」の堂とほの間に半角スペースを入れたら。この半角スペースをみんなの優しい気持ちで埋めましょうと、中学生の頃から来ていた高校生が提案し、この「一緒に」という気持ちが地域の一体感を生み出しました。
こども食堂再開!~繋がること、みんなで一緒につくりあげる大切さ~
2019年新型コロナウイルス感染症が広がり、人が集まるこども食堂の開催ができなくなりました。しかし、新たな課題が見えました。親元を離れ自炊する大学生、仕事が無くなり生活に困窮する世帯、ひとり親世帯。そうした中、地元企業さんやJA糸島女性部さんから「できることを考えましょう、お腹と心を満たしましょう。食材配布をやりましょう」と、規格外の野菜や食品を必要な方にメッセージカードと共に届ける活動に変更しました。
こども食堂再開後は、目的の中に「食育と農育」を取り入れ、多世代が一緒に調理をし、ご飯を食べることで食の美味しさ、たのしさ、大切さ「つくる、たべる、かたづける」三つの重要性を伝え、子どもたちの成長の過程に健康的な生活習慣を育んでいます。
大学生もボランティアとして参加。孤立者を無くすためにスタッフもお客さんも身近に気になる方がいれば連れてくる。企画にはお客さんからもいろいろなアイデアをいただく。そして現在のような世代や性別、国籍、障がいの有無等を問わない、誰でも参加でき「実家に帰って来たような暖かさ」を感じられる拠りどころとなりました。
スタッフは小学2年生から87歳まで、年代も住んでいるところも仕事もさまざまです。
多世代が一緒に取り組むことで、共に成長できる学びの場となっています。
特に、大学生の無償での学習支援は、勉強することの大切さ、分かることの楽しさを教えるだけではなく、子どもたちの貧困という負の連鎖を断ち切る。「誰一人取り残されない社会の実現」ために欠かせないものとなっています。
私たちの願い~顔が見える安全・安心に過ごせる地域の実現に向けて~
子どもたちに「死にたいと思わせない・死なせない」という大きな目標があります。明日がどうなるか分からない世の中で、子どもたちが未来に夢や希望を持てる世の中にしたい。
ここで感じた優しさと思いやりを、いつか大人になった時に私たちにではなく、子ども達へ、地域へ、見返りを求めず、できるようになれたらと願います。
そして「安全・安心のまちづくり」に繋げていきたい。私は今、保護司をしています。過ちを犯した人の社会復帰、再犯防止を見守る役目です。近所付き合いが大切なこと、子どもは地域みんなで見守り育てること、それが子どもたちの非行防止、地域での犯罪抑止に繋がると信じています。
実現するために、様々な団体と連携を深め「インクルーシブな社会」をつくります。インクルーシブな社会とは「障がいのあるなし、年齢、見た目に影響されることなく、誰もがお互いの人格と個性を尊重し、支え合い、人々の多様な在り方をお互いに認め合える全員参画型の社会」だと認識しています。
人は出会って共感した人に大きな影響を受けます。子どもたちが「思いやりのある優しい心、偏見や差別をしない、許さない強い心」を持ち、未来に夢を持ち「生まれてきてよかった」と思えるような地域づくりをしていきます。