- ホーム
- 刊行物・情報提供
- 人材育成ガイドコーナー
- 地方公共団体独自で取り組む研修プログラム(長野県飯田市)
地方公共団体独自で取り組む研修プログラム(長野県飯田市)
高校・大学と連携した「地域人教育」
1 はじめに
人口減少や高齢化が進む中で、地域活動や産業、福祉、防災などを担う人材の不足は、全国の地方公共団体が共通して抱える課題になっている。特に地方都市では、若者が地域に触れる機会が限られ、進学や就職を機に地域との関係が薄れがちであることから、「地域で暮らすこと・働くこと・支えること」を具体的な経験として学ぶ仕組みが求められている。
単に地元を知識として学ぶだけではなく、地域の現場で人と出会い、課題の背景を理解し、小さなことでも自分で考えて行動してみる。そうした積み重ねが、将来のUターンや地域参画につながる。また、地域外に出た場合でも地域を応援し続ける「関係人口」のような関わりが期待される。
飯田市・松本大学・飯田OIDE長姫高校の三者で取り組む「地域人教育」は、こうした課題意識を背景に、地域を学びのフィールドとして捉え直すものである。本取組は、高校生が地域社会の一員としての視点を獲得することを目指している点に特徴がある。行政や大学、地域住民と連携しながら、「地域を知る」「地域の未来を描く」「地域の課題解決に向け行動する」と段階的に学びを深める設計である。
高校生にとっては、教室内の学びを越えて、地域のリアルな声や現場の制約に触れながら考える経験となる。一方、地域にとっては、若い世代の視点や提案が入ることで新たな気づきを得られる可能性がある。教育と地域づくりを同時に前進させる仕組みとして、本取組は注目に値する。
2 選定した理由
地域を学びの場にして「地域で自分は何ができるか」という考え方を育てる。その主要手段が実践学習である。飯田市には「ムトス」の精神(自ら考え行動する自治の文化)の価値観があり、高校・大学と公民館(市)が連携することで一貫した地域人教育を実現している。
地元を離れる前に地域参画の経験を積むことで、一度地元を離れても再び地元に戻る「地域愛」が醸成される。高校の授業として、3年間段階を踏んで地域愛を育てる手法が体系的に設計されている点を評価し、本稿の対象として選定した。
3 「地域人教育」の取組
(1)取組の経緯
松本大学のリヤカー商店の取組を、高校でも実施したいと考えた教師が発端である。平成24年に飯田長姫高校(当時)・松本大学・飯田市で協定を締結し、「地域人教育」開講式を実施した。その後、学校統合により飯田OIDE長姫高校となった後も同様の連携を継続し、成果発表会の定例開催、推進委員会の組織化など、仕組みとしての定着が図られてきた。
(2)取組の内容
学年ごとにテーマが整理されている。
1年次は、「地域を知る」を目標に、実践の前段として問題の気付き・解決の手法についての講義や、地域を知るための講義を受講する。実践では現地調査を行い、松本市と飯田市の中心市街地において地域の魅力や課題を考える。
2年次では、「地域の未来を描く」ことが目標
となる。1年次で得た地域理解を踏まえ、より具体的に地域の活動・仕事に触れる。活動としてはプレゼンテーション技法などの講義に加え、地域イベント参加型インターンシップの実施によって、世代を超えた協働を実施する。これにより、地域側にとっても、受け入れを通じて若者の視点を得たり、活動の魅力を伝えたりする機会になる。
3年次は取組の核であり、「地域の課題解決に向け行動する」ことを目標とする。少人数グループごとに担当地区を割り当て、調査→仮説→実践→検証→発信までを一連で行う。ここで重要なのは、地域課題を「調べてまとめる」だけで終わらせない点である。地域の人々と対話しながら実現可能な範囲で行動し、結果を振り返り発表するところまでを学習に含めることで、学びとして成立させている。高校生にとっては「地域で何かを動かす」という貴重な経験を得る機会となる。一方で、関係者調整や移動、安全管理など運営負荷が高くなるため、学校・地域・大学の役割分担が機能することが不可欠である。
(3)取組の運営
運営の前提として、飯田市・松本大学・飯田OIDE長姫高校の三者協定により相互協力体制を構築している。
飯田市には、公民館を核にした学びと自治の土壌があり、地域側の協力体制を構築しやすいという特徴がある。
公民館が地域とつなぎ、学校側は日々の指導を担い、大学側は学術的視点や方法論等の後方支援を行う形で、現場と学びをつなげる運営がなされている。
(4)取組の特徴
地域の価値観(「ムトス」の精神)を教育内容の中核に据えている点が特徴的である。住民との関わりを通じて、地域で起きている課題に対して自分は何ができるのかを考え、実行する力が身につく。
(5)取組の成果
高校生に対する成果としては、人前で自分を表現
することで、話す力や発信力が身に付くことが挙げられる。さらに、答えのない課題に対して、自ら考えて動く力も身につく。実際に、地域の良さを知った生徒たちが、地域人教育以外で地域に関わるようになったという事例もある。
また、地域への愛着(シビックプライド)が高まっていることが、卒業時のアンケートにおいて示されている。
地域に対する成果としては、高校生と一緒に事業をやっていこうという機運が醸成されつつある。
4 今後の展望について
飯田市の取組は画期的ではあるものの、授業準備・引率・安全管理などが重なると、高校の担当教員の熱意や努力に頼る部分が大きい運用となり、継続性や質の確保が難しくなる。
高校生にどのような学びを保障したいのかを起点に、学校と公民館が目的と意義を共有し直すことが、継続に向けた第一歩となる。
地域人教育を今後も持続可能な取組とするためには、実践の中心となる担当者の負担が特定の個人に集中しない仕組みづくりが求められる。
5 執筆者の所感
飯田市の取組は、制度の形だけを他地域が模倣しても同様の成果につながるとは限らない。なぜなら地域と行政の距離が近く、行政が地域の「顔つなぎ役」として協働していく土壌があるという市の特長が、取組を機能させる前提条件として大きな要因となっているからである。また、地域住民の受容性が高く、地域で子供を育てようという文化がある点も大きな強みである。
本取組のポイントは、地域のニーズを聞いて終わりとしないことである。地域の担い手や教育機関と対話を重ね、その地方公共団体ならではの強みや資源に結びつけて施策として磨き上げていくプロセスが重要である。各地方公共団体においては、制度を移植するのではなく、まず関係づくりと協働の仕組み(調整役・意思決定の場・情報共有)を整えた上で、自地域の強みを起点に設計することが重要である。
執筆者
企画・人材育成グループ 浅村 里美(東京都中野区から派遣)